とりあえずちょっと造ってみる?
「迷宮の地下一階はジョーカーズダンジョンクラスの難易度でいいよね」
「いいんじゃないか? もともと上級クラスのためのダンジョンだ。あの程度ならいきなり難易度が高すぎもせずに入っていけるだろ」
「トラップや隠し扉が肝になるわよね。下に降りていくためのモチベーションにもなるし」
「確かにな」
冒険者は基本的に貪欲だ。危険をおかしてダンジョンに入ったからには、レベルアップだって当然したいし、お宝のひとつやふたつ手に入れたい。危ない目に遭い損だけは避けたいと思うのは人の性だろう。
「あっ、そうだ。僕考えたんだけど、地下一階とか二階はさ、隠し扉やワープ、モンスターを倒せば開くみたいな、色々な仕掛けを置いといてさ、先に進んだ時に色々試せば何かあるかもって思ってもらえるようにした方がいいんじゃないかと思うんだ」
てっきり下の階に行くほどに隠し扉とかが増えて宝箱の中身も上等なものになっていくんだとばかり思っていたら、ゼロの考えは違うらしい。
「もちろん地下一階、二階だから宝箱の中身はピンキリでいいとは思うんだけど」
「ダンジョンの攻略方法をレッスンしてやるってことか」
「親切仕様ですなぁ」
「あら、結構怖くない? そんんなこと知らなければ無視して進めるのに、色々試さざるを得なくなるのよ」
感心する俺とグレイに、ルリは苦笑する。
確かに。
もしかしたら隠し扉や宝箱があるかも知れないと思うと、その階その階、全ての可能性を試さずにはいられない輩もいるだろう。
いや、現に過去いた。溶岩の中を逃げ回る宝箱を必死でゲットしようと飛びついていたアホがいた。人間とは目先に素晴らしいかもしれない餌をぶら下げられると異常に闘志を燃やすもんだ。
「そこら辺を自分達の技量や食料残量とかと相談して、思いとどまれるようになるのも冒険者としては重要なスキルだしな」
カエンが至極真面目な顔で言う。
確かにそこの見極めを誤れば即効で死に繋がるんだよな。
「ねえ、カエン」
「ん?」
「普通のダンジョンてさ、途中で引き返したりは出来るんだよね」
カエンの言葉を聞いてちょっと考え込んだ様子だったゼロが、そんなことを問う。ていうか、ものすごく今更な問いだな。
「もちろんだ。数日ダンジョンに潜っちゃあ食料が尽きたら街にもどって、何度も行き来しながら攻略目指すのが普通だ」
「やっぱりそうだよね」
ホッとしたようにゼロが笑った。
「どうした、今さら」
「あ、いや。この前ダンジョンのレベルが上がった時に、入ったら出られなくなる仕様も選択できるようになったから……もしかして、採用してるダンジョンが多かったりしないかな……と思って」
「ひえっ……」
「でも、ほとんどのダンジョンが出たり入ったりできるなら、この迷宮ダンジョンも同じような仕様がいいと思うんだ」
「あー、確かに。ワープとかでお手軽に戻るんじゃなくて、自分たちの技量に合わせて計画的に攻略する訓練をするって意味か」
「うん。ダンジョン半ばで全滅したらアイテムは半分没収、とかいうルールを決めておけば、無理して進みすぎないだろうしいいと思うんだ」
「なるほどな。お宝目当てに最後のひとりが死ぬまで進み続けるんじゃ意味ないもんな」
ゼロの考えに全面的に賛成した。それでも今後の攻略のためにその手法をとるヤツはいるかも知れないけど、特に地下六階、七階以下になると戻るのだってたいへん。冒険者達は常に進むべきかいったん引き返して体制を整えるべきかを考えながら進むことになるんだろう。
「入るたびに宝箱の中身はランダムで変わる方がいいわよね」
「うん。なんなら隠し扉とかトラップとかも変わる方がいいと思う」
「ま、その方が飽き来ねえかもな」
「基本的な造りは変わらない方がいいかも知れませんがねぇ。そうでないと永久に上の方の階でただウロウロするパーティーが出そうですしなぁ」
「そこら辺はバランスだよねー」
なんかアレだ! やっぱダンジョン造るの楽しいな!
「ちょっと待って、いったん今話に上がった話をちょっと形にしてみるね」
言うが早いか、ダンジョンコア向かったゼロがどんどんと石造りの迷宮ダンジョンを作り始める。すぐにモニターに映し出されたそれは、話し合った通り数人並んで歩けるくらいの道幅、多めの灯りに照らし出された古びて割れたような石造りの壁……それがどこまでも続いているように見える。
入った瞬間これが見えるのか。なんかワクワクするなぁ。
「じゃあユキ、幻狼の姿に戻ってくれる?」
「うん!」
「で、ユキとブラウで今造ったダンジョンに降りてみて欲しいんだ」
「いいよ! ブラウ、行こ?」
「おー!」
可愛い探検隊がすぐにモニターに現れて、ブンブンと手を振っている。
「どう? ちょっと歩いてみてくれる?」
「分かったー!」
二人は手を繋いで走り出した。
グングンと進んでいくとあっちこっちに脇道が造られているのが分かる。
「こっち見てみて」
ゼロが言った途端、隣のモニターに地図みたいなものが映し出された。
「うわっ、完全に迷路……」




