幅が欲しい
「そういう訳で、中規模、大規模ダンジョンの攻略が出来る冒険者育成がキーになるんだけど。カエン、他国も含めてなにか気になることってある?」
ゼロの曖昧な疑問に、カエンは少し考える素振りをしたものの、割とあっさりと答えを出した。
「幅が欲しいな」
しかしザックリし過ぎていて、いま一つ言いたい事が分からない。皆も同じだったのか「?」を顔に浮かべている。
「モンスターの幅とか、ダンジョンの傾向の幅だ」
あ、そういう事か。
「このダンジョンは基本的に観客に見せる事が前提で造られてるからな。モンスターもまぁまぁ見映えがいい奴が多いし、ゼロのせいで虫系やアンデッド系はサッパリだ」
カエンの指摘にゼロが項垂れる。反論の余地がねぇもんな。
「当たり前の話だが、ダンジョンは様々で、雑多な系統のモンスターが入り乱れてる所もあれば、獣・昆虫・アンデッド・精霊・魔族……何かに特化したダンジョンも多い」
なるほど、それはそうだろう。ダンジョンマスターにも個性がある。きっとダンジョンの造りやモンスターの傾向にもそれが丸ごと反映されるに違いない。
「そして規模がデカいダンジョンほど、何かに特化して進化してるもんだ」
長年に渡りダンジョンと対峙してきたカエンの言葉に、現ダンジョンマスターのゼロも深く頷いた。
「それはダンジョンのシステム考えると分かる気もするよ。一定の条件満たしたら同じ系統の高位モンスターとか召喚出来るようになるし、どれかに絞った方が圧倒的に早く強いモンスターでかためられるもんね」
「ああ、それにいち早く気付いてダンジョンを強化出来た奴が、今も中規模・大規模ダンジョンとして残ってるんだろう。頭の切れる狡猾なヤツも多い」
それか単純に運が良かった奴だろうなぁ。ダンジョンの地力と入ってくる獲物とのパワーバランスだから、いきなり強い敵が来りゃ少々頭が切れようが殺られるしな。
「なぁカエン、ダンジョンマスター自体が強いって事もあるのか?」
ふと思いついて聞いてみた。ゼロやラビは明らかに戦闘向きじゃないけど、そうとばかりは限らないしな。
「当たり前だ、種族も性格も様々だからな。先頭切って最前線で向かってくるヤツもいるぞ。そういうヤツは意外と厄介なんだ、普通のダンジョンモンスターだと思って仕留めたらいきなりダンジョンが崩れたりしてな」
なるほど、それは厄介だ。
「ただダンジョンマスターが最前線で戦ってるのは小規模ダンジョンが圧倒的に多いけどな。戦力不足を補う目的の方が多いって事だろう」
「ねぇ、そろそろ中規模ダンジョンのイメージは掴めたんじゃない?いい加減どう強化するかの話し合いに入らない?」
焦れてきたらしいルリに軽く遮られた。確かに時間の限りもある事だし、建設的な話に移った方がいいかもしれない。早速頭を切り替えて、強化ポイントの整理に入る。
「基本は講師、ダンジョンモンスター、ダンジョンの造り、この3つを強化したり幅を広げたりってのが主だよね」
ゼロが大雑把に纏めた内容に、皆うんうんと頷いている。
「講師はレジェンド達でいいんじゃねぇのか?元気も経験も有り余ってるし、何より当人達がやる気だし」
むしろ押し掛け講師にくるくらいだからな。
「基本はそれでいいと思うけど、レジェンド達だけで属性や武器を網羅してるかは確かめないといけないよね」
「う~ん、戦闘訓練も大事じゃあるんだがなぁ」
俺とゼロの会話を聞いていたカエンは、腕を組んで何故か唸り始めた。何やらお気に召さない点があるらしい。
「俺様がレジェンドに期待してんのは、むしろ大規模ダンジョンを攻略した時の経験と知恵の部分なんだよなぁ」
カエンの言葉に、思わず誰もが深く頷いた。
「……確かに」
「それはそうよね」
「中規模・大規模ダンジョンで実際に体験したトラップやモンスター、状態異常含め、後進に教えて欲しいことが山程ある」
「そうだね、特に気をつけた方がいいものは実際に訓練用のダンジョン作ってもいいしね」
「だよな、あのレジェンド達が理路整然と座学の講師してるの、あんまり想像できねぇしな」
「おいおいハク、お前なぁ」
ゼロに賛同しただけなのに、何故かカエンから呆れた目で見られてしまった。
「言っておくがレジェンド達は意外と切れるヤツも多いんだぞ?そうでないと生き残れねぇからな」
そうかも知れないが、脳筋っぽいのが圧倒的に多かったじゃねぇか。心中が顔にバッチリ出ていたらしい。カエンが爆笑し出した。
「気持ちは分かるがなぁ。武闘大会に出てたレジェンド達はもっぱら戦士・武闘家系統のヤツらだったしなぁ。頭脳専門のヤツらは今度連れてきてやるよ」
今度はゼロが青くなった。
「お……穏やかな人優先でお願いします」
まだこの前レジェンド達に絞られたのが効いているらしい。




