プレオープン②
「ルリ、さっきツル薔薇とかと戦ってたの、どうなった?」
「からくも冒険者側が勝利…って感じ。でも、ずっとギリギリで勝ってるから、ケガが絶えなくて、もう最後のMP使い切ってる」
モニターを見ると、かなりボロボロな冒険者達が見える。
対象レベル6~12のダンジョンで、彼らはレベル6~7が4人。彼らにとっては厳しいダンジョンだ。
まだ開始30分。でも、ボロボロなのにMPは底をついている。
もって、あと1戦だろう。
「…リタイアしよう」
突然モニターから、決意に満ちた声が聞こえてきた。一方、カフェのモニターからはどよめき、悲鳴、怒号が巻き起こる。
「まだ戦える!」戦士が叫ぶ。
「もう一戦いけるんじゃない?」深い傷もある癖に、格闘家が明るく笑う。
「ダメだ」さっき、リタイアすると宣言した男が、優しく、でもキッパリと言った。
このパーティーは、魔術師がリーダーなんだな。
「もう俺のMPも尽きてるし、回復薬も全員分はないよ。多分、次は全員立ってはいられない。…ここまでだ」
彼の言葉に、パーティーには沈黙が落ちた。
「…カエンにお灸を据えられたんだわ。私達が、いつもレベルより上のクエストばっかりしたがるから」女戦士が呟いた。
「そうだね。でも、いいじゃないか」
リーダーの魔術師は、笑顔で3人の頭に、次々とチョップを入れる。
「はい!くよくよしない!次がある!鍛えて再チャレンジ!」
腰に手をあて、仁王立ちで叫ぶ。
「痛てーよ!んな事分かってらぁ!」
「俺、ケガ人…!」
「女の子にチョップとかヒドい!」
口々に文句を言いつつ、彼らの目には、また生気が漲ってきた。
戦士2人に武闘家という猛者達を、魔術師が精神的に引っ張っている、面白いパーティーだ。
魔術師は、メンバーが元気を取り戻したのを見て、高らかに宣言した。
「リタイアします!」
カフェから、一斉に歓声が湧く。
「また、応援するぞぉ!」
「ユージン様、ステキ~!」
「いい判断だ!また挑戦しろ!」
たった30分強の冒険で、彼らは、観客の心をガッチリ掴んだようだった。
ゼロがアナウンスを流す。
「プリンス・ロードに挑戦した皆様、宣言により全員リタイアです。残念でしたね。今から白いわんちゃんが、ワープポイントに案内するので、そこからお帰り下さい。またのチャレンジをお待ちしております」
ユキはダンジョンに、ルリは治療室に向かう。ゼロはそれを見届けると、もう一度マイクに向かった。
「それでは、挑戦者が中間ゲートを突破しましたプリンセス・ロード、本日のお客様の中からお申し出いただいた、次の挑戦者がダンジョンに入ります!」
アナウンスと同時に、6人の男女がダンジョンに入ってきた。
カエンが上手く合わせてくれたようだ。
ステータスは…っと…
戦士:男:レベル4
戦士:男:レベル4
盗賊:男:レベル3
魔術師:男:レベル3
街娘:女:レベル0
街娘:女:レベル0
男達はそれなりに装備を着けているが、女の子達は明らかにただのワンピースだ。武器もない。
何故だ。
一般客用にちゃんと受付で、装備を貸し出している筈だ。俺は不審に思ったが、彼らの会話からすぐに理由が分かった。
「ねぇ、やっぱり受付で、装備を借りた方が良かったんじゃ…」
「だぁからぁ、大丈夫だって!君達には指一本触れさせないってぇ」
なるほど…あの男達、いいところを見せようと、装備すら借りさせなかったのか!カフェからも壮絶なブーイングが聞こえる。
そこにスライム3体、ピクシー2体が現れた!
モンスターも強くないが、4人の冒険者もけして強くない。男達がスライム達の相手をしているうちに、ピクシー達が、街娘の方に行ってしまった。
「痛いっ!」
「マリー!大丈夫!?」
小さいとは言え、ピクシーもれっきとしたモンスターだ。攻撃されればそれなりに痛い。
気弱そうな街娘が腕を抑えてうずくまる。その時、なんともう一人の街娘がかばうようにピクシーの前に立ちはだかった。
武器も防具もない。だが彼女はショルダーバッグを振り回し、勇敢に戦っている。
カフェからは、「いいぞ~!」「姉ちゃん、頑張れ!」と声援が飛んでいる。
彼女は冒険者達がスライムを倒して戻ってくるまで、ピクシー達からもう一人の街娘を守り切った。
冒険者達は苦戦しながらもピクシーを倒すと、街娘達に回復魔法をかけて、平謝り。
戦った方の街娘は、当然の事ながら怒っている。
マリーと呼ばれた娘の腕を引っ張って、店に飛び込むと、さっさと装備を整えてしまった。…もしかして、お金持ちのお嬢様なんだろうか。
そうこうしているうちに、ブラウが戻って来た。
「ただいま。さっきのはちゃんと伝えた。…あと、カエンから伝言。プリンス・ロードの方に、挑戦したい、ってヤツがいるって。レベル12の3人パーティーだけど、どうする?って言ってた」
「う~ん…本当はプリンス・ロードをメインで見て貰うつもりだったから…。そうだね。カエンにやろう、って伝えて」
ブラウは頷くと、早速受付に戻ろうとする。俺はその小さな背中に、「ついでに練兵場の様子も、チラッと見て来てくれ!」と頼んだ。
今日は色んなものが一斉にプレオープンしているから、全部気になって困る。
ちなみに最初にプリンセス・ロードに入ったレベル3~4の5人パーティーは、危なげなく進んでいる。
ただ、会話もない上盛り上がりもなく、淡々・黙々過ぎて、見どころが少ない。こいつらは強くなるとは思うけどな。
ルリも戻って来て、俺はキング・ロードのモニターに戻る。俺のデビュー戦相手は、どうなったかな?
あ、ちょうど戦闘中だな。
相手はギガントフラワー、リザードマン、そして…あのメタルアシッドスライムだ。
冒険者達は、かなり苦戦している。




