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ゼロのダンジョン、進化中!  作者: 真弓りの
ダンジョン改良

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ちょっとした作戦があるんだよな

「てめえ、ファウエルに何しやがった!」



ちびっ子魔女の詰問に、俺は小さく小首を傾げる。


ちびっ子魔女は苛立たしげに「ちくしょう! テメーがなんかしてんのはわかってんだぞ!」とか吠えているが、そう簡単に手の内をバラすはずがないだろうに。


逆にふくよかちゃんは「やっぱり可愛い」とか言いながら頬を赤らめている。もうちょっと緊張感、持って欲しい。そう思っていたら。



「可愛いけど……やっつけないと、終わんないんだもんね」



小さく呟いた途端、雰囲気が急に変わった。


血にまみれたまま膝を軽く屈伸させて、ふくよかちゃんが俺を見る。その目には、さっきまでとは違う鋭さがあった。



「ファウエル! 不用意に飛び込むな!」


「でもぉキーちゃんの魔力ももうあんまり残ってないからね。勝機は自力で掴むんだよー」



ふんわりした言い方をしているが、彼女は本気だ。さっきまでとは気が違う。俺ももちろん守りは固めるが、俺自身が動いたようには見えないということが、心理的に二人を追い込むのには重要な筈だ。


身じろぎもせずに、俺は彼女たちのやりとりを静観した。


地を蹴って、この期に及んで真正面から突っ込んでくることを選択したらしいふくよかちゃんは、俺を真っ直ぐに睨んで突進してくる。



「バカ! ファウエル、そんなことしたら……!」


「このダンジョンじゃ死なないらしいから平気〜!」



さっきよりも深手を負う覚悟だったのか。ぽやっとした雰囲気とは裏腹の、捨て身の攻撃。想定よりもずっと勢いのある攻撃に、ふくよかちゃんの姿は一気に俺の目前まで迫ってきた。


だが、勢いそのままに繰り出される手刀は、俺にあたる寸前でピタリととまる。



「くっ……」



表情が歪む。速度が一気に落ちる。今、ふくよかちゃんの体を強い抵抗が襲っているに違いない。彼女の身体中に、無数の網目が浮き上がって見えた。



「ひえええええええっっっ!!!?」



混乱したような悲鳴とともに、ふくよかちゃんの体が一瞬で見えなくなる。



「うげっ」



次いで、ちびっ子魔女の潰れたような声が聞こえて、彼女の手から吹っ飛んだ杖が、すごい勢いでくるくる回りながら俺の鼻先に音を立てて落下した。


い、今のはちょっとビビった……。刺さるかと思った。



「お……重っ、なにが起こったんだ!?」


「重いとかひどい〜! なんかわかんないけどぉ、弾き返されたぁ!」



俺の目の前から吹っ飛んだふくよかちゃんは、どうやらちびっ子魔女に派手にぶち当たってしまったらしい。なんとも運の悪い。


慌てて起き上がったふくよかちゃんは、自分の体を見下ろして小さく呟く。



「あんなに突っ込んでったのに、今度はケガしてない……?」


「そうなのか? ファウエル、さっきからもう血まみれだから、ぶっちゃけ傷が増えたかどうかわかんねえんだけど」


「この傷も深くはないんだよぉ。もっとざっくりいってもいいって思って突っ込んだのに」


「へえ、さすがのこの趣味悪いダンジョンのボスだけある。おかしなことしやがって」



胡乱げに俺を睨んでいたちびっ子魔女は、やがて俺の手元に視線を落とすと、急にポカンとした表情を浮かべた。



「あれ? ……杖?」



不思議そうに俺の手にある杖を凝視して、次いで自分の手元を見たちびっ子魔女は、明らかに焦った様子で周囲を見回し青い顔で呟く。



「まさか、その杖」


「君のだよ」



ぶっ飛んできたから拾っといたんだが。でも、ちびっ子魔女は、そうは受けとらなかったらしい。



「テメエ、そこから一歩も動いてねえのに、なんで」



気味悪そうに呟いた。


これってチャンスなんじゃ。


閃いた俺は、杖を手にしたまま軽く念じる。杖に綿毛の軽さと柔らかさをコピーしたら、杖はそのままへにゃりとヨレて、俺の手からふわふわと舞いながら床へと落ちていった。



「ひえっ……杖が」



驚くのはまだ早い、ここからが面白いんだ。うまくいくかはちょっと未知数なんだが、成功すればこれからの戦闘がいっきに楽になる試案があるんだよな。


内心ワクワクしつつ、俺は手のひらいっぱいの粉に、思いっきりブレスを吹きかける。



「わっ!?」


「眩しい!」



二人がブレスで目くらましされている間に、粉のひと粒ひと粒は形をどんどんと変えていく。


床に落ちた粉たちは、各々が3cmくらいのナニモノかになって、いっせいにちびっ子魔女とふくよかちゃんめがけて走り出した。


おー! うまくいった!


ここまで小さい粉のひと粒ひと粒にも、コピーって効くんだな。


ちょっと感心していたら、どうやら視界を取り戻したらしい二人が、今度は悲鳴を上げていた。



「うわあああ!? なんか虫っぽいのがめっちゃキタァ!」


「あたしぃ、虫はむりぃ」



ひでーな、虫じゃないんだが。しかしゼロみたいな反応だ、虫が苦手な人間って意外と多いのかも知れない。



「ウジャウジャしてる~~~!!!」


「ちょ、こっち来んな!」



もう俺のことなんか目にも入っていない様子で逃げ惑っている。この機に攻撃してもいいんだが、面白いからちょっとだけ待ってみるか。



「やだぁ、体に登ってきたあぁぁぁぁ!」


「ひっ……ちょ、待て……こいつら」



お、もしかして気づいたか?

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