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ゼロのダンジョン、進化中!  作者: 真弓りの
ダンジョン改良

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怖い!

「ビュー?」



筋肉男が急に脱力したせいか、ふくよかちゃんが心配そうに顔を覗き込む。



「ひっ……!」



真っ青になって筋肉男からバッと離れるふくよかちゃん。それもそのはず、筋肉男の顔には気味の悪い笑みが浮かんでいた。


さっきまでの、離れたまんまるな目がなんとも愛嬌のあるイメージなんか欠片もない。大きな口が気持ち悪く吊り上がって、目は異様に細められている。



「ひひひ……」



口から洩れた笑い声は変な残響を伴っていて、背筋が寒くなるみたいだ。



「び、ビュー? どうしたの?」



少しずつ後ずさり距離をとりながら、ふくよかちゃんが話しかける。


筋肉男は、その筋骨隆々とした自らの両腕をにやにやと眺めて、気持ち悪い笑い声を響かせた。



「ついに……からだを、得た」



ニヤア、と笑ったその顔のおぞましい事!



「うわあああああ! ビューが取り憑かれたああああ!」



おっとりふくよかちゃんとは思えない絶叫と素早い動きは見事という他なかった。感心したのは、結界に逃げるわけでもなく、素早く移動した先がなにやら詠唱中のちびっ子魔女の傍だという事。


ふくよかちゃんは、ちびっ子魔女を庇うように立ちはだかり、功夫の構えを決める。


ふくよかちゃんって武闘家だったのか。


なんて考えてる間にも、のし、のし、と足音が聞こえそうなゆっくりとした足取りで、筋肉男は獲物に近づいて行く。


巨大なアックスを肩に担いで、空いた左手は拳を握ったりバキバキと指を鳴らしたり、まるで体の操作を試しているみたいだ。



「肉体がある、のは、素晴らしい、な」



言いざま、巨大なアックスが空を切る。



「くっ……! せいやっ!」



素早くアックスを避けたふくよかちゃんは、筋肉男の腹に渾身の蹴りをお見舞いした。


よろり、とよろめき、二、三歩後ろに後退した筋肉男は、それでもニヤニヤとした笑みを消さない。



「おお……体に受ける衝撃も、心地よい」



分厚い筋肉でさほどのダメージにならなかったのか、それともゴースト本体にはダメージがいっていないのか。余裕綽々なその様子に、ふくよかちゃんは唇を噛みしめる。


その時。白い陽炎のような焔が、筋肉男の全身を一瞬にして包んだ。



「グガアアアアア!?」



初めて、筋肉男が苦悶の表情を浮かべる。



「スゴイ! 効いてる! スゴイよピンキーちゃん!」


「その名前で呼ぶなっつうの!」


「ごめんねえ、キーちゃん。でもスゴイよ、今ならいけるねえ」



たたみかけようと構えるふくよかちゃんを、ちびっ子魔女が慌てて押しとどめた。



「ダメだファウエル! 多分物理はビューの体にしか効かねえ。あの気味悪いのを倒せるのは、多分魔法系だ」


「ええ~、出番なしぃ?」



不本意そうに唇を尖らせるが、確かに特に格闘系は相性悪そうだもんな。



「しょうがねえだろ、実体がないんだ。気の塊みたいなもんだからな。わかったら大人しく援護してくれ」


「ふうん、気の塊……」


「できるだけビューの体に傷をつけるなよ、攪乱で充分だ」



言うが早いか、ちびっ子魔女はもう次の詠唱に入ってしまった。



「仕方ないかぁ」



ちょっとふて腐れ気味に功夫の構えをとるふくよかちゃんの前に、筋肉男がゆらりと立ちふさがる。


巨大な筋肉の塊としての純粋な威圧感と、ゴーストから醸し出される不気味さが相俟って、とにかく気持ち悪いし怖い。愛嬌のあった顔も今では気持ち悪さを増すばかりだ。



「生意気な小娘ども……よかろう、この体の扱いにも慣れてきた。少々手合わせしてやろう」



ひひひひひ……と重低音の気持ち悪い笑いを漏らしながら、筋肉男がアックスをビュンビュンと振り回す。


あまりの気持ち悪さに、俺はたまらずゼロとグレイを振り返った。


あ、ゼロはもはや死んでるわ。



「なあグレイ、このゴースト怖すぎだろ」


「そうですな、思った以上に拾い物でしたな」



働きに満足している、という体でうむうむ、と頷くグレイ。さっき能力は普通だ、と言っていたが普通のゴーストより数段怖い気がする。



「さっき申し上げました通り、能力はあくまで一般的なゴーストなんですがね。ちょっと特技があるのですよ」


「特技?」


「ええ、実は彼は有名な旅役者なのですよ。そういうスキルを保持したままゴーストになっていましてね」


「え、じゃああれは」


「演技ですな。いやあ、実に真に迫っている」



俺はモニターを思わず二度見した。モニターの向こうでは、不気味な笑みを浮かべたまま巨大アックスを振り回し彼女たちを翻弄する筋肉男---ゴーストの姿が見える。


あれが、演技。



「ルリさんがこういうのは演技力が重要だ、とおっしゃいまして」



ルリか! なるほど、ルリが考えそうなことだ。



「その時は不思議に思いましたが、いや確かにこうして見ると慧眼でしたな」


「当たり前じゃないの。恐怖を与えるのって純粋な力量差とかよりもシチュエーションだったり心理的な圧迫だったり不安が蓄積されてのことでしょう?」



にっこり笑いながら嫌なことを言うルリ。確かにそうだが。



「あのゴースト、面白い人でね。最初からあのパーティーを徹底的に観察してたのよ。見てよ、乗っ取った対象者の真逆の態度や表情を作ることで、違和感を際立たせているのよ」

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