戦い終わって…②
エルフに格闘スキルがあるヤツはいない。…ていうか、このダンジョンで格闘スキルを持ってるのは、今のところ俺だけだ。
それで俺を見てたワケね。
「やってあげたら?」
ゼロが事もなげに言う。
…まぁ、いいけど。ゼロと一緒にダンジョン造ってる方が楽しそうなんだけどな…。
「次は練兵場とか…、王室から何かあれば、お願い」
「ああ、昨日は騎士20人くらいの訓練をやったらしい。使い勝手は良かったみたいだぜぇ。カルアが、女性用のシャワールーム、喜んでたくらいだ」
良かった。練兵場の方は、ぶっちゃけ見る余裕がなかったから、ちょっと心配してたんだ。
「練兵場にも、たっくさん見物の人がいたぞ!騎士もキビキビしてて、カッコ良かった!」
ブラウが子供らしい感想を言ってくれる。
「トレーニングルームが意外に好評でな、王室が使ってない時には、一般に使って貰ってもいいんじゃないか、とか言ってたぜぇ?」
…それ監督するの、俺達じゃないのか?
「うーん…それは、考えとくね。今すぐ人を回せるか、わかんないし。…他にも、何かある?」
「いや、ありがとう、ってさ。兵の訓練もダンジョンの様子も同時に見れて、満足したみてぇだ」
「良かった!」
満面の笑顔を浮かべたゼロに、「アラインがまた挑戦したい、って言ってたぜぇ?」と、不吉な事を言ってたのは、聞かなかった事にしよう…。
「後はマスタールームだね。ここは結構、問題感じたんだよね。実は」
「そうだな。客に聞こえない、スタッフだけの通信手段は、とりあえず欲しいな」
「あとアナウンスは、やっぱり専門の人がいた方が、絶対盛り上がるって思うんだ」
「絶対的に人が足りないのよ。マーリンやブラウ、毎日はキツいんじゃない?」
「錬金、出来なくなっちゃいますぅ」
口々に思った事を言っていたら、突然怪しい光が、その場を包んだ。
光の発生源は……ユキ!
見る間に小さな子供に変化するユキ。
「レベルが上がったら、ずっと人型でいられる。…ユキじゃ、ダメ…?役に、立ちたい…」
それだけ言うと、気絶してしまった。
「なんだ、今の!ユキか!?幻狼って人型になれるのかぁ!?」
さすがのカエンもビックリだが、構っている暇はない。俺は慌ててユキを抱えると、マスタールームに急いだ。
ユキをベッドに寝かせて応接室に戻ると、すでに会議はお開きになっていた。
まぁ、後はマスタールームとダンジョン本体をどう改良するかだしな。ユキが人型になった事で、結構混乱もしたんだろう。
皆散り散りに、持ち場に戻ろうとしている。俺達も、マスタールームに戻るか…。
動きかけた時、なぜかギルドへつながる扉が開いた。
「すいません!スキルを習いに来ました!」
昨日の、単独冒険者…。
思わずミズキに視線を送ると、彼女は気まずそうにうつむく。
「昼からなら、大丈夫かと思いまして…」
蚊のなくような声で言い、すみません…と付け足した。
「どうしても格闘スキルが習いたいんです!オレ、待ちきれなくて!」
え…、このイケメン、こんなアツいタイプなのか…?
教育プランもないのに、俺、このやる気満々なヤツ、3時間も教えるワケ…?
カエン、大爆笑。
この火龍、ホントにムカつくし…。
来てしまったものは仕方がない。
俺は腹を決めた。
「格闘は俺が講師だ。…そうだな、今日は練兵場が空いてるから、そこでやろうか」
ついて来い、と言うと、ヤツは跳ねるような勢いで走ってきた。かなり、相当、面倒そうな予感がする。
「よろしくお願いします!師匠!」
練兵場に入るなり、鼓膜が破れそうな大声。う~ん、アツい…。
「えーと…お前、名前なんていうんだ?」
「はい!レイアスです!」
「レイアス、ね…。じゃあレイ、お前昨日、一人でダンジョンにチャレンジしただろう?なんで単独なんだ?」
突然の質問に、レイはちょっと口ごもった。
「えっ?あの、……」
結構気になってたんだよ。
師匠特権で、是非とも教えていただきたい。
言わないと訓練して貰えないとでも思ったのか、しぶしぶ口を割る。
「め…面倒くさいから…です…」
あっ、一気に声が小さくなったな。
しかし、このアツいヤツが「面倒くさい」とか…どういうパーティーだったんだ。
「オレ、とにかく早く強くなりたいです。スキルも装備も色々欲しいし、依頼もバンバンこなしたい。…他のヤツと足並み揃えるの、面倒です」
なるほど、やる気があり過ぎて、他のヤツらのタイミングを待てないワケか。
…こういうヤツは、ムリをし過ぎて死にやすい。あの無茶な戦い方ならいずれ限界が来る。
これも何かの縁だ。
防御もしっかり教えこんで、死ななくて済むくらいには、鍛えてやるとするか。
幸い、この1週間くらいは、カエンに散々鍛えられている。カエン直伝の格闘スキル習得術を披露してやろうじゃないか。
それから3時間、足腰が立たなくなるまでみっちりしごいてやった。これもカエン直伝だ。
なんせ、ウチには回復温泉があるからな。少々ムリしたって大丈夫!
仕上げに回復温泉にぶち込んで、3時間耐久、格闘スキル家庭教師は終了した。
これで基礎は一通り教えたし、一応レイのステータスにも格闘がスキルとして表示されている。
とりあえず役目は果たしたぞ!
それにしても、3時間も動き続けると、さすがに鍛える方もくたくただ。俺も回復温泉でひとっ風呂浴びてからマスタールームに戻る。
「あっ!ハク、お疲れ様~。どうだった?」
「ああ、ちゃんとスキル習得できた。防御含め、基礎はガッツリたたき込んでやったから、後は反復練習で何とかなるだろ」
「あの子、可愛いわよねぇ」
好みのタイプだったのか、ルリが語尾にハートマークがつきそうな勢いで言う。可愛いかは分からないが、まぁイケメンだな。
「ししょー!とか呼ばれてたじゃない。可愛い弟子ができて良かったわね。あーあ、マーリンにもブラウっていう可愛い弟子がいるし、私も欲しいわぁ」
言ってチラリとゼロを見ているが、ゼロは完全スルーで、俺に1枚の紙を見せた。
「見て!さっき話したカフェの内容、考えてみたんだ。問題なければ造ってみたいんだけど」
どれどれ…。あれ?
そんなに大きく変わってないような…。
カフェの厨房の前に、受付みたいな場所が作られている。それと、自販機、と書かれた四角が左右の壁際に3つずつ。
厨房の中にも機材を色々入れたいらしく、細かく名前が書かれているが…、俺には分からない名前ばっかりだな。




