プレオープン①
「本日14時より、お披露目を兼ねて、デモンストレーションを行います。実際に冒険者の方々がダンジョンを体験するその様子を、本日おいでの皆様に、モニターでリアルタイムでご覧いただく趣向でございます」
頑張って原稿を書いた甲斐あって、ゼロはかなりスムーズにアナウンスしている。
人が目の前にいなけりゃ、アガらないんだな。
「14時まで、あと15分少々ございます。それまでは、施設内部をご観覧下さい。皆様が今おいでの場所にはカフェ、奥の扉を進むと練兵場がございます。本日は王国騎士団の皆様が訓練中です。この機会に、ぜひ、ご覧下さいませ」
…よし!言いきった。
今日は宣伝も兼ねて、ギルドにもモニターとスピーカーが設置されている。ギルドでも、冒険者達が同じ放送を聞いているだろう。
人々の動きを見ていると、結構面白い。
いち早くカフェのモニター前の席に陣取り、注文を始める人。ギルド自体に入るのが初めてなのか、ギルドをキョロキョロ見ている人。練兵場の2階に登って、兵達の訓練に見入る人もいれば、トレーニングルームの機器を見て興奮している人もいる。
まあ、一番人が群がっているのは、練兵場を見渡せるロイヤル席に居る、王様達のところだけどな…。
ドォーーーーーン!
ドォーーーーーン!
ドォーーーーーン!
「皆様、時間となりました。プレオープンセレモニー及び、ダンジョン探索の様子をご覧になりたい方は、カフェコーナーにお集まり下さい」
いよいよ、スタートだ!
オーナーとしてカエンが、主賓として王様が、それぞれスピーチしてくれて、否が応でも盛り上がってきた。
「本日冒険者の方々が体験するダンジョンは3つ!1つ目はレベル0~5対象ダンジョン《プリンセス・ロード》!」
…名前のセンスは問わないで欲しい。
俺達の精一杯だ。
「こちらは数日前に、勇気あるエリカ姫が実際に挑まれたダンジョンです。ショップも多く、冒険者でない方も挑戦できるため、女性にもお勧めのコースです」
エリカ姫が立ちあがり、観客にはにかんだ笑顔を見せてくれた。エリカ姫は男女ともに人気があるようで、大きな声援が上がっている。
「前半はモンスターも少なく、ショップがメインの街並みです。30分で閉まる中間ゲートの先は、本格的なダンジョンですので、腕に覚えがある方は、ゲートの先にも挑戦できます」
モンスター、という言葉に若干ザワザワとどよめいている。やはり、管理されているとは言え、街中にモンスターがいる、というのは不安なのかも知れない。
「冒険者達が中間ゲートを越えましたら、本日は一般の方々にも公開致します。挑戦したい方は、受付までお申し出ください」
そう、このコースだけは今日、一般の人々にも開放する。これが果たして、吉と出るのか、凶と出るのか…。
「それでは、本日の《プリンセス・ロード》挑戦者のご紹介です!」
……こんな感じで、3つのダンジョンとそれぞれの挑戦者が発表された。
ちなみにレベル6~12用が《プリンス・ロード》、最後が《キング・ロード》だ。
冒険者達の名売りも目的のひとつだから、紹介も念入りに行う。その方が観客も、感情移入しやすいだろう。
「それでは、冒険者達がスタートします!皆様、モニターをご注目ください!」
ブザーがなり、冒険者達が一斉にスタート。カフェコーナーは観客の熱気に包まれている。
立ち見も多く、ギルドも満杯。
宣伝効果は上々だ。多分半分以上は、王子様とカエンのおかげだろう。
マスタールームに戻ると、既にゼロがグッタリしていた。
「お疲れさん。上手かったぜ?」
「ありがと…。でも、身がもたない」
まだ客が入ってから30分くらいだけどな。本当はこれからが本番だ。
「モニター俺が見てるから、少しベッドで横になれば?」
「悪いけど、ちょっとだけお願い」
ゼロの代わりに、キング・ロードのモニター前に座る。ちなみに他の2つは、ルリとマーリンが担当だ。
モニターの向こうでは、5人の男女が険しい断崖絶壁を危なっかしく進んでいく。
これが、俺のデビュー戦の相手か。
ワクワクしながら、まずはステータスを見てみる。ふむふむ…。
戦士:男:レベル25
盗賊:男:レベル24
僧侶:女:レベル23
魔術師:男:レベル20
アーチャー:女:レベル20
へぇ、面白いパーティーだ。
盗賊やアーチャーまで入っているパーティーはなかなかいない。
カエンが鍛えたいというのも、分かる気がする。
モニターの向こうからは、冒険者達の話し声が聞こえてくる。(もちろん、話し声も観客に筒抜けなのは、冒険者に説明済みだ)
「しっかし、ギルドの地下に訓練用のダンジョンとはな。さすが守護龍様の考える事はスケールが違うねぇ」
軽い口調で戦士が言う。重そうな大剣を片手に、仲間を守りながら闘っている。チャラけて見えるが、こいつ、実力者だ。
「カエンが挑戦してみろと言うんだ。我々にも、何か得られるものがあるんだろう」
盗賊がクールに笑う。実はここまでのトラップは全てこいつに解除されている。パーティーの中でも、戦士とこの盗賊の実力は抜きん出ていた。
「手頃な依頼もなかったし、ちょうどいいんじゃない?」
可愛い顔してメイスを振り回す、パワーファイター顔負けの女僧侶は、ここまで一切回復魔法を使用していない。
「僕ついてくだけで精いっぱいだよ~」
断崖絶壁に苦戦しまくる、草食男子代表のような魔術師。
「………」
冷静にパーティー全体を見渡し、死角から近づく敵を確実に倒す、女アーチャー。
5人の実力はなかなかだ。
これは、俺にも出番がありそうじゃないか?
「プリンセス・ロードの挑戦者、もうすぐ中間ゲートですぅ」
え?もう?こうしちゃいられない!
ちょうど起きてきたゼロと交代し、俺は受付に転移した。
プリンセス・ロードでは、挑戦者が中間ゲートを通ったら、希望者にも体験させる事になっている。まだスタートから20分くらいだ。希望者がどれ位いるか把握したい。
受付のシルキーちゃんに状況を聞いてみる。
「それが、お申し込みが予想以上でして…今、12組34名いらっしゃいます」
「おう、ハク。しょうがねえから、今日は3組くらいにして、後はオープン後の予約にした方がいいかもな、って話してたとこだ」
カエンが察して、話に入ってきてくれた。確かに12組全部は捌ききれないだろう。
「いやぁ、人間ってのは面白いなぁ。全然やる気なかったヤツらが、女の子捕まえて6人で挑むとか言って来てるぜ。冒険者同士でも今結成したみたいなチームが結構いるんだ」
…なんだそれ。
ダンジョンでナンパすんなよ…。
呆れ加減でカフェコーナーを見ると、そこは不思議な一体感が生まれていた。
今は丁度、プリンス・ロードで戦闘が行われている真っ最中のようだ。
レベル6~7の冒険者4人が、プチドラゴンとツル薔薇、ホブゴブリン2体に悪戦苦闘しており、ほとんどの観客達がそのモニターに釘付けになっている。
「危ねぇ!まずはツル薔薇に巻きつかれたヤツを助けねぇと!」
「バカ野郎!まずは数を減らせ!プチドラゴンは後だ!」
「頑張って!そっちのホブゴブリンは、あと1回当てれば倒せるわ!」
訳の分からない一体感で、熱く応援している。
なるほど、この雰囲気の中で意気投合して「自分達もチャレンジ!」ってなるのか…?
面白いのは、キング・ロードの熟練冒険者達を、冷静に観察している観客もいる事だ。ほんの14~5人だが、どうも、罠の解除や戦闘を、分析しながら見ているようだ。
ざっと観客の様子も確認し、俺は急いでマスタールームに戻る。ゼロに報告し、方針を早急に固めるためだ。カエンから貰った情報も纏めて伝達する。
ゼロは少し考えて、ブラウを呼んだ。
「ブラウ、カエンに伝えてくれる?1組め、冒険者と一般混成パーティー。2組め、一般のみのパーティー、3組め、本日結成パーティーって」
ブラウはブツブツ繰り返しながら、受付に転移する。後は、カエンが何とかしてくれるだろう。




