一癖ありそうな爺さんだ
「お、横道しかなくなったな」
脇道に入ることもなく、真っ直ぐに進み続けていたパーティーが足を止めた。
「この階の端に着いたのかの」
「さて、どうだか。まだ階段は見えないけど」
「とりあえずマップを見るか。シーズ、マップを見せてくれ」
全員がシーフ爺さんが書いていたマップを覗き込む。当然俺たちにもマップがみえるわけだが、そのマップには真っ直ぐな一本道だけでなく、脇道、松明までが詳細に書き込まれていた。
カエンも「シーズのやつ、丁寧なマップを書くなぁ」なんてちょっと感心している。
「どうする?」
「どうせ奥の方がお宝も豪華で魔物も強いに決まっとる。このまま奥に行って下の階に進みゃあいいじゃろ」
「筋肉バカは何十年経っても脳みそが筋肉だな」
「なんじゃと!?」
魔術師爺さんが大袈裟にため息をつけば、戦士爺さんも思いっきりいきりたつ。見慣れた光景なんだろう、シーフ爺さんと格闘家爺さんは「よう飽きんもんじゃのぅ」なんてのんびりと見守っている。
「はいはい、二人とも。まだ先は長いんだ、こんなところで無駄に気力と体力を消耗しない」
マホロ爺さんがやんわりと止めて、マップを指さす。
「ここにくるまでに脇道が五つ。まずはそれから潰して行こう」
「やっぱりか。かったるいのぅ」
「まだ魔物にも遭ってないからね。このダンジョンの傾向を知る上でも、一階はくまなく見ておきたい」
「言うと思ったわ」
「わかってるじゃないか。さあ戻ろう」
ふふ、と笑ってマホロ爺さんが踵を返すと、みんな一斉に元来た道を戻っていく。どうやらこのパーティーは脇道まで全て確認し尽くすタイプらしい。
「最初の右への脇道は単に行き止まり……と。トラップもなかったし、隠し扉もないな」
「次も右だが、明らかにさっきよりは長いぞ」
「本当じゃのぅ。道の先が暗がりで見えんが」
「慎重に行こう」
さっきまでと同じくシーフ爺さんと戦士爺さんが先に進み、あとの三人は周囲を警戒しながら後に続く。
「ほぅ、さらにいくつか脇道があるな」
「まずはこの道の突き当たりまで行って、後で戻ろう」
「了解」
そう言ってさらに先にすすんでしばらく行ったところで、急にどこからか、金属をすり合わせたような耳障りな音が響いた。
「すまん! 何か踏んだ!」
「何!?」
途端にダンジョン内に魔物たちの咆哮が響き渡る。いくつかの脇道から、多種多様な魔物たちが一斉に飛び出してきた。
「うわっ!?」
「こんな一斉に」
「魔物が出てくるトラップだったのかのぅ」
「落ち着いて対処すれば大丈夫だ」
驚いてはいるらしいが、そこは流石にレジェンド。すぐに落ち着きを取り戻した。
「ゴーシュ、シーズ、そっちは頼んだよ」
「任せろ」
「瞬殺じゃ!」
奥からはリザードソルジャーとボア系の重量タイプのモンスターが数体現れ、戦士爺さんは待ちきれないように我先にと踊りかかった。
ガキン、と硬質な音が響いて、戦士爺さんの剣をリザードソルジャーのでかいオノが受け止める。
「ほう、一撃ではすまないようだ。ガルモア、君もあっちを手伝ってくれ」
「ほいよ」
格闘家爺さんも加わって、戦士、格闘家、シーフの三人が重量級のモンスター達の相手をするらしい。残る魔術師爺さんとマホロ爺さんは背後から出てきたモンスター達を担当する。
なるほど、マホロ爺さんが瞬時にそう判断したのも納得だ。背後から迫るモンスターは、飛ぶ系の奴らだった。
「ガレット、でかいのを一発頼むよ」
「了解」
次の瞬間には、魔術師爺さんの手から業火が吹き出していた。
ヒュージバットもガーゴイルも、まとめて業火にまかれ恐ろしい叫び声をあげている。動きは鈍ったもののなんとか地に落ちずフラフラと飛ぶガーゴイル数体に、軽やかに跳躍したマホロ爺さんが止めを差して、あっという間にこちらの戦闘は終わってしまった。
見事だ。
「こっちは食えそうもないな」
「素材もとれなそうだね」
呑気にそんなことを言い合っている。
「ガレット、あっちの戦闘がてこずるようなら手を貸してやってくれ。私はトラップを調べておく」
「了解。下手に手を出すと手柄を横取りしたって拗ねられるからな。とりあえずは周囲も警戒しつつ傍観しとく」
マホロ爺さんにはめちゃめちゃ素直な魔術師爺さんは、言葉通り戦況と周囲の警戒にあたる。戦士爺さんを筆頭に重量級のモンスターと戦っている三人は生き生きと戦闘していて楽しそうだ。
そしてマホロ爺さんは床を眺めながら少し歩き「ここか」と呟くと膝をついた。
俺もゼロも、自然とマホロ爺さん視点のモニターに視線を移す。モニターには、発動したと思われるトラップがしっかりと写っていた。
「これは引っかかるなぁ」
マホロ爺さんが苦笑するのも道理だ。踏んだっていうからポチッと押すタイプのボタンか何かだと思ったら、床の装飾タイルかと思ったものがスイッチになっていたらしい。
「ふむ、面白い。戦闘が終わったらちょっと検証しないといけないね」
嬉しそうにマホロ爺さんが笑っている。それを横目で見ていた魔術師爺さんは、こっそりとため息をついていた。
どうやらマホロ爺さんも、一癖ありそうな爺さんだった。




