プレオープン④
「キング・ロードに挑戦した、魔術師:ユウさん、HP切れのためリタイアです。残念でしたね。ユウさんはスタッフにて回復致します。戦闘を続行して下さい」
場内にアナウンスが流れる。
リリスは「残念…」と言いながら魔術師から離れたが、小首を傾げた後、魔術師を岩陰に運んでくれた。
HPが限界なだけに、流れ弾的攻撃が当たっても命が危ないからな。
リリス、グッジョブ!
岩陰から出てきたリリスを、容赦なく矢の雨が襲う。矢傷を受け、リリスも痛々しく血を流した。
「酷いわ…」と呟きながらも、赤い瞳は男性二人をロックオンしたままだ。
「メイっ!まだかっ!」
戦士の焦りの声が響く。
女僧侶の腕が、ピクリと動いたかと思うと、冒険者達の体がキラキラと輝き、みるみる受けた傷が癒されていく。
まだよく動かない体で、渾身の全体回復魔法を放ったらしい。
敵ながらあっぱれだ。
「…ナマイキねぇ、動けない癖に」
リリスが女僧侶にムチを放った途端、戦士が動いた。大剣でムチを受け、リリスの動きを止める。
「メイ!マヒを解け!早く!」
「…… …… …」
女僧侶は声にならない声で、詠唱しているようだ。
リリスは「止めてくれると思ってたわ」と笑うと、ムチでそのまま戦士を引きよせ、精気を吸い始める。
戦士を救おうと盗賊もアーチャーも攻撃しているものの、精気から得られる回復力の方が大きいのか、リリスはむしろ回復してきているようだった。
…戦士もそろそろヤバいかも知れない。リリスの悪役感たっぷりの攻撃に、俺は戦士のリタイアを考え始めた。
後はいつコールするかだ。
「っふざけんじゃないわよっ!」
突然、女僧侶のメイスが振り下ろされた。リリスは戦士を放り出し、ヒラリと身を躱す。
おお!女僧侶、復活!
「あらぁ、怖い。女が増えると分が悪いわぁ」
リリスは楽しそうに笑うと、盗賊に「お兄さん、また来てね?」と言い残し、あっという間に消えてしまった。その場に残された冒険者達は、悔しげに、でも一方でホッとしたように息をついている。
放り出された戦士を受け止め、女僧侶は素早く回復魔法をかける。彼女のおかげで、戦士はすんでのところでリタイアを免れた。
カフェからは、安堵のため息が漏れている。
…リリスが去って、冷静になったのか、戦意を削がれたのか。彼らはメタルアシッドスライムを前に、相談を始めてしまった。
そう、メタルアシッドスライムはどうも好戦的な性格ではないらしく、逃げもしないが、自分から攻撃しても来ないのだ。
「こいつ、倒したら経験値どれ位だと思う?」
「マヒるし、防御力異常に高いし、かなりいくと思うわよ?」
「でも、リスクも高いぜぇ?俺の大剣、錆びて来てるの、こいつのせいじゃないの?」
「…弓矢ではダメージすら与えられない」
う~~~ん…と考え込む冒険者達。戦って経験値を得るべきか、放って先に進むべきか、確かに俺でも迷う。
「ユウがどの属性の魔法も効かない、って言ってただろ?」
「言ってたな。俺達には滅多に使わない大魔法ぶっ放したけどな」
「後で折檻よね。ま、でも弓も魔法も効かないなら、他の3人で頑張ってみる?」
「時間…大丈夫?」
女アーチャーの言葉にハッとした様子の冒険者達。頷きあうとその場を潔く後にした。
良かった!
タイムアウトは避けられそうだ。
待ってるぜ?俺のデビュー戦!
キング・ロードの戦いが一段落したところで、他のモニターをチラ見する。
「マーリン、プリンセス・ロードはどんな感じだ?」
「はい…なんと言うかぁ、微妙ですぅ」
微妙…?どう言う意味だ?
「最初にスタートしたパーティーは、後はボス戦だけでゴール寸前なんですけどぉ…」
えっ!?もう?
一切盛り上がりなしで!?
「カフェのお客様も、全然このパーティー見てる感じしなくてぇ…」
ごにょごにょと口ごもる。
うーん、確かに最初のゴールがそれだと、盛り上がりに欠け過ぎだろう。ゼロも渋い顔だ。
「どうする?ゼロ」
「さすがに誰も見てなくて、いきなりゴールはダメだよね。う~ん…せめて、ボス戦に入ったら、アナウンス入れようか?」
確かに作為的に見せ場を作るしかないかも知れない。俺も「だよな」と頷いた。ダンジョンを公開するってのは、意外な問題が出るもんなんだな…。
「ちなみに後から入った、6人パーティーは?」
あの勇敢な街娘がどうなったかは、ちょっとだけ興味がある。
「そっちも、ある意味微妙ですぅ」
ホラ、とマーリンが指す先を見ると…
うわぁ、微妙だ。
完全に冒険者がダメダメだ。
いや、別に戦えてない訳じゃない。
もちろん街娘よりはちゃんと強い。
でも、「指一本触れさせない!」とか豪語していた割に、守備がザル過ぎて、街娘達の方にモンスターがちょいちょいお邪魔している。
…全然守れてねぇし。
街娘達に大きなケガがないのは、ひとえに、あの勇敢な街娘が、身を呈して友達を守っているからだ。女の子にいいところを見せようとダンジョンに入った筈が、完全に男を下げた感じだな。しばらくは冒険者仲間からもバカにされるだろう。
このパーティーを見てると、冒険の一部始終を観客に見られるって事は、ある意味怖いと心底思うな。30分で英雄にもなれれば、相当恥をかく事もある。人生の悲哀を感じつつ、ついでに飛び入り参加のプリンス・ロードの冒険者にも目を向けてみる。
確か、やたら元気のいい、レベル12の男3人パーティーだったよな。チラッと見た感じだと、さすがに戦闘は問題なさそうだ。
モンスターをバッサバッサと倒し、その度にどこか分からないカメラに向かってポーズをとっている。
カフェからはその度に、喝采がおこったり、あらぬ方向に向かってポージングしているのに爆笑したり、反応も忙しい。
「ルリ、今度のヤツらはどうだ?」
「悪夢、再び…って感じ」
え?そうなのか…?
振り向いたルリは、ゲンナリした顔だ。
聞くと、なんと王子様ご一行のように、正に勝手に無限ループしているらしい。ご丁寧に、一人は毒を受けている。
王子様達と違うのは、パーティーに魔術師が居る事だ。解毒の魔法は持っていないものの、回復をかけながら騙し騙し進んでいる。




