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ゼロのダンジョン、進化中!  作者: 真弓りの
ダンジョン改良

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駄賃にそこの娘を貰おうか

小さな舟にのった老婆が、櫂でゆっくりと漕ぎながら三人の元に近寄ってくる。


水面にその緩やかな波紋が浮かんでいるけれど、水の下はやっぱり見えなくて、ただ不穏な印象だけが強まっていた。



「向こう岸まで、乗せてやろう」


「いいのか!?」



ヒヒヒヒヒ……という老婆の薄ら笑いとともにもたらされた誘いに、ちびっ子魔女が全力で飛びつく。満面の笑みを浮かべているあたり、あれほど怖い目にあいながら警戒心はさほど働いていないらしい。


何だかんだでこいつらメンタル強いよな。俺だったらたぶん一瞬、躊躇する。


老婆はシワシワの顔にニンマリとした笑みを浮かべながら、船を岸へとゆっくりと横付けした。



「ああ、いいとも。だが……そうだねえ、駄賃にそこのぷりぷりした娘をもらおうか。柔らかそうな肉じゃないか、さぞ旨かろうねえ」



ひええええええ! 言わんこっちゃない!



「やだやだやだぁ! 食べられるの確定はやだぁ!」



指差されたふくよかちゃんが、必死でかぶりを振る。それは多分誰だって嫌だろう。



「その娘を置いて行くだけで、ここを安全に通れるんだよ? 尊い犠牲じゃないか」



老婆が曲がった腰をよいしょと伸ばし、櫂で水面を指す。



「この下にはおっかない魔物がわんさかいるのさ。泳いで渡ろうなんざ、わざわざ餌になりにいくようなもんさね。命が惜しけりゃここで諦めた方がいい」



その言葉に答えるように、沼の向こうで大きなヒレがバシャリと水面を叩く。あちこちでポコポコと浮かんでは消えている水泡が、全部魔物だったら割と嫌だな。



「魔物どももワシの舟は襲っては来ぬよ、この先に進みたいなら悪い取り引きじゃ無かろう?」


「そ、そうだけどぉ……雑用とかでなんとかならない? 食べられるのはやだぁ」


「アホっ!!!!」



命乞いをするふくよかちゃんの後頭部を、ちびっ子魔女の杖がガツンとはたいた。ちょっとジャンプしてまで頭をはたくあたり、ちびっ子魔女のイラつき度が現れてて微笑ましい。



「勝手に取り引きすんじゃねーよ! こーいうヤベエ奴と契約なんかしてみろ! 死ぬまで……下手すりゃ死んだあとまでこき使われるぞ!」



ちびっ子魔女の叫びに、老婆が「ヒヒヒヒヒ……!」と愉快そうに嗤う。



「おや、惜しいねぇ、ちょっとは頭が回るガキがいたか。喰ろうて眷属に加えてやろうと思うたんじゃが……そこの娘、どうだい、ワシの眷属になれば永遠に生きられるぞえ?」


「それ、骨だけだよね!?」



まあ確かに「喰ろうて」というからには肉は残して貰えなさそうだもんなあ、俺でも遠慮したい。



「ファウエル、お前は返事するなって! 下手に話したらあのババアの術中に落ちちまうぞ!」


「ごめぇん、キーちゃん……」


「おやおや躾のなってないガキだねえ、喰いではなさそうだが、お前でもいい。ワシが一から鍛え直してやろう」



目に剣呑な光を宿し、老婆が櫂を持ち上げた時だった。



「誰も、置いて行かない」



筋肉男がぼそりと呟いた。



「大切な仲間だ、誰かを犠牲にするつもりなんかない」


「ビュー……!」


「その通りだ、ビュー! ちくしょう、さっきから仲間割れさせようとばっかしやがって、陰険なダンジョンだぜ」



デカいアックスを肩に担いで、筋肉男がのっそりと動き出す横で、ふくよかちゃんは感動したように目を潤ませた。生贄に捧げられなくて良かったな、ふくよかちゃん。


そして、さらにその横ではちびっ子魔女が好戦的な目をして手元の杖をぶんぶんと振り回す。



「わりーが、ババア! テメーの飯になる気も弟子になる気もねーんだよ。テメーを倒してその船を貰う!」



振り回していた杖が真っ直ぐに老婆を指した途端、杖から強烈な光の束が放たれた。


その光が一瞬で老婆を貫いたかと思ったのに、老婆の姿はモヤモヤと揺れて、あっという間に掻き消えてしまった。



「どこへ行った!」



慌てて周囲を見回すちびっ子魔女たちをあざわらうかのように、老婆の「ヒヒヒヒ……!」という嘲笑がどこからともなく響き渡っている。



「おお怖い、どうやらちょいと活きが良すぎるようだ」


「上か!」



ちびっ子魔女たちが見上げた先に、確かに老婆がふよふよと浮いている。


なんとなく見覚えのあるこの感じ……まさか、この老婆もゴーストなんだろうか。



「その船はくれてやろう、沼の魔物にちょっと遊んでもらうがいい。少しは身の程が分かるだろうからねえ」


「てめえ卑怯者! 降りてきて戦え!」


「ヒヒヒ……お前たちが屍になったら可愛がってやろう、せいぜい頑張るんだねえ」



そういうと、老婆はすうっと掻き消えてしまった。あの消え方、やっぱりゴーストだ。直接的な戦闘では強敵ではない筈なのに、恐怖心をあおるのに絶妙な配役をもってくるなあ。


老婆が消え去った辺りを呆然と眺めながら、ちびっ子魔女たちは無言で立ちすくんでいる。


しばらくそうして佇んでいた三人は、やがてぎこちなく顔を見合わせ、最後にその視線は小舟に行きついた。



「……乗るか?」


「でも、怖いよ~」


「でも、乗らないと先には進めない」



気まずそうなちびっ子魔女の言葉に、ふくよかちゃんが素直な感想を述べる。


そして、筋肉男が言うように、船に乗らないと言う選択肢をぶのはかなり難しい状況だろう。

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