ダンジョンボス、召喚!①
11日目の朝。
俺は、熱い議論を交わす声で目が覚めた。
「やっぱりスラっちでしょー!」
ん…何が、やっぱりスラっちなんだ?
「えーっ!ボスはやっぱデカくてゴツくて、強そうなのがいいじゃん!」
ブラウが珍しく力説している。
…今日は、ダンジョンボスをどうするかが議題みたいだな。
「あ、おはよう、ハク」
「んー…おはよ。白熱してんなぁ」
「ダンジョンボスをそのままでいくか、召喚するか、意見が分かれちゃって」
ゼロが困り果てた顔をする横で、カエンは楽しそうに茶々を入れている。
「スラっちだけじゃなくて、あんたも議題に登ってるのよ?」
人ごとじゃないんだから、とルリに念押しされる。
「俺も!?まだ1回も戦ってないのに!?」
酷くないか?それ!
「う~ん。ハクはね、完全に見た目人間でしょ?冒険者が戦いにくかったり、観客がどう思うかもあるよね…って話が出ててさ」
ゼロが申し訳なさそうに説明する。
確かにそうだけど!
「鎧でも仮面でも、なんでも着けるから!」
「人型に変わりねぇだろ!」
食い下がる俺を、爆笑と共に一刀両断するカエン。
まだまだ白龍に変化するにはレベルが全然足りねぇし…。でも、どうしても俺も戦いたい。なんか方法がねぇのか…。
人間に見えなきゃいいだけなのにな…。
「…そうか!何でもいいから変化できりゃいいんだよ!」
閃いた!多分、いける!
「ゼロ、なんかさ、変化出来るアイテムとか無いか?この際、そういうスキルでも、モンスターでもいい!」
勢いこんで言ったら、ゼロには軽くひかれ、ルリにも呆れられてしまった。
…だって、これでも俺は、このダンジョンで一番の戦力なんだ。少しは戦闘で役に立ちたいんだよ。俺の気持ちを察してくれたのか、ゼロがダンジョンコアに向かい、あれこれと調べてくれた。
「あ!変化のピアスってのがある!」
マジで!?
俺、思わずガッツポーズ!!
「あ……でも、これ……。50000ポイントだって」
マジか…。
がっくりとうなだれる。
さすがに、俺のわがままで消費出来るポイントじゃない。50000はムリだ…。
「……さすがに、ムリだな…」
すごすごと引き下がるしかない。
ゼロをムダに困らせる気はないしな…。
その時だ。
バターン!!
という派手な音をたてて、ギルドに続く扉が勢いよく開いた。カフェに乱入してきたのは、見覚えのある冒険者。
「すいませーん!師匠、居ますかー!?」
ええ!?レイ?なんで!?
朝っぱらから、何なんだこいつは!
カエン、大爆笑。
「し、師匠…!お呼びだぜぇ?」
「行ってらっしゃーい!」
皆の爆笑に見送られ、しぶしぶとカフェに向かう俺。…かなり迷惑なんだが!
「あっ!師匠!」
「…その師匠っての、やめてくれ。俺、ハク。今日はどうしたんだよ」
思わずぶっきらぼうな言い方になってしまった。俺も大人げないな…。
「師匠は師匠です!今日は、昨日の続きを習いに来ました!お金払えば、続きが受講出来るようになるって聞いたんで」
…あいつらめ…!
脳裏にエルフ達の小綺麗な顔が浮かぶ。
第二の犠牲者は俺か…。
「あー…、悪ぃがそれはまだ始めてないんだよ。あさってから、な」
「待てません!!」
何こいつ!
師匠と崇めつつ、一切言う事聞かないんだが。イライラしつつレイを睨む。
「か・え・れ!」
「そんな事言わずに、お願いします!師匠!」
…土下座された…。
「俺、今日は午後から泊りがけのクエストなんです。クエストも修行も両方やりたいんです!」
「お前、俺の都合も考えろよ…」
しかし、どんだけ鍛える気だよ。
半分呆れ、もう半分はちょっと尊敬する。
「………だめ、ですか?」
…ちっ、押してダメなら引いてみろとばかりに、殊勝な態度にでたな。土下座を腕組みで見下ろしてる俺が、酷いヤツみたいじゃないか!
「…しょーがねぇな、もう…。ちょっと待ってろ。相談してくる」
言って踵を返し、俺はマスタールームに向かった。後ろから「ありがとうございます!!」と叫び声。まだ、やるとは言ってないけどな。
ああ、マスタールームに戻るのも憂鬱だ。散々からかわれた上、爆笑されるだろう。
「よっ!師匠!」
「あんな美少年、土下座させるんじゃないわよ。羨ましい…」
「可哀想ですぅ」
「稽古ぐらいつけてやれよー!」
案の定、口々に好き勝手な事を言ってくる。俺はとりあえず、癒しを求めてワンコ状態のユキをナデナデする。
「まぁまぁ、ハク、了解とりに来たんでしょ?いいよ。やっておいでよ」
俺の味方はゼロだけだな。
でも、話が早過ぎだ。もう戻ってレイの相手するのか…。
ダンジョンボスの話にも、できれば加わりたかったな…。
どう決まってしまうのか心配だが、もう行かないワケにもいかないし。名残り惜しいが、レイの元へ戻る。
レイは、期待に満ちた目でガン見してくる。
「よし、やるぞ。昨日の練兵場へ行け」
「!!!ありがとうございます!!」
ぱぁっと笑顔になって、練兵場へ猛ダッシュ。…どれだけ嬉しいんだよ。
あんな、コテンパンにのされるだけの訓練を、これ程喜んでやるヤツの気が知れない。
Mなんじゃねーのか?




