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ゼロのダンジョン、進化中!  作者: 真弓りの
ダンジョン改良

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彼が見たもの

可哀想に、ヒョロ長君は白目を剥いたまま意識を失っている。




「あれえ? どうしたのお、アルド?」


「あーあ、完全にイッたな。……うん、間違いなく気絶してる」



目をパチパチと瞬かせ、ふくよかちゃんはあくまでも呑気だ。そして乱暴にヒョロ長君の襟首を掴んでほっぺたをベチベチと叩き、気絶していると見るやポイっと放ったチビっ子魔女は安定の鬼畜さ。


後頭部を強打しないように素早く頭を支えてやっている筋肉男の優しさを少し分けてやって欲しい。



「あー……キーツ、データ上も確実に気絶だ。リタイアをコールしてくれ」



インカムでキーツに指示をだせば、即刻場内にアナウンスが流れる。



「気絶、気絶です! 神官アルドさん、残念ですがここでリタイアです!」



途端に「チッ」と舌打ちし、盛大に悪態をつくチビっ子魔女。よほど悔しいのか、悪鬼のような表情だった。



「アホかコイツは!目ぇ開けた途端に気絶するとか、どんだけチキンなんだ!いったい何見りゃそんなアホな……!」



怒鳴りながら天井を見上げ、その言葉が突如途切れた。


目を見開いて口をパクパクと開けている様は、空気が足りない時の魚みたいだ。



「どおしたのお〜?」


「うえ……うえ……っ」



プルプル震えて頭上を指差すチビっ子魔女。


指差す方に目をやったふくよかちゃんは「あらあ〜」と気の抜ける声をあげた。



気をきかせたのか何なのか。



突如カメラワークが切り替わり、チビッ子魔女の視界を忠実に再現する。




チビっ子魔女が張った透明な結界の天井部分にべったりと張り付いていたのは、俺も初めて見る、巨大なゴーストだった。


結界の天井全てを覆い尽くすように広げられた腕は骨に僅かに干からびた肉を纏っている。落ち窪んだ眼窩、頭蓋骨に張り付いた皮には幾重にも渡る深い皺がきざまれていた。


振り乱したバサバサの髪には白いものが混じり、身体中から禍々しい瘴気が溢れ出している。


そして、結界を破ろうと蠢く様が最高に怖い。



うわあ、これは俺でも怖いっつうかかなり嫌だ。そりゃあひょろ長君も気絶するわ。


そう納得し、ふと心配になって後ろを振り返る。


案の定、ウチのマスターも遠いところに行ってしまったらしい。机に突っ伏したままピクリとも動かなくなってしまった姿は哀れを誘う。


叫ぶ事すら出来ずに、気絶したんだな……。




「おお、気絶してしまいましたか」



グレイが満足気に顎をさする。ルリとグレイが主になって作ったらしいこのダンジョン、本人としては満足な出来のようだが、ゼロまで気絶させなくていいんだけどな……さらにトラウマになったらどうするつもりだ。



「やはりこういった趣向のダンジョンでは見かけも大きなポイントですな。実は見た目が怖いだけで他のゴーストと能力的にも突出したところはないんですがね」


「そうなのか?」


「ええ、ステータスを見ていただければお分かりかと」



グレイの言に改めてステータス画面を見てみれば、なるほど納得。


姿ひとつでヒョロ長くんとゼロ、二人の男を屠ったゴーストだと言うのに、ステータスを見る限り別にごく普通のゴーストだった。いやあ、ヤミーなみの迫力なんだがなあ。



「怖い〜どうしよう〜」


「どどどどうするって。倒すしか、ねえだろ」


「えええ〜? 結界解いたら瞬殺されちゃわない?」



ふくよかちゃんの心配も最もだ。なんせ天井ではゴーストが凶悪な結界を包み込むように手をひろげている。確かに結界が消えた途端に握り潰されそうな圧迫感だ。



「……おれが、やる」



のっそりと、筋肉男が立ち上がった。珍しく殺気のようなものを纏い、愛嬌のある離れた目すら凶暴な光を帯びていた。



「アルドの、仇」



なんだこいつ、こんなに友情に篤い奴だったのか。



「言っとくけどアルドのアホは死んでねえから!」


「そうだよう、ビューったら武器アックスじゃない、アイツ物理はきかなそうだよ〜?」


「許せねえ。気合でなんとかする」


「無理だから! なんともならねえから!」



今にも結界から飛び出そうとする筋肉男に、チビッ子魔女とふくよかちゃんが縋り付くが、いかんせん体格差があり過ぎる。


二人を体に纏わりつかせたまま、筋肉男は結界の外に躍り出た。



「あああ〜!やだあ〜」


「ふざけんなテメー! 結界から出ちゃっただろうがあ!」



その隙をゴーストが見逃すはずもない。襲いかかるゴーストに、筋肉男は望むところだとばかりに巨大なアックスを振り下ろす。



「うああああ! やっぱりぃぃぃぃ!」



そして見事に巨大アックスはゴーストの体をすり抜ける。


だよな、気合じゃなんともならないよな。



「ちくしょう、こうなりゃしょうがねえ!」



筋肉男の腕から転がり落ちたチビッ子魔女はフラつきながら立ち上がると、無心に何かを唱え始める。



「早く、早くう! ビューが死んじゃうよお」



筋肉男を抱き竦めるようにゴーストが纏わりついている。引き剥がそうと必死でもがいているけれど、もちろんゴーストに触れる事は出来ないようで、彼の無骨な手は空を切るばかりだ。


そして、筋肉男の腕が急にダランと力なく垂れた。

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