世界のカタチ
カエンから聞き取ったこの国の現状から考えるに、成長が止まり気味の中堅ドコロの冒険者達を鍛えあげ、他国の高位ダンジョンを攻略できる層を増産していくってのが俺たちのダンジョンに課された使命だろう。
ただ残念な事に、ゼロは勿論俺もこの国を取り巻く周辺のダンジョン状況なんか知らない。
俺達のダンジョンは元々どこにでもいる低レベル冒険者達を死なないように鍛えようっていう簡単な考えで始めたものだ。
ハッキリ言って上級、それ以上の冒険者達が今どれくらい居て、他国とどう関わっているのか、仕組みも何も考えた事すらなかった。
どれくらい増強すればいいのか、どんな施設を作ればいいのかも今は皆目分からないんだよな…。
「なぁカエン、まずは周辺の国のダンジョンとか、冒険者の状況とか教えてくれねぇか?」
「そう、僕もそれ聞きたかった。ていうか、この世界全体の事も僕よく分かってないし…」
ゼロが気まずそうに言葉を続ける。
「もしかしたら、普通ダンジョン解放する時って国の情報調べたり、他のダンジョンとの兼ね合いとか…世界地図とか見ながら有益な場所探したりするのかも知れないんだけど」
そうだな。地図なんか見てねぇわ。たまたまダンジョンが出来た所の近くにこの街があって、そこで知り合ったカエンに「俺のギルドに入り口繋げ」って言われて、渡りに船で解放したんだ。世界情勢なん勿論調べてない、潔いくらいの行き当たりバッタリさ加減だ。
俺達生きてて良かったなぁ…あ、もしかして俺の幸運のおかげだろうか。なんせ幸運の龍とも言われる白龍の龍人だからな!
「世界地図なんてモンはねぇが、近隣諸国の情報ならダンジョンの事も含めて管理はしてるがなぁ」
「えっ?世界地図ないの!?」
「そんな広範囲、必要ねぇだろ」
衝撃を隠せないゼロに、カエンは事もなげに言い放つ。
いや、俺だって知らないっちゃ知らないけど……せめて国のトップってそこんとこ抑えとくもんだろ!?
「アライン王子とか、まさか王様すら知らないとか言わないよね?」
「知らねぇだろ。そもそもあんのか?そんなもん」
徐々に不機嫌になっていくカエンに背を向けて、ゼロはがっくりと項垂れている。
「そう言えば、ゲームとかって世界地図ないのもあったなぁ…」
ブツブツ言いながらなんだか遠い目とかしてるし。俺もまあまあ驚いたが、よく考えれば2000年以上生きてるカエンが今まで要らなかったモンが、そこまで重要なものだろうか。確かに近隣知ってりゃいいのかも。
ちょっと納得しかけた俺とは相反して、ゼロは是非とも欲しかったらしい。しばらく唸っていたが、急に満面の笑みを浮かべた。
「なんだ、僕うっかりし過ぎだよ。ダンジョンコアで確認すれば一発だよ、多分」
あ、そりゃそうだ。
「ちょっと見てくる」と席を外したゼロは、ものの15分ほどで大量の情報を持って戻ってきた。
「えーとね、これが大まかな世界地図」
ダンジョンコアに映し出されたもを模写したんだろう、ゼロの手書きの世界地図が机上に広げられる。
「なんだこの『unknown』ってのは」
カエンが怪訝な顔で地図をトントンと指先でつつく。見れば確かに紙の四方に『unknown』と書かれていた。
「僕にも分からないよ。ダンジョンコアに聞いても『表示不可です』って言われちゃって」
何もないわけではなさそうだな。隠されると非常に気になるんだが。
「明らかに一部しか表示されてない感じなんだよね。僕のレベルによって開示情報も変わるとか、そんな縛りがあるのかなぁ」
「ま、そこは後で考えろ。それで?何か分かった事はあるか?」
カエンにあっさり話を本筋に戻され、ゼロはすっきりしない表情のまま話し始めた。
「うん。まずは世界地図なんだけど、見えてるだけで大陸は3つ。この真ん中の大きい大陸の下の方にこの国はあるんだね」
ゼロの説明を聞きながら、手書きの世界地図を見ていく。
「この丸はダンジョンを表してるんだけど、青が小規模、黄色が中規模、赤が大規模のイメージ」
なるほど、どうやらこの国の中にもダンジョンはいくつかはあるようだが、いずれもダンジョンレベルは高くはない。カエンが「いくら潰してもぽこぽこ出来る」と言っていたように、出来ちゃ潰しのいたちごっこなんだろう。
面白い事に、この国を中心に青い小規模ダンジョンが乱立し、この国から離れる毎に黄色や赤が混ざり増えていく。海を隔てた向こうの大陸には、黒い丸がポツンと一つ配置されている。
「黒い丸は?」
「超、大規模ダンジョン」
そうだろうとは思った。




