ダンジョンボス、召喚!②
「この後依頼をこなすなら、今日は2時間だけだ。ここで力使い果たして、肝心の依頼が疎かになるのは本末転倒だからな」
「回復温泉があるから、大丈夫です!」
…ホント、言う事聞きやしねぇ。
「俺に習いたいなら、俺の言う事には絶対服従だ。俺は別に教える義理もねぇからな」
「分かりました!師匠!」
イラっと来たから、ちょっと意地悪してみたら、いきなり素直になった。
レイのスイッチ発見だ!
これでちょっとはやり易くなるな。
たっぷり2時間、稽古をつける。
異常に素直になって気持ち悪いが、すごくやり易くなったから文句はない。
しかも昨日に比べて、俺の攻撃を防御出来る回数が、目に見えて増えてきた。本当に上達が早い。せっかくだから、やることをレベルアップしてやった。
「よし!こっからは、防御は左手だけだ!」
慣れてくれば、右手で剣を持ったまま、防御もこなせるようになるだろう。
「よし!ここまでだ。回復温泉に入ってから帰れよ。ムリは禁物だ」
ちょっと師匠らしく言う俺。
「はい!ありがとうございました!明日また来ます!」
………へ?
「…お前、泊りがけの依頼に行くって、言ったよな?」
「多分、夕方には戻れます!」
こいつが一人で行動する意味を、今初めて本当に理解した。この底知れぬ気力と体力。…周りのヤツらは、さぞ振り回されただろう。
「いや、明日ここ、オープン日だから、俺も忙しいっつーか…」
「師匠の体が空くまで、ちゃんと待ちます!夜でも大丈夫です!」
ひぇぇ…。何?このやる気。
大変なヤツに目をつけられた事を実感。仕方なく明日の約束をして今日の特訓を終了し、回復温泉に向かうレイの後ろ姿を見ながら、俺は大きくため息をついた…。
マスタールームに戻ると、すでにカエンはギルドに帰り、マーリンとブラウは錬金部屋に籠った後だった。マスタールームに残っていたのは、ゼロとルリ、ユキ、スラっちだけだ。
「あ、お帰り。お疲れ!」
「レイ君、頑張るわね。レベルがもう8になってるんですって。凄いスピードよね」
はぁ!?
おとといプリンセス・ロードにチャレンジした時は、確かレベル5だった筈だ。
魔法戦士な上に、今や格闘スキルも身につけ、このスピードでレベルアップ。まだ15~6歳という年令を考えると、末恐ろしい。こういう規格外 なヤツが、将来勇者と呼ばれたりするのかも知れない。
ただ、今の俺には、将来勇者になるかもな男の事より、明日の自分の扱いの方が重要だ。
「結局ダンジョンボスの件、どうなった?」
皆、居心地悪そうに、お互いをチラチラ見合っている。それだけで、俺がボスってセンはないな、と分かる。せめて1回でいいから戦いたかったな…。
肩を落とした俺に、ゼロが申し訳なさそうに提案する。
「えーと…今回はボスは召喚しようと思うんだけど。でも、ハクも戦いたいだろうから…。それでさ、自分でポイント貯めて、変化のピアス、買ったらどうかな?」
「………?」
意味がわからない。
「えっとね。今ハク、格闘スキル教えてるじゃない?カエンがね、その話を王宮でしたら、兵士達にも格闘スキルを教育して欲しい、って王様達が言ってるんだって」
…あのムサい集団を、俺一人で鍛えろと?絶対にイヤだ。
「レイじゃないけど、武器がない時一番役にたつのは、格闘スキルだものねぇ」
ルリが言う事は理解出来るけど、そんなのカエンが直に教えてやれよ。
…この国の守護龍なんだし。
心の中で色々反論していたら、ゼロがついに提案の核心に触れた。
「ハクが兵士さん達に稽古つければさ、毎日確実に撃退ポイントがたっぷり入るじゃない?それを貯めれば、50000ポイント、意外にすぐに貯まるんじゃない?」
ついにゼロの「餌で釣ろう作戦」が、俺に発動される時がきたか…。
どうする!?俺!
必死で考える。普通に考えればやれば良いに来まってる。だが、ムッサい兵士達を集団で相手する、俺の精神的ダメージを真剣に考慮しないとな…。
「もう!ボスになりたいんでしょ!?しのごの考えずにやりなさいよ!根性無し!」
ルリの容赦ない罵倒がとぶ。俺には悩む事さえ許されねぇのか…。
ユキが、つぶらな瞳で走り寄って来てくれる。さすが癒し系…!
…と思ったら、目の前で人型に変化。
「頑張って!」
がっくりくるが、ユキに悪気はない。
純粋な応援だ。
ダンジョンの営業時間は、13時~17時までの4時間。俺は明日から、昼前の1時間はムサ兵士達の特訓、昼からはマスタールームでモニターチェックの毎日だ。…萎えるなぁ…。
しょんぼりしながら昼メシ。今日はフワフワ玉子のオムライスだ。あんまり不景気な顔をしていたのか、ついにルリに怒られてしまった。
「ちょっと!そろそろ気持ち切り替えてよ。今日はまだまだやる事があるんだから!」
いつも適当なルリに怒られるのは、俺だって心外だ。しっかりしろ、俺!と自分を叱咤。
「そうだな、悪ぃ。…午後からはボスモンスターの召喚だよな。他にもやる事あるか?」
「う~ん、まずは場内アナウンスしてくれる人、召喚したいかなぁ。盛り上げるためにも、ノリがいいアナウンスがあった方がいいし」
「キレーな声の美人な」
「ん~…イメージはどっちかって言うと、格闘技実況系のハリのある男声?」
「………」
正しい判断だとは思うが…職場に、華が欲しい…。
「別にゼロでいいじゃない」
「僕じゃノリが足りないし。なんかもっと派手~な、ノリノリのアナウンスが欲しいんだよ~」
「そうだ!スキルチケット使えばいいんじゃない?」
ルリの心ない提案に、ゼロはあんまり見ない、心底嫌そうな顔をした。まぁ、俺も実況レベルでノリノリにアナウンスするゼロは気持ち悪いけどな。
「せっかくのスキルチケットなのに…そんなのに使いたくないよ…」
結局、ノリの良さそうなヤツを召喚する事になった。召喚出来るモンスターの一覧を流し見る俺達。う~ん…。
「なんか今ひとつパッとしねぇな」
「人間だったら普通にいけそうだけど…ちょっとツマンナイわよね」
かと言って、ゼロのレベルが上がらないと、召喚出来るモンスターはこれ以上増えねぇしな。…この中なら…。
「あっ…」
ゼロが小さく声をあげた。




