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ゼロのダンジョン、進化中!  作者: 真弓りの
ダンジョン改良

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一方的な戦い

どこまでも呑気そうな第八王子に軽くため息をつきながら、そばかす従者がボス部屋の中へゆっくりと足を踏み出す。その行く手には、ぷるぷると身体を揺らす、スラっちの姿があった。



「おお……愛らしい」


「見た目、なんとも普通のスライムですね。ジャングル地帯で見たスライム達のほうがまだ特色があった気がするんですけど」


「そうよなあ、だが心地よいほど強者のオーラが出ておるぞ。これは楽しみだ」



のんびりと会話する二人に、スラっちもただぷるぷると様子を見ている。戦闘力を図っているのか、何も考えていないかは俺にも分からない。



「スライム・ロード、いよいよボス戦のスタートです!」



高らかに、キーツのアナウンスがダンジョン内に響き渡る。次いでイナバの奏でるピアノも突如音量を増し、否が応でも高揚感をあおってくる音へと劇的に変化した。



「おお、ファンテよ。なにかこう、血沸き肉躍る感じがするのう」


「クリームヒルト様はそこで大人しくしていてください」


「いやいや、あれは手ごわいぞ。ここまでのスライムとは明らかに違う。いかなお前でも、ひとりでは無理だ。最後に共闘してみるのも一興ではないか」



いそいそと第八王子が袖をまくる。その腕には、細くて短い棍が仕込まれていた。


短い棍はひと振りするとあっという間に身の丈ほどに変化する。細くて一見頼りなげにも見えるけれど、金属製なのは間違いないからきっとそれなりに攻撃力は見込めるだろう。


長棍を華麗に振り回し、第八王子は楽し気に笑った。



「いやあ、久方ぶりだねえ。胸が躍る」


「…………」



そんな第八王子を胡乱気に見つめるそばかす従者は、わざとらしくため息をついた。



「あんなスライム一匹、クリームヒルト様の手を煩わせずとも、私が始末して見せます」


「大きく出たね。アレは強いよ? いくら死なないからと言って、強がるものではない」


「大丈夫です! 絶対に、手を出さないでください!」



言葉を発すると同時に、そばかす従者の足が地を蹴った。



「むっっっっっっっかつくんだよクソバカ王子ィィィィィィ!!!!!」



あ、罵倒は健在だったか。妙に感心してみていた俺は、次の瞬間声を失った。



「うわあああっ!?」



ドカンッ!ドカンッ!ドカンッ!ドカンッ!


轟音を響かせながら地面が波打ち、地面が槍のように盛り上がって来た。まるで巨大なツララが足元からせりあがってくるような恐ろしい光景が繰り広げられているんだが。


スラっち、初っ端から飛ばすなあ……。



「おお、愛らしいナリをしておるが、なかなか好戦的よな」



土筍にふっ飛ばされるそばかす従者を柔和な笑みを横目で見ながら、第八王子はゆったりした動作でなにやら敷物を広げている。


その辺にそばかす従者が投げ捨てて行ったカバンの中から水筒を取り出すと、トスンと腰を落とした。杯になみなみと水筒の中身を注ぎ、上機嫌で口に運ぶ。



「うむ、良い酒だ。ファンテはいつも趣味がいい」



まるで花見でも楽しむように、第八王子はニコニコと戦況を見守っている。



「くっ……いってえ……スライムのくせになんて魔法使いやがる」



ようやく土筍の猛攻から逃れたらしいそばかす従者。でもすでにその衣服は早くもやぶれかぶれのボロボロだ。それでももちろん、戦意はこれっぽっちも削がれていないらしい。


まだボス部屋の奥で一歩も動かずにプルプルしているスラっちに、剣を向けて宣言する。



「よーし、いい度胸だ! 絶対にその貧弱なプルプルボディ、叩っ切ってやる!」


「おおー、恰好良いねえ」


「気が抜けるんで黙っててください……う、わっ!?」



ふん、と鼻を鳴らしてそばかす従者が足を踏み出した途端に、今度はその足元を雷がえぐる。



「ちくしょう……っ! 進めやしねえ!」



いつになく近寄らせもしないスラっちに、違和感を感じる。いつもはもっとこう、肉弾戦あり魔法ありで戦闘事態を楽しんでるみたいなのにな。


不思議に思っていたら、今度はスラっちの頭上にもくもくと大きな暗雲が立ち込めた。


そばかす従者の行く手にガンガン雷を落として進路を阻みながらも、今度は自身の周辺だけにピンポイントで豪雨と言っていいほどの雨を降らせている。


なんだなんだ……?



「おっ、面白い事してるな」



モニターの前で腕組みをしていたカエンも、顎を撫でつつ興味深げにモニターに食いついた。


そのモニターの中では雨を吸い込んで、スラっちが見る間にぐんぐんぐんぐん膨らんでいく。


あっという間にボス部屋の半分ほどの大きさにまで成長したスラっちは、ぐんっと体を伸ばしたかと思うと、一瞬でのんびりお酒を呑んでいた第八王子に襲い掛かった。



「え……」



あまりに一瞬のことで、そばかす従者が言葉を失う。その視線の先にはスラっちの巨大な体の中に取り込まれた第八王子がいた。まるで海の只中に振り出されたように力なく漂っている。


俺も、言葉を失った。


スラっちがこんなにも一方的な戦い方をした事なんて一度もなかった。


言葉は交わせないけれど、スラっちはこのダンジョンが訓練用だという事をしっかり理解しているらしく、強い挑戦者には全力で当たり、弱い挑戦者には稽古をつけるかのように様々なスキルを活用して戦闘の幅を広げていた。


それが、今回はどうだ。


なにか、特別な考えでもあるんだろうか。

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