今日からオープン!①
12日目の朝。
やけに騒がしい声の中、目を覚ます。
うるせぇな…。
早くダンジョンコアに属性付けて、マスタールームでの騒がしい目覚めから開放されたい…。
いや、そうなると起きる自信がないか…。ぼんやり辺りを見回すと、何故か俺の服がある…?
「うおっ?」
上半身裸だった!
うおー、皆が集まるテーブルと、ベッドの間が仕切られてて助かった!
そっか…昨日の訓練が過酷過ぎて、回復温泉の後、髪乾かしてる辺りから記憶ないな…。多分、途中で気絶したんだろう。モゾモゾと服を着ていると、ゼロから声がかかる。
「ハクー、ゴハンの準備できてるよ。そろそろ起きなよ」
「んー…、今行く…」
ヨロヨロて出て行くと、カエンは呆れた目をしていた。
「…いつもの事だけどなぁ…お前、マスターに毎朝起こして貰うっての、ダンジョンモンスターとしてどうなんだぁ?」
…返す言葉もない。
しかも、ゼロより早く起きる自信もカケラもない…。そこにルリが追い打ちをかける。
「せめて服くらい着て寝なさいよね」
くっ…見られてたし!
「気にしてないし、別にいいけど。夜は僕の方が早く寝てる時多いから、ちょうどいいんじゃない?」
ありがとう、ゼロ!
俺は本当~に、マスターに恵まれた!
ゼロはカエンから「あんま、甘やかすな」と小突かれているが、俺はマスターの指示に素直に従うぜ。
「なぁ、それよりさ。さっき何の話してたんだ?結構騒がしかったけど」
「ああ、お前達が召喚した、エアドラゴンの話だ」
カエンの返しに、ブラウがぷーっと頬を膨らませる。
「違うじゃんか!その流れで、カエンが龍になったとこが見たい、って話だったじゃん!」
えっ!それは俺も見たいな。
でも、カエンは苦り切った顔をしている。
「だぁから、ダメだっつってんだろうが。第一、ここじゃ俺様の身体が入りきらねぇ」
「えっ、じゃあエアドラゴンのボスフィールドは?」
「ムリだな。言っとくが、ドラゴン形態の俺様はデカいし、ゴツいし、強そう感なんかハンパねぇぞ?見た後でブルって、口も聞けなくなる事請け合いだ」
……なるほど、イヤな思い出でもあるのかも知れない。俺はゼロに目配せした。
「そっかぁ、じゃあムリだね。ブラウもあんまりワガママ言っちゃダメだよ?」
え~…、と言いながらも、ゼロの言う事には素直に従うブラウ。それを見て、カエンはそそくさと帰ってしまった。よっぽど触れたくない話題だったんだな。
「そう言えば、マーリン。昨日ネズミの獣人来ただろ?どうだ?」
するとマーリンは、これまでにない笑顔を見せた。
「ゼロ様にはもうお話ししたんですけど、あの子凄いんですぅ!」
凄い勢いで褒め始める。
「錬金で使う植物なんて、あんまり知らない人多いのに、知識も豊富だし、昨日全部植え替えやってくれて、今朝起きたら、植物の伸びが明らかに違うんですぅ!」
よっぽど凄腕らしい。
あの、おどおどした白ネズミがねぇ…。人は見かけによらないとは、この事だな。とにかく良かった。上機嫌で錬金部屋に帰っていくマーリン。ブラウも慌ててついて行った。
俺はフレンチトーストとベーコンエッグ、ミルクの朝食らしい朝食を食いながら、次の疑問を口にする。
「ゼロ、キーツとウサギの獣人は大丈夫なのか?っていうか、名前付けたか?」
「名前は付けた。ウサギはイナバ、リスはリィ、天使はノエルだよ」
いよいよ覚える自信がなくなってきたな。
「キーツとイナバは…まだ大丈夫かわかんないな…。」
ゼロが自信なさそうに答える。
カフェからは、あのお調子者のイナバが奏でているとは思えない、美しいピアノの旋律が聞こえていて、優雅な朝の風景に見えるんだけどな。
「イナバだっけ?あのウサギちゃんは、わ、わ、わ、私めは平気でございますよ!?って言ってたわよ」
明らかに大丈夫じゃねぇな…。
「キーツも、イナバが頑張るっていうから、一回やってみるって言うんだけど…。どっちが良いのか迷うよね。マスタールームも人手不足だから、キーツはマスタールームからアナウンスして貰おうかなぁ」
ゼロも本気で迷っているようだ。
「…だな。別にムリしてカフェでやらなくてもいいだろ。ちょっと二人呼んで、話してみれば?」
「…そうだよね!」
ゼロは吹っ切れたみたいだ。
早速キーツとイナバをマスタールームに呼ぶと、人手不足解消も兼ねて、キーツにはマスタールームからアナウンスして貰う事を告げた。
キーツはホッとした表情だ。
なのに、意外な事に、お調子者:イナバがポロポロと涙をこぼしながら震えている。キーツは、ほとほと困った顔でイナバから距離をとった。
「ごめんなぁ、オレ、近かったぁ?今日からオレ、マスタールームに行くし、もう大丈夫だからぁ…泣くなって」
イナバは一層泣き始めた。
もはや号泣だ。
「違います!わ…私めは、自分が情けないのでございます…っ」
耳までしょんぼりして、フルフルと小刻みに震えている。
「キーツさんは、昨日からずっと気遣ってくれております。…優しい方だというのに、失礼にも…震えが止まらないのでございます…」
キーツは遠くから慰める。
「だからぁ、気にすんなってぇ。本能だからしょうがないっしょ~。マスターも分かってくれてるからぁ」
「うん、大丈夫だよ。それに、イナバが怖くても頑張ろうとしてくれたの、嬉しかったよ。でも、マスタールームが人手不足なのもホントだから」
ゼロがそう言っても、イナバの涙は止まらない。よっぽど悔しいんだろう。
「き…今日だけでも、チャンスを…頂きたいのでございます…!ちゃんとやり遂げてご覧に入れます!」
単にお調子者だとばっかり思っていたら、なかなか根性あるじゃないか。
「このままだと、私めはキーツさんにとって、失礼なウサギのままでございます。これからも、良き仲間でいたいのでございます…!」
キーツは、オレ、失礼だとか思ってないからぁ…と呟いているが、イナバの気持ちが通じたのか、ゼロの方をチラチラ見始めた。もうこれは、イナバの気持ちを汲んでやるしかない。満場一致で、キーツはカフェに戻す事になった。
あいつら、いいコンビになるかもしれない。朝からちょっとした友情物語を見ていたら、兵士達が来る時間になってしまった。
バターン!と、ギルドからの扉が開き、軽鎧を着込んだ兵士達が、列をなして入ってくる。
ああ…今日はカルアさんすらいない。
行きたくない…。
先頭のゴツい男が、受付のシルキーちゃんに話しかけている。…と思ったら、通信機から呼び出しが入る。早速嬉しくない方向で役に立ったな、この通信機…。




