落とし穴の先には
「うわっ」
小さな悲鳴が聞こえたかと思うと、急にモニターから二人の姿が消える。
「落とし穴か!」
床のスイッチか何かを踏んだんだろう、床には四角い穴がぽっかりと開いて、二人はその中に落ちてしまったらしい。
「うわああぁぁぁぁ」
「滑るぅぅぅぅう~~~」
悲鳴から察するに、ズドンと垂直な落とし穴というよりは、転がり落ちてどっかに運ばれる系の落とし穴だったらしい。やがて暗転していたモニターが急に明るくなって、どこかの部屋の横穴からペッと二人が吐き出されたのが映しだされる。
どうやら真四角で味気ない、なんにもない部屋のように見える。ちょっと変わったところと言えば、ひとつの壁だけに大量の蔓草が生えていることくらいだろうか。
「いてててて……」
「ひっでぇよゼロ! 結構痛かったぞ!」
「ごめん、傾斜が急すぎたかな」
ブラウにクレームを入れられて、ゼロが謝っている。確かにあちこち打ち身ができそうな勢いだった。
「まぁでも、冒険者ならこれくらいのほうがいいんじゃない?」
「だろうなぁ。ハンパだと途中で詰まっちまいそうだしな」
ルリとカエンの言うことも尤もだ。俺もこれくらい問答無用で運ばれるほうがいいと思う。
「ごめんね、あとでおやつ好きなの作ってあげるから」
「絶対だぞ!」
「ボクね、桜スモークのジャーキーがいい!」
そしてゼロは二人をおやつで買収している。これで完全に機嫌が治るんだから、子供って素直だよな。
「なぁゼロ、まだやるのかー?」
「うん。えっとね、この部屋は本当はモンスターがうじゃうじゃ出る部屋なんだけど」
うわ、酷っ……。こんな狭めの部屋でモンスターに囲まれるとか割と絶望感があるんだが。
「モンスターを倒しても出られないんだよね」
「あっ、ホントだ。出口がない」
軽く地獄じゃねえか。
「でもね、そのレイピアがあれば出られるから試してみて。ヒントは壁だよー」
「えー?」
「変わった所なんてねえしー」
二人が壁を一生懸命あれこれ探しているうちに、俺はこっそりとゼロに耳打ちした。
「いやいやゼロ、さすがに地下一階でそれはやり過ぎじゃねえか? せめて出口がなかなか見つからない系は宝箱の部屋とかにしてさ、ここはモンスターを全部倒しきったら扉が開くようにしようぜ」
「え? 厳しいかな」
「地下一階だしな。モンスターの死体ゴロゴロの中で扉が開かないのって結構精神的にキツいだろ。地下に降りる気持ちが折れる」
「そっか」
「地下一階はソフトに。その方が下へおびき寄せられる」
「なんか言い方悪いけど、確かに一般的なダンジョンもそう作ってるかも知れないよね」
「かもな」
俺がダンジョンのマスターならそうすると思う。ダンジョンを大きくしていくにはより多くの人間、それもレベルの高い人間をおびき寄せるのが手っ取り早い。
浅い階層には豊富な宝箱とそこそこの強さのモンスターをおけば、稼ぎやすいダンジョンとして冒険者たちがこぞって集まってくるだろう。そうすれば撃退ポイントでそこそこは稼げる。
そうして階層の深い、簡単には逃げられないような場所へとおびき寄せていくんだろう。上級、超級のダンジョンともなれば、それくらいのことはしているんじゃなかろうか。
「ゼロー! 無理だよ、見つからない」
「ホントになんかあるのか?」
そうこうするうちにモニターの向こうから困り果てた声が聞こえてきた。ふたりとも一生懸命にさがしたんだろうけど、変ったところを見つけきれなかったようだ。
「うーん、二人には特に難しかったかもね。ブラウが立ってる方の壁の上の壁を見てみて」
「見てるけど……なんかあるか?」
「小さな穴が開いてるよね」
「穴?」
二人は目をこらしてじっと壁を見つめている。
「あ……あれかな、もしかして」
「えっ、めっちゃちっちゃいじゃんか。親指くらいのちっちゃい穴だぞ」
うわ、あれは気づかないわ。なんせブラウの身長よりも結構上……カエンの目線くらいの高さのところに、小さな穴が開いている。
「うーん、今の二人の身長だと多分肩車しても難しいだろうから、穴の位置をちょっと変えるね」
コアに向かってゼロが操作をすると、早速穴がブラウ達の目線の位置まで降りてきた。
「じゃあね、レイピアをその穴に突っ込んで。カチッと音がするまで押し込んでくれる?」
「わかったー!」
なんの躊躇もなくブラウがズボッとレイピアを突っ込むと、カチッと音がして二人の真後ろの壁にドアが現れる。
「あっ、扉が」
「すげぇ、テンション上がるなぁ」
二人が宝箱から回収したのは上級ポーションだった。多分、モンスターの集団と戦ったあとだから、回復アイテムがいいだろう、という配慮に違いない。
「でもここにも出口がないねぇ」
「ゼロー、降参! 出口教えてくれよ」
「うーん、確かに地下一階だともう少し難易度下げといた方がいいかもなぁ」
流石にゼロも反省したらしい。モンスターなんか出なくても、狭い部屋に閉じ込められたと思うだけでも結構なプレッシャーを感じる筈だ。欲張らずにまずはそこから始めた方がいいと思う。
「えっとさ、さっきの部屋の方の、蔦がいっぱい絡まった壁があったでしょ。その蔦をレイピアで切り取ってみて」




