プレオープン⑥
スライムメイジのスピードが一気に遅くなる。
「これなら当てられる!」
矢継ぎ早に放たれる矢とナイフ。
さすがのスライムメイジも避けるのに必死だ。(多分)
その間に、全体回復をかけた僧侶は、間髪入れずにまた何か詠唱している。
戦士も攻撃に加わったせいか、スライムメイジにもダメージが蓄積してきたようだ。
するとその時、キラキラとした光がスライムメイジを包む。
「か、回復魔法!?」
「あり得ねぇ~!何!?このスライム!」
見たか!奇跡のスライムの底力!
またもやHPがマックスまで回復した、見た目スライムを見て、冒険者達はウンザリした表情だ。
カフェの観客達は、息を飲んで、この戦いを見守っている。
「ディフェンスダウン!」
僧侶の声が響き渡った。
「メイ!やるじゃねぇか!」
「いいぞ!重ねがけだ!」
冒険者達の顔が、ぱぁっと明るくなる。
う~ん…いくらスライムメイジが強くても、さすがに防御力をガンガン削られるとヤバいんだが。
…て言うか、これやられると、俺も厳しいんじゃねぇのか!?
防御力が削られると、途端にスライムメイジの戦況は厳しくなる。
剣、弓、ナイフの一斉攻撃。
僧侶はディフェンスダウンを何度も重ねがけする。
ダメージを受けては回復を繰り返し…
ついに、倒されてしまった。
カフェからは、割れるような拍手と、歓声が巻き起こっている。
「あ~…スライムメイジ、倒されちゃったね」
ゼロが残念そうに呟く。
でも俺は、こいつらと戦うのが、楽しみでたまらない。
ここまで、なかなかの戦いっぷりを見せて貰った。
いい勝負ができそうじゃないか!
モニターの向こうでは、4人の冒険者達が、慌ただしくダンジョンの奥に向けて歩き始めた。
「結構、時間を浪費したな」
「ここから先は、宝箱はシカトで行こう。タイムアウトになっちまう」
そう、タイムアウトまであと30分ちょっとしかない。
頼むから急いでくれ。
その後、プリンセス・ロードでは、予想通り一般客のみのパーティーが中間ゲートでリタイアした。
冒険者ではないものの、男達は腕に覚えがあったようだ。モンスターを一手に引き受けて腕試しを楽しみ、女性達にはショッピングを楽しませていた。
まぁ、一般客のみのパーティーとしては、想定範囲内のダンジョンの楽しみ方だ。
「それでは、本日最後の挑戦者が、プリンセス・ロードに入ります!」
入って来たのは、たった1人。
…え?1人だけ!?
カフェもマスタールームもざわめいた。
今日できた即席パーティーもいる、って言ってたカエンが、こいつを送りこんできたって事は、それなりの理由があるのかも知れない。
俺達は、早速ステータスを覗いてみる。
魔法戦士:男:レベル5
へぇ、こいつ、魔法戦士か!
まだレベル5だというのに、魔法戦士。
しかも1人でチャレンジ。
確かにちょっと面白い。
しかもこいつ、人間の割にかなりのイケメンだ。まだ15~6歳に見えるが、浅黒い肌に黒眼がちのでかい瞳。落ち着いた赤の短髪。
魔法戦士だからか、装備は軽装で、細身の剣とレザーアーマー、盾は持たず、両腕の小手で身を守るようだ。
ダンジョンに入ってすぐ、最初の戦闘が始まった。相手はやっぱりスライム×3、ピクシー×2。
さっきレベル3~4の冒険者4人でも、それなりに手こずっていた相手だ。
彼はモンスターを見回すと、剣を握り直し、先手必勝とばかりに切りかかった。最初の一撃でスライム1体があっけなく倒される。
それを皮切りに4体のモンスターが、一斉に彼に飛びかかった。
彼は一斉防御しない。
次のターゲットを決めると、そのモンスターを叩く事に集中し、とにかく攻撃する。
1体、また1体…。確実に数を減らしているが、彼も傷だらけだ。
戦闘が終わった時には、かなりボロボロになってしまっていた。
1人で5体のモンスターを倒したのはさすがだが、初戦でこのボロボロ加減。戦い方も、防御に一斉気を払わないとか、1人で戦う戦法としては無謀すぎる。
かなり心配な冒険者だな…。
俺の勝手な心配をよそに、彼は自分に回復魔法をかけ、何事もなかったかのように歩き始めた。
それを見届け、キング・ロードのモニターを見ると、俺のデビュー戦相手は、いよいよダンジョンの終盤まで辿りついていた。
もう少しで断崖絶壁部分を抜け、美しい海が見える筈だ。
これなら、タイムアウトしないで済むかも知れない。
頼む!
頑張ってくれ!
祈ったところで、冒険者達はついに海を目にした。
「うわ…あ、これ…海!?」
「絶景だな。潮の香りがする」
「きゃあ!マーメイドがいるっ!すご~い、超可愛い~!」
「海、綺麗…」
冒険者達は、断崖絶壁の上から、しばらくの間うっとりと海を眺めた。
「時間…」
アーチャーの呟きで、冒険者達は崖を駆け降り始める。ここは、崖の下部が砂になっていて、ちゃんと降りる事ができる地形だ。
海に向かって、無邪気に駆け降りる冒険者。その先には、美しいマーメイドが待っている。
「皆さん、ようこそ。ここまで辿りつくなんて、強いのね」
にこやかに話しかけるマーメイド。
冒険者達は警戒しているのか、あまり近づいていない。まぁ、リリスに痛い目にあってるし、当然かな。
「マーメイドは戦闘要員じゃないから、攻撃しないでね?」
マーメイドが優しく笑うと、冒険者達の緊張も少しほぐれるのを感じる。カフェの観客達も、海やマーメイドの美しさに見惚れてしまっている。
この街は海が遠いから、海に対する憧れが強いせいもあるんだろう。
「ここを真っ直ぐ進むと、このダンジョンのボスに挑めるわ。すっごく、強いから頑張って」
冒険者達に、再び緊張感が走る。
すっごく強いとか言われると、こっちも緊張するな。




