王ご一行様、ご案内
案内役のゼロを先頭に、王様、王子様、ユリウス、俺の順で練兵場ツアーの始まりだ。
「ここは、メインの練兵場です。設計図にあった広さは確保してあるんですけど、周囲に観覧席も設けてあります」
「おお…!これが一夜で…!」
王様は2階まである観覧席を見て、感嘆の声をあげている。
「あの…闘技場として利用する時は、臨場感がある方がいいかと思って、1階の最上段に防弾ガラス付きのロイヤル席を設けたんですけど…2階の方がいいですか?」
「えっ…1階の最前列が良いが」
声を合わせて言う王様と王子様。
ユリウスが呆れたようにツッコむ。
「やめて下さい。警備が面倒です」
面倒って…。
この国の王族や守護龍の扱い、酷すぎないか?
それから、シャワールームや水飲み場はもちろん、当初造らない予定だったプールやサウナまでが出来上がっているのを見て、王様や王子様は水を出して見たり、足を水につけてみたりの大騒ぎだった。
本当に、ロイヤルファミリーの自覚はないと思う。
次はいよいよ、反応が楽しみな拷問部屋だ。
「ここが、王様からご提案があった、トレーニングルームです。壁はロッククライミングが出来るように造って、部屋に置いてある機器で、色々な運動が出来ます」
3人とも、唖然としている。
「この機械は…何かね?」
王様も若干ヒき気味だ。
「僕が元いたところにも、体を総合的に鍛える場所があって、それをベースに造ってみたんですけど…」
誰も共感してくれないので、さすかにゼロもだんだんテンションが落ちてきた。
「これはランニングマシーンで、スピードとか、登り坂、下り坂の傾斜角度まで変えられます」
少し機械を動かし、ゼロが走って見せると、皆から驚きの声が漏れた。ゼロ、ホッとした表情。
「ちょっと乗ってみて下さい」
笑顔でユリウスに勧める。
二人の手前断れないよな。絶妙な人選だ。
「ちゃんと手摺持って、スタートと同時に合わせる感じで走ってくださいね」
さすが護衛隊長、運動能力は高い。
機械がスタートした途端、ぎこちなく、次第に手摺を離して本格的に走り始めた。
「スピードあげます」
「登り坂にします」
ゼロの操作に合わせて、機械も早くなったり勾配が変わったりしているが、ユリウスはなんなくついていっている。
「これは…なかなか、いいですね。勾配が変わると…使う筋肉が違います」
えへへ、とゼロが嬉しそうに笑っている。
「これ、走ってる時の脈拍とか消費カロリーとか、このモニターに色々出るんですよ!」
本当だ。凄いな。
ゼロは同じように幾つかの機械を紹介し、終わる頃には、皆がこの部屋の素晴らしさを理解した。
ユリウスは汗だくだが。
ご満悦の王様達を応接室に案内し、拷問部屋改め、トレーニングルームは子供達に開放された。これまで生きるのに必死だっただろう子供達に、騎士団長が来るまでの間でも、珍しい機械を触らせてやろうという考えだ。
わあっ!と歓声をあげて、子供達が機械に散らばる。
こんな時は、ローラやトマスだけでなく、マークも元気いっぱいだ。子供らしい姿を見ると、やっぱりこっちも嬉しいな。あいつらのためにも、国の財政はなんとかして欲しいもんだ。思わず王子様を見たら、無言で頷いてくれた。
「父上、さっきの子供達、孤児なんです。彼らが保護してくれましたが、本来国が保護するべき児童です」
「ああ、やはりそうであったか。ダンジョンで子供は召喚しないのではないかと、不思議には思っておった」
王様、苦い顔。
「先日も練兵場の検討の際、兵の闘技場を進言しましたが、積極的に王室も収入の手段を増やすべきです」
「確かにお前の言う通り、税が絡まない方法で収益をあげる方向が良いであろう。今日実際に闘技場を見て、現実に行えると確信しておる」
王様はダンディに微笑んだ。
「闘技場の案だが、国民を多く動員するなら、兵同士よりも、国民や冒険者からも志願者を募るべきであろうな。その方が盛り上がる上、近親者の観覧が増え、自ず動員数も増すであろう」
良かった。王様も真剣に闘技場の運営を考え始めたようだ。
「王の前で負ける訳にはいきませんから、兵にとってはプレッシャーですね」
ユリウスは苦笑している。
確かに兵士の皆さんは、地獄練兵場は出来るわ、闘技場で負けられない戦いを迫られるわ、踏んだり蹴ったりかもしれない…。
ちょっと申し訳ない。
唯一の希望は、プールで美人騎士団長の水着が見られるかも知れない、って事くらいだ。
多分、着ないだろうけど。
その時、受付が急に騒がしくなったかと思うと、突然の怒鳴り声。
「ダンジョンの主は居られるか!」
…道場破りかよ…。
時間的にみて、騎士団長なのは間違いない。彼女は随分と、アツい方のようだ。




