そろそろボス戦①
「海の中に島があるでしょう?武器や防具を売っているわ」
「珍しい武器なのか?」
戦士が食いつく。
そう言えば、メタルアシッドスライムのせいで大剣が錆びたとか言ってたな。
でも、島に渡ったりしたら、タイムアウトの可能性、高すぎないか?ここまで来たら、俺としても、ぜひ戦いたい!
彼らがボス戦を選んでくれるよう、真剣に祈る。選ぶのはあくまで冒険者達だし…俺は、祈るくらいしかできない。
ダンジョンのボスも、意外と不自由なもんなんだな。
俺の気持ちも知らず、マーメイドは華やかに笑って殺し文句を口にする。
「もちろん特殊効果付きの、珍しい武器や防具よ。こんな所で、マーメイドが売ってるくらいですもの。…もちろん、泳いで渡って貰うから、危険は付きものよ。海の中にもモンスターはいるから…」
う~~~ん、と悩みだす冒険者達。
「武器買おうぜ!俺の大剣、かなりヤバくなってきたし」
「でも時間的にクリア出来なくなるんじゃない?」
「けどさ、メイももう魔力が切れかけてるじゃん。今ボスと戦っても勝てねぇだろ」
「…でも、少しでも戦っておけば、ボス戦のヒントは掴める…。次、倒すためにも」
アーチャーが怖い事を言っている。
…そうか、冒険者と戦う度に、対策を練られるわけか。しかも、モニターの前のヤツらにも、ついでに情報が公開されてしまう。
結構プレッシャーだな。
「確かにボスの情報も大事だが、珍しい武器や防具があるなら、そっちを優先すべきだな。…純粋に攻撃力も守備力も、底上げできる」
「武器買おうぜぇ!まだ誰も持ってない武器かも知れないじゃん!なぁ、頼むよ~!」
堅実な女達と、ただ武器が欲しいだけの男達の争いっぽくも見えてきたな…。
「もう、しょうがないな~。店に寄ってもいいけどさぁ、泳ぐんだよ?防具とかどうするわけ?」
僧侶が呆れたように問いかける。
案内役のマーメイドが、助け舟をだした。
「全員で行かなくても、大丈夫ですよ?もちろん戦闘は厳しくなりますが」
それを聞いて、男達は潔く脱ぎ始める。
「俺とシンで行ってくる。メイとマールはここで援護してくれ」
確かに、残るのは僧侶とアーチャー。遠距離での援護も可能だ。
男達は手早く上半身まで裸になると、ベルトに1本ずつナイフを帯びて、海に飛び込んだ。
こうなったら、出来るだけ早く買い物を済ませて、戻ってきてくれ!俺のデビュー戦はお前達の泳ぎにかかっている!
隣でルリが「往生際が悪いわね。ぶっちゃけ、もうボス戦はないわよ?」とか言っているが、俺は最後まで諦めない!
頑張れ、シン!
頑張れ、名前わからんチャラい戦士!
俺の勝手な応援を受けて、ヤツらは見事なクロールでぐんぐん進んでいく。海も遠いこの街に住んでる割に、なかなかやるじゃねぇか!
「ねぇゼロ、プリンス・ロードの2人、HPもMPもギリギリだけど、なんかスラっちのトコに辿りついちゃったわ」
ルリが呆れたように報告した。
なんと、毒に侵された戦士と、それを回復し続けてMPが既にない魔術師の2人、ついにボス戦にこぎつけたのか。
確かに意外だ。
いや、ここは、さすがレベル12と言うべきか。
「へぇー、頑張ったねぇ」
ゼロは感心したように言うと、早速アナウンスを始める。
「プリンス・ロード挑戦中のパーティーが、ボス戦に挑みます!皆さん、ぜひご注目下さい!」
しかし、冒険者2人は冴えない表情だ。
「……マジで……?」
「…さっきのオモチャの矢といい、かなりバカにされてる気がするのは、オレだけかい?」
冒険者達もカフェも、ブーイングの嵐だ。
……え?
この反応、なに…?
スラっちがボスだから?
見た目ショボいスライムだから…?
冒険者と観客達の思わぬ反応に、マスタールームには沈黙が落ちた。
その子、強いんです!
実力はうちのダンジョンの中でもトップクラスなんです!
…と言ってもムダだろう。
俺達は衝撃と共に理解した。
『ボスは強そうな見た目が大事』
誰か救援に行かせたくても、強そうなヤツも怖そうなヤツもいない。
ゼロのダメフィルター:怖い、キライ、気持ち悪い、にひっかかったモンスターは、ことごとく排除してきたからだ。
うちのダンジョンには、ほどほど温和な見た目のヤツしかいねぇんだよ、そもそも…。
まさかこんなところで、ダメフィルターのしっぺ返しを受けようとは…。
けしてバカにしてる訳じゃないんだが…。
冒険者の2人には申し訳ないが、スラっちと戦って貰うしかない。
なす術もなく、プリンス・ロードのボス戦が始まった。
「瞬殺じゃあぁぁ~~~!」
殺気だった冒険者達が、スラっちに襲いかかる。
瞬殺だぁ?
さすがにちょっとカチンと来たぞ。
言っとくが、スラっちは本気で強い。
行け!スラっち!
お前の真価を見せてやれ!
冒険者達の剣と杖がスラっちに突き刺さる。
…と思ったら、ボヨ~~ンというマヌケな音を発しながら、冒険者達が跳ね返された。
…防御力が高いのにも、色々あるんだな…。
「なんだぁ?こいつ!」
「何!?今の!超ムカつくんですけど!」
どうやら冒険者達の神経を、かなり逆なでしてしまったようだ。
スラっちは、プルプルっと震えたかと思うと、炎を吐いた。




