ゼロの小さな挑戦
ラビちゃんのダンジョンにお邪魔したあの日からさらに一週間。
俺たちはちょっと緊張のダンジョンオープンを迎えていた。
実は今日のダンジョンは、ゼロの涙と絶叫を糧に出来あがったフィールドだ。それをいよいよお披露目する予定だったりする。
ここんとこまともに眠れてないらしいゼロは、お約束の目の下にクマ、イライラ度マックスな感じでいい具合に追い詰められた感が面白い。
いや、だってなあ。
その原因があんまり同情できない感じなもんだから。
ここまでゼロがぐったりするフィールドなんか怖い系か虫系と相場は決まってるわけで、今日試すのは怖い系フィールドだったりする。
超上級者向けの特化型ダンジョンを造ろうにも、ある程度はノウハウがないと造れないし、ダンジョンの中で実際にモンスターを配置した時の効果や、モンスターと出会った時の冒険者が取りがちな動き、行動なんかはやっぱり試してみないとわからない。
だから本格的なものを作る前に、とりあえず簡易的なダンジョンを作ってみようってことになって、毎回ダンジョンが様変わりするのが売りのジョーカーズダンジョンの一部として作られたわけだが。
いつもならサクサク出来るダンジョンが、これまたなかなか出来上がらない。ゼロは精神の消耗が尋常じゃなく早いらしく、モンスターを何体か召喚しては一休み、配置しては一休み、トラップを配置しては一休み……と全然はかどらない。
何とか一週間をかけて出来上がった、ある意味渾身の作だ。
こればっかりは、どうしたって通らなきゃいけない道だといえる。
さすがに虫系も怖い系も同時にやるとゼロが死ぬから、まずは怖い系からって話になったんだが、その理由だって割と情けなかった。
「アンデッド系ならまだ人に見えるのもいるし、見ようによっては可愛いかったり面白かったりするのもいるし!」と自分にいい聞かせるように宣言したゼロは、若干涙目だった。
いくらゼロが涙ながらに決意したところで、言っちゃわるいがぶっちゃけゼロだけに任せておいたらパッとしないダンジョンになること請け合いだ。
久しぶりにダンジョンメンバー総出でダンジョン開発に勤しむことになった。ゼロの絶叫はうるさかったがダンジョンはなかなかの出来だと思う。
お披露目がたのしみだが、俺たちのホラーテイストダンジョンに挑む挑戦者達はどんな奴らだろう。
思いっきり反応してくれるやつだと嬉しいけどな。
「ねえ僕、考えたんだけど」
死んだように中央の席に座り込んでいたゼロが、いきなり顔をあげる。なんだなんだ?もうすぐどのコースも人が入ってくるっていうのに。
「今度作る超上級者向けのダンジョンさ、ここにいる皆をラスボスにしたらどうかって思うんだ」
「いきなりだな」
あれか、現実逃避してる間にいい事思いついたってヤツか。
「例えばユキがボスのダンジョンなら、獣系と獣人系の岩山と草原のダンジョンとかさ、きっと考えるの楽しいし個性でると思うんだ。最終ステージは雪山とかにしてさ!」
「ホント!? ボク嬉しい!」
ユキはもう真っ白なしっぽをちぎれんばかりに振っている。耳はピーン!と立って瞳は期待でキラキラと輝いているのが可愛い。
「うふふ、面白そうね。ブラウのダンジョンなんか考えるの楽しそうだわ」
「そうですな、デタラメ錬金でしたか。それも楽しそうですな」
ルリが悪そうな笑みを浮かべて言えば、グレイも深く頷いている。まあ確かに、面白そうではある。
「うわあ、それブラウ凄く喜ぶと思う!」
まるで自分の事のように目をキラキラさせて喜ぶユキ。しっぽが思いっきり左右にフリフリと揺れて、超絶嬉しそうだ。
「ハクはどう思う?」
「うん?いいんじゃねえか?まあホラー系とか魔族系とか虫系を何処にブッこむかって問題はあるだろうけど、それもまあ、皆で考えれば」
ゼロに聞かれて思わずそう答えた。せっかく皆盛り上がってるしな。
「じゃ、満場一致だね!あー良かった!楽しい事考えながらなら、これからの地獄の時間もなんとか耐えられそうな気がする!」
心底嬉しそうなゼロに思わず脱力した。そんなにもこのホラー系ダンジョンが嫌なのか。まあ、だとしても今更逃げられるわけでもない。挑戦者と同レベルでビクビクドキドキ絶叫しながら付き合ってもらう他はないわけだしな。
うん、がんばれゼロ。
「さあ、それでは本日の挑戦者を紹介しましょう!」
今日もキーツの元気のいいアナウンスでスタート。イナバが奏でるピアノも、勇壮な音楽で華々しい。
早速ダンジョンに一斉に人が入ってきた。
おお、これはこれは。
ホラーテイストを組み込んだジョーカーズダンジョンに入ってきたのは、随分とデコボコ感にあふれたメンツだった。




