そろそろボス戦③
めんどくさい冒険者はマーリンに任せ、キング・ロードのモニターに戻る。
結構な時間泳いでいる筈だが、素晴らしいクロールは衰えていない。
漸く向こう岸に辿りつこうという時、突然戦士の動きがおかしくなった。足でもつったのか、ガボガボっともがいた後、海に沈んでいく。
「ギル!?」
並んで泳いでいた盗賊が、慌てて助け、戦士の顔を水面上で確保した。盗賊の顔が、焦りでこわばっている。
「痺れクラゲだ!」
なるほど、マヒか!
このパーティーは、よくよくマヒに苦しめられるな。
僧侶が遠い岸から解痺の魔法を唱える。アーチャーも矢をつがえてはいるが、海の下の敵に、なす術がないようだ。
ゲホっ、ゴホっ、と水を吐き、戦士がもがき始める。
マヒが解けたのか…。
なんとか解痺の魔法は彼に届いたようだ。激しく息を吸い込み、荒い呼吸を繰り返す。
「ギル!岸まで泳げ!モンスターが集まって来てる!」
まだ朦朧としている戦士を、容赦なく急き立てる盗賊。そう言いながらも彼は、戦士を逃がすために、自らが囮になってモンスターを引きつけている。
このパーティーは、さすがにレベル20オーバーなだけあって、互いをフォローし合う姿勢がハンパない。だからこそ、多くのクエストを生き残って来れたんだろう。
戦士が弱々しくも岸に向かい泳ぎ出したのを確認し、盗賊は大きく息を吸い込むと、水面下へ消えた。
何度も、何度も、息つぎをしては潜水を繰り返す。
海のエリアには、ホーンフィッシュと巨大ピラニア、そして痺れクラゲがいる筈だ。
ナイフ一本で、戦っているんだろうか。
彼がやっと海から上がって来た時には、身体中が傷だらけになっていた。
「悪ぃな」
岸で座りこんでいた戦士が、申し訳なさそうに詫びる。
「たまには俺も活躍しないとな」
盗賊は事もなげに言って、それから店を指さした。
「店に行こう。早くしないと時間切れだ」
「違いねぇ!さっ、買うかぁ!」
彼らはマーメイドの店で、惜しげもなく武器や防具を買い込む。人数分の新しい装備品を手に入れて、満足そうだ。
カフェからは、珍しい武器や防具に、羨望のため息が漏れている。
「これ、すげぇ攻撃力上がったんじゃね?」
「俺のは特殊効果が凄い。ランダムで相手にマヒや毒を与えるナイフらしい」
…それ、痺れ毒蛾のナイフだろう…。
「そろそろタイムアウトだな」
盗賊がポツリと呟く。
そうだな。あと1分しかない。
俺もすげぇ残念だ!
「今回はクリア出来なかったけどさ。凄ぇ武器も手に入ったし!次はちゃんとユウも一緒に、楽勝でクリアしようぜ!」
戦士は盗賊の背中をバンバン叩きながら、明るく笑っている。
「見ろよ、このメイス。ゴッツイトゲトゲついてるし!モンスターもボッコボコにできそうじゃん!」
「それ、メイに言うなよ?まず俺達がボコられるぞ…」
軽口をたたく冒険者達。
ここで、残念ながらタイムアウトだ。
「キング・ロードに挑戦中の皆さん、タイムアウトによりリタイアです。残念でしたね。またのチャレンジをお待ちしております」
彼らの冒険は終わった。
カフェからは、健闘を讃える拍手が巻きおこった。
その後、割とすぐにプリンセス・ロードの単独冒険者がゴールし、プレオープンは事故もなく、無事に終了した。
間2日あけて3日後が本オープンだ。すでに処理しきれない程の予約を貰い、とりあえずプレオープンは大成功。
王様達に丁重にお礼を言って、今日のところはお帰りいただく。
なぜなら俺達が疲れきっているからだ!
今までひと気の少ないダンジョンで、たまに訪問者があるとはいえ、ちまちまやってきた俺達は、あまりに多くの人が来た事で、すっかり消耗してしまっていた。
とりあえず寝たい!
あのバカでかいキングサイズベッドが、こんなに恋しいのは初めてだ…。
確実に俺達より疲れている筈のカフェのメンバーにお茶を淹れてやり、フラフラとマスタールームに戻る。
ゼロは既に死んだように寝ている。
今日の振り返りは晩メシ時で充分。
俺もすぐさま、眠りに落ちた。




