ダンジョン、改良。①
ぶっちゃけよく分からない所が多いが、トレーニングルームも面白いのが出来てたし。俺は文句はない。
「いいんじゃねぇの?この自販機っての、使ってみたいし」
「うん、自販機はホント便利だよ~!じゃ、早速造るね」
ゼロの召喚は相変わらず迷いがない。
カフェの中央に避難しているシルキーちゃんやチビ達の目の前で、デカい機材が次々と設置されていく。
ドシーン!ドシーン!と設置されるのを、寄り添いあって見ているチビ達。
ローラ、トマス、マークの3人を、ナギが守るように抱きしめている。ナギは基本生意気だが、本当に3人には甘い。見てて微笑ましい限りだ。
それにしてもチビ達、目を見開いて見ているが、かなりビビってるんじゃ…。
今夜うなされたりしないだろうか…。
召喚が終わると、ゼロは満足そうに頷いた。どうやら、思い通りの出来らしい。
「使い方、説明しなきゃだよね」
早速カフェに移動する。
カフェではまだ、全員が寄り添いあって、固まっていた。俺達を見てホッとした顔をするあたり、かなり怖かったらしい。
可哀想に…。
早速ゼロが、嬉しそうに自販機の前に立 つ。皆を集めて、操作説明。
「ここの穴に、お金を入れまーす。で、飲みたいものを選んで、その下のボタンを押すだけ」
ゼロがボタンを押すと同時に、紙のコップが出て来て、次いで水が注がれる音がする。
ゼロは自販機からコップを取り出すと、美味しそうに飲み干した。
「すげぇ!今の、何!?」
「どうやったの!?」
トマスもローラも興味津々だ。ゼロからお金を貰って、自販機をわくわくと見ている。
「何が飲みたい?あっ、こっちの自販機はこれが飲み物。次がお菓子。その次がアイスクリームだよ」
さらに、反対側の壁際に設置された自販機を指差した。
「あっちはね、飲み物が2つと、もう一つはなんと、薬草とかの自販機だよ!」
自慢げに説明するゼロ。
俺達もシルキーちゃん達も、ため息しかでない。世の中、便利なモンがあるんだな…。
子供達が満足するのを待って、試食。
普通に美味いな、マジで…。
次はカフェの厨房前に取り付けられた受付カウンターみたいなものの説明だ。
これまでみたいに、シルキーちゃん達が歩き回って注文をとるスタイルではなく、お客様がカウンターにくる仕組みらしい。
カウンターは透明なショーケースになっていて、ストックがあるものなら、その場で渡してしまえる。容器も紙だから回収も必要ない。しっかりした食事のみ、テーブルに運べばいいらしい。
確かにこれなら、人数も増やさなくて良さそうだ。
他にも厨房が使いやすいように、色々機材が増えている。ゼロの説明を一通り受けたシルキーちゃん達は、嬉しそうにあれこれ触ってみては、歓声をあげる。
きっと、明日1日かけて、新しい機材を使っての接客を研究してくれるだろう。
カフェはもう問題ないと判断し、俺達はマスタールームに戻る。
今日は検討課題が目白押しだからだ。当面の問題は人員配置だな。
プリンス・ロードの店に配置していた二人分、どこにまわすか…。
「ねぇ、見習い天使とかリスちゃんとかって、スキルはどうなの?」
ルリの素朴な疑問。…確かに、見てないな。
早速ゼロに調べて貰う。
見習い天使:男は回復魔術と槍、見習い天使:女は回復魔術と弓、そしてリスは…木属性魔術と、なんとパチンコをスキルとして持っていた。
「パチンコ…?リスちゃんが…?か、可愛い…!」
ルリは笑いをこらえている。
確かに可愛いが、スキルとしては結構珍しい。結局リスと見習い天使:男は、スキル教室の講師に組み入れる事になった。
「ねぇ、そろそろスキル教室、本気で考えなきゃだよね」
う~ん…俺はあんまり乗り気じゃない。
ダンジョンとカフェ、練兵場だけでもてんてこ舞いだったし、はっきり言ってメチャ疲れたし。
ダンジョンオープンして、落ち着いた頃じゃダメだろうか…。
「もうちょい後でもいいんじゃないか?」
とりあえず、希望だけでも言ってみる。するとゼロは、困った顔でなぜかルリをチラリと見た。
「うーん…僕も、別に後でもいいんだけど…エルフ達が早く早くって、すごくやる気なんだよね…」
「あの子達も早く役に立ちたいのよ。シルキー達がバリバリ働いてるのに、自分達はゆっくりしてる時間が多いから、なんとなく引け目があるみたい」
ルリがエルフ達の気持ちを代弁する。ルリはいつの間にか、エルフ達のアネゴ的立場になっているようだ。
うーん…同じダンジョンモンスターとして、その気持ちは痛い程分かる。召喚された以上、役に立ってなんぼだしな。
「…そういえば、前にゼロ…エルフ達に、スキル教室どんな感じにするか考えとけって、丸投げしてたよな…?あれ、どうなったんだ?」
「ひどっ!丸投げとか、人聞きの悪い…。ちゃんと構想は聞いてあるよ。いつでも造れるんだけど、さすがに混乱するかと思ったから…!」
言い方が悪かったらしい…。
ちょっと反省する。
「悪ぃ。…でも、その構想でいけそうなら、…やってみっか?」
俺がそう言うと、ゼロは目を丸くした。
「えっ?どういう心境の変化!?」
「いや…エルフ達の気持ちも分かるなぁと思って。ユキも、役に立ちたいって言ってただろ?…マスターの役に立ちたいって気持ちは、皆一緒だからな…」
ゼロはなんだか、酷く驚いたような、バツが悪い顔をしている。
ゼロからしてみると、ダンジョンモンスターの感覚は、不思議でしょうがないんだろう。
「……そっか……。じゃあ、エルフ達に任せて、スキル教室やってみようか」
ゼロはそう言うと、ダンジョンコアに向かう。こうなるとゼロの動きは早い。あっという間に、カフェの横に4つの部屋が出来上がった。
そのうちの2つは、机が沢山並んでいる、座学のための部屋だった。多分、魔法系を教える教室になるんだろう。
あとの2つは、広々とした…と言うか、ガランとした部屋だ。壁際に様々な武器が並んでいる。明らかに武術系の教室だな。
部屋が出来たと思ったら、もうゼロはエルフ達に声をかけている。
教室が出来たと知らされたエルフ達の顔!これまでで一番輝いていた。
やりがいって、重要なんだな。
「待たせてゴメンね。設備は整ったから、いつでも始められるよ?皆で話しあって、いつからやるかとか、宣伝をどうするかとか、決めてくれる?」
ゼロの言葉に、エルフ達は大騒ぎだ。
特に元気なヤイバとダーツは、本当に飛んで喜んでいる。
普段クールなだけに、エルフ達のテンションの高さが怖い。よっぽど今まで、活躍出来なくて悶々としていたんだろう。
通信を切ると、ゼロはため息をついていた。




