ダンジョンボス、召喚!④
早速召喚。スラっちは結局ボス続投らしいから、エアドラゴンは俺の代わりにキング・ロードに配置される事になった。
さすがにデカくて、マスタールームには召喚できず、直でダンジョンに召喚。モニターから見えるエメラルドグリーンの体躯。デカい翼は、広げるとボス部屋の半分程を占めている。
「あちゃー。部屋、広くしないとムリじゃねぇか?」
あれじゃ飛び回れないから、攻撃力半減だ。
だだっ広い空間に、ここにも崖を模したフィールドを造る。一気に難易度が上がった気もするが、視覚的に面白いバトルが見れそうだ。エアドラゴンも強そうでいい!
そしてもう一人、狐の獣人はマスタールームに召喚する。さぁ、今度はどんなヤツかな?
現れたのは、ひと目で狐の獣人だとわかる、細身の男。ピンとたった耳、ふっさふさのシッポ。サラサラのストレート金髪に切れ長の目、もちろんイケメンだ。
スキル:アナウンス(実況中継)の実力やいかに…!ムダにドキドキするな…。
「おっ?オレ、もしか召喚されちゃった~?」
男は髪をかきあげながら、ヘラっと笑う。
「え~?誰がオレのマスター?おっ、君はエルフ?可愛いねぇ」
絶えず話しかけながら、一人ひとり、顔を覗き込んでは握手している。
………なんだ!?
このチャラい感じ…!
ゼロがマスターだと分かると、ゼロを盛大に褒め始め、ルリにも女性に贈る賛辞を惜しげなく発揮している。
聞いているこっちが恥ずかしいくらいだ。ルリでさえ、ちょっとヒいてるしな。う~ん…確かに口の回りは異常に早いし、頭の回転も早そうだが、手も早そうだ。
しかも、俺の実況中継イメージとなんか、かなり違うが大丈夫だろうか…。
「ちょっとイメージと違うけど、多分大丈夫だよね…?」
ゼロも一抹の不安があるようだ。
まぁ、俺も色んな意味で不安だが…。それでもやってみて貰うしかない。そのために召喚したんだし。
「名前、つけてやったのか?」
「うん、カフェに居てもらうなら、やっぱりお客様に呼ばれる事もあるだろうし。えっとね、キーツって名前だよ」
「そっか。…あ、そういやぁ、そういう意味だとあのウサギにも名前いるかもな。いや、リスとか見習い天使:男とかは、スキル教室講師だから、もっと必要か」
「ホントだ。名前つけなきゃ」
キーツのおかげで、割と大事な事に気付けたな。
「先・輩っ!キーツでーす!よろしくぅ!」
うわっ!チャラ男こっちに来た!
こういうタイプ、慣れてない…。
ヤバい。どう扱えばいいんだ?
頭の中にどうでもいい事が駆け巡る。
「先輩、マスターと仲イイっすね~!尊敬しちゃうなぁ。種族はぁ?」
「種族は龍人だ。でも先輩って…あんたの方が年上に見えるけど?」
見た目20才前後には見える。
俺が龍人だと知ったチャラ男は、今度は盛大に龍人を褒め始めた。
めんどくさいヤツでちゃったな…。
いつまでもこいつのおべっかを聞いてても、時間のムダだ。俺はさっさと指示を出す事に決めた。
「俺の事はハクって呼んでくれ。チャ…えーと…キーツ?の役目は、明日オープンするダンジョンの、司会だ」
簡単に、このダンジョンが冒険者達の訓練施設で、その様子を観客がモニターで観戦する仕組みである事を説明する。
「ヘェ~、面白いじゃないっすかぁ。オレ、それの司会とか実況とかのイメージ?」
「そう!ノリノリで盛り上げてくれる人が欲しくて!」
ゼロが期待を込めた目で、キーツを見る。
「任せといて~!オレ、頑張るよ?ね、観客の客層って男中心?」
「この前は男6割、女4割程度だった」
思ったより女性が多かったのは、王子様の功績だろう。
「んじゃあ、あんまり格闘技レベルまで寄せない方がイイかもね~。ちょっとテイスト考えてみるから、安心して?」
仕事の話になると、少し落ち着いた印象になる。ちょっと安心した。
「カフェに、お前の相棒になる音楽家のウサギの獣人がいる。明日に向けて打ち合わせしといてくれ」
そう言うと、何故かキーツは微妙な顔をした。
「?どうかしたか?」
「いや…ウサギの獣人には、無条件で嫌われるっていうか…ビクつかれちゃうっていうか」
キーツは眉を下げ、参ったな~と頭を掻いている。
「ほら、元になってる動物が捕食関係にあるでしょ~?遺伝子がもう怖がってるっちゅーか、どうしようもないみたいで」
見てて可哀想だからぁ、と困った顔。
どうやらチャラいが、悪いヤツではないらしい。
「ま、ウサギもお調子者過ぎるから、ビクつくくらいでちょうどいいかも知れねぇし。とりあえず一回ヤツと話してみろよ」
「そうだね。どうしても難しそうなら、配置考えなおすからね?」
キーツは「リョーカイ!」とウインクすると、カフェに移動した。
うまく行ってくれるといいけど…。
それを合図に、ルリはスキル教室に向かった。エルフ達の様子を見に行くらしい。
俺達は、スタッフ同士だけの通信手段の確保と、ダンジョンに配置するモンスターの再選出だ。俺がカタログで通信機器を調べる間に、ゼロがモンスターを検討する。
特にキング・ロードは、この前はモンスターのレベルを一時的に上げて対応したが、本当はレベル1でも実力が拮抗するモンスターを配置したいところだからだ。
「ハっ…ハクっ!ハクっ!た、大変っ!」
ダンジョンコアに向かったゼロが急に叫ぶ。
「どうした?」
「スっ…スライムが、進化したっ!」
へっ…?なんで?
ポカンとする俺に、ゼロがまくしたてる。
「回復温泉と、聖なる泉のスライムだよっ!やっぱり進化したっ!」
えっ…ああ、そう言えば…。
ダンジョンできて4日目くらいだったか?スラっちに魔法を教え始めた日、回復温泉と聖なる泉に、ゼロが1体ずつスライムを入れてたけど…。
あれ、スライムの進化実験だったのか?
ゼロは素早くステータスを確認する。
「わぁ、回復温泉のがヒールスライムだって!回復魔法が使えるみたい。えーと…聖なる泉のがホーリースライムで…魔法はライトとホーリーだって。わかる?」
「ああ…両方とも聖魔法だ。ライトは単体攻撃魔法で、ホーリーはレイスとかの不死系モンスターにダメージ与えられる」
聖魔法とか、結構習得難しい筈なんだが…。マジですげぇな、スライム。
軽く感動してたら、隣から「ふふふふふ…」と不気味な笑いが聞こえてくる。
「ゼ…ゼロ?…どうした?」
「いや、嬉しくって!スラっちがレベル32のステータスのまま、進化したじゃない?で、そのステータス引き継いで、分裂したからさ」
確かにそうだったが…。
「試しにこの子達もレベル上げといたんだ。見てよこのステータス!」
すげぇ…。
俺の初期レベルより断然強いし。
そして、ゼロの勝ち誇ったような笑顔って始めて見たな。
早速キング・ロードに配置された元スライム達。きっとまた、冒険者達の度肝を抜いてくれるだろう。
「なぁゼロ、ちょっとゼロのステータス見てみようぜ?」
「えっ?なんで?」
「ずいぶん見てねぇし、なんか多分、称号増えてる気がする」
…ていうか、なんか色々凄くなってそうな気がする。めっちゃ見たい!




