守りは意外と固いらしい
「せいぜん?」
ラビちゃんがキョトンとする。その顔を見て、今度はゼロが「あれ?」とキョトンとする。ふたり揃ってアホ面だ。
「レイスって、死んだ人の霊魂だよね?」
「あ、そうか、そうですよね……えっと、最初はスキル不保持のレイスさん数人召喚したんですけど、この部屋の守備があるので格闘系のスキルがあるレイスさんを三人くらい指定して召喚したんです」
「なるほどね」
「そのスキルが生前獲得したのかレイスになってから獲得したのかは分からないがな」
ライオン君が苦笑する。まあそりゃわからなくて当然だろう。なんせレイス達ときたら奇声を発する事しかできないわけだし。
ヒーッヒッヒッヒッヒ、ヒョホホホホホ、ヒーホホホ、と今も楽しげに意味不明な奇声を発している。残念ながら言葉は話せないんだよな。
「そっか、でもそれだけ分かれば充分だよ。ダンジョントリックの中に取り入れられそうだし」
「お役に立てて何よりです!」
ラビちゃんのうさ耳が嬉しげにピーン!と立った。
俺達を思いっきり驚かせて満足したらしいおもちゃのレイス達も、跳ねるように元の持ち場に戻っていく。それだけでその場は一気に落ち着いた雰囲気を取り戻した。
「こいつらが騒音立ててくれれば俺はすぐに察知できるし、武道の心得がある奴等が僅かでも時間を稼いでくれりゃあ駆けつけられるからな」
「はい!それに実はこっそりライオウさんの部屋とマスタールームはつないであるんです。だから本当に全然安心なんです!」
この一週間で、二人の主従としての信頼関係は、しっかりと育ってきているらしい。
「ラビ、そろそろ本題の相談に入っちゃどうだ?俺達はまだそれなりにのんびりやってるが、ゼロ達は忙しい時間を割いて来てくれたんだろう?」
空気が読める男、ライオウがラビちゃんをさりげなくフォローする。
「あ、はい!」
急に真面目な顔になったラビちゃんは、緊張に耳をピンと立て、ぴしっと背すじを伸ばした。
「あの、なぜか人の形をとれるダンジョンモンスターが少なくって困ってるんです」
「ああ、最初ってスライムとかが多いもんね」
「でも、ゼロさんのダンジョンでは、最初っからルリさんとかシルキーの皆さんとか、エルフさんとか、人っぽい方がたくさん居たんでしょう?」
「それは、ルリをレアモンスターチケットで召喚できたから。その流れで妖属が召喚出来るようになっただけで……」
言いかけて、ゼロが口をつぐむ。ふと何かに気づいたように視線が空をさまよった。
「ラビちゃんもしかして、まだ使ってないレアモンスターチケットがあるんじゃない?」
「え?レアモンスターチケット……?他にも?」
「そう、ダンジョンってたしか1ヶ月以内で開放するようにダンジョンコアから言われたと思うんだけど……僕の時って『早期開放特典』とかカエンがダンジョンに初めて来て、帰った時とかに、なんかご褒美みたいにレアモンスター召喚チケット貰えたんだよね」
「だよな、それでルリとユキが召喚されたんだし」
もちろん俺も同意する。俺とゼロは狂喜乱舞する勢いで早々にチケット使ったけどな。
「ラビちゃんだってかなりダンジョンの開放早かったよな?なかったか?そういう特典」
「え? えーと……あの頃って、なんだか記憶が曖昧で」
何度も寝なおしたらしいし、自殺する気満々だったらしいからな、無理もないか。
「ダンジョンコアで確認してみたら?使ってないチケットあるか聞けば教えてくれると思うよ」
ゼロの言葉に、ラビちゃんは首をかしげながらコアに向かった。
どうやらラビちゃんの『コアさん』は隣の部屋にあるらしく、隣の部屋から「えっ?」「はあ……」「ほ、ほんとに?」と驚愕の叫びが聞こえてくる。
しばらくして隣の部屋から出てきたラビちゃんは、驚き過ぎて訳が分からない、といった複雑な表情をしていた。
「どうだった?」
「はあ、あの……なんかたくさん、チケット貰えてたみたいです」
「良かったじゃねえか、なんでそんな複雑な顔してんだ」
「いっぺんにたくさん、コアさんが色々言うから混乱しちゃって……なんか早期開放とか、高レベルエネミー撃退?とか、なんだかもうよく分からなかったですぅ……」
シュンと力なくうさ耳を下げているラビちゃんを見て、ライオウは乱暴に頭を撫でた。
「ちっせぇ事でしょげんなって。とにかくチケットは貰えてるんだろう?何があるんだ?」




