プレオープン③
「くそっ!なんなんだこの銀色のヤツ…!メイがマヒしちまった!」
見ると、豪傑そうな女僧侶がマヒしている。僧侶がマヒとは痛いな。
「さすがにマヒの回復はメイしか出来ない…参ったな」
「この銀色、魔法がどの系統もすごい効きにくいよ!」
パーティー全体に焦りが見える。銀色、と呼ばれているのはメタルアシッドスライムだろう。この奇蹟のスライムに、戦況を引っ掻き回されているようだ。
戦士が、長い息を吐いた。
「悪ぃ、ちっと焦ったな」
彼が笑うと、メンバーもハッとしたように落ち着きを取り戻した。
「…リザードマンは俺が倒す」
リザードマンを睨みながら言った後、盗賊に視線を移す。
「シンはナイフを投擲にかえて、マールと一緒にギガントフラワーを倒してくれ。近づくなよ。巻き付かれると厄介だ」
見るとギガントフラワーは、すでに何本もの矢を受けている。
「…ユウは、メイに回復魔法だ。後方に控えて、皆の状況を見ながら、回復に専念してくれ」
目標が定まったからか、途端にパーティー全体の動きが良くなった。反撃開始、ってところか。
「それでは、挑戦者が全員リタイアしましたプリンス・ロード、飛び入りで次の 挑戦者がダンジョンに入ります!」
うおっ!ビックリした!
目の前のモニターに釘付けになっていて、周りが見えてなかった。
隣のモニターをチラ見すると、男だけの3人パーティーだ。全員レベル12だって言ってたっけ?
「オッシャアァァ!やるぞォォ!」
「いっくぜぇ!」
「はいはい、モンスターに居場所教えるようなモンだから、雄叫びほどほどにね」
たった3人なのに、今までで一番賑やかなパーティーだな。
彼らの雄叫びに応えるように、カフェも盛大に湧いている。どうやら、カフェで一緒に観戦していた彼らがダンジョンに入った事で、さらに一体感が増したようだ。
さっきのレベル6~7のパーティーは30分でリタイアだった。倍のレベルを持つ彼らが、同じダンジョンでどう戦うのか、とても興味深い。
とは言え、俺の担当はキング・ロードだ。まずはそっちをしっかり見ねぇとな。
キング・ロードのモニターに視線を戻すと、ちょうど戦士がリザードマンを倒したところだった。
「ッシャアァ!」
戦士は気合十分、今度はギガントフラワーに襲いかかる。盗賊とアーチャーがだいぶ弱らせたせいか、ギガントフラワーの反応が遅い。
アーチャーが続けざまに矢を放ち、ギガントフラワーの動きを止めた瞬間、戦士の大剣がその巨体を真っ二つに両断した。
重い地響きをたてて、ギガントフラワーが崩れ落ちる。
カフェからは、この日一番の、突き抜けるような喝采が贈られた。
…しかし、戦いはまだ終わっていない。
メタルアシッドスライムが残っているからだ。
「よしっ!後は銀色だけだ!」
「メイのマヒはとれたか!?」
勢い良く振り返った彼らは、
………驚愕のあまり、言葉を失った。
「……ユウ……なんのマネだ…」
魔術師の杖から、強力な冷気が噴き出す。本日一番の大魔術、ブリザードが吹き荒れた。
吹雪が容赦なく、冒険者達を襲う。
遠くにいた女アーチャーはダメージが少ないようだが、戦士、盗賊、僧侶は近距離で吹雪を受け、大きなダメージを負ってしまった。
魔術師は、苦しそうな仲間を虚ろな瞳で見ていたが、そのままフラフラと後ろに倒れてしまった。
「あらぁ、一発だけで魔力切れ…?残念だわぁ」
岩陰からリリスが現れた。
魔術師に近づくと、「ご褒美…」と口付ける。テンプテーションにでもかかっているのか、魔術師は幸せそうだが、HPがギュンギュン下がっていく。
確実に精気吸われてる!
「ゼロ!キング・ロード、魔術師がリタイアだ!HPが限界だ!」




