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ゼロのダンジョン、進化中!  作者: 真弓りの
ダンジョン改良

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スラっち、奮闘

幻術士の言葉につられて見てみれば、スラっちは空気を取り込んだように大きく膨れている。


ジャガイモ侍達の攻撃を難なく躱し、次の瞬間スラっちから放たれた業火は、なんと結界の中の二人を狙っていた。しかしさすがに結界は破れない。凄まじい勢いの業火ですら、二人の手前で透明な壁のようなものになんなく阻まれてしまった。



「ふむ、大技かと思ったが…これしきでは我の結界は破れぬな」



幻術士は余裕の笑顔だ。イケメンなだけに、優雅な微笑みが非常によく似合う。巫女殿の言葉を借りると「雅よのう」とでも言ったところだろう。


もちょろんスラっちは驚いたようすもなくすぐに次の動きに入っている。今度は目まぐるしく伸縮し始めた。



ボヨン!ボヨン!



伸縮するごとに僅かに色が変わり…なんだか、淡く光り始めている…?


眩いような光ではない。若草色の体が段々と光沢を帯び、シルクのような真珠のような…とにかく穏やかな光を纏っていた。


「なんじゃ…恐ろしいほど気が凝縮しておる。一体何をするつもりじゃ…?」


巫女殿が眉をひそめたその時。


忽然とスラっちの姿が消えた。



「!!!?」


「消えた!?」



次の瞬間、スラっちの小さな体が幻術士の目の前に現れる。


え…?結界は…?


と思う間もなく、大きく膨れ上がったスラっちが、間髪入れずにまたもや盛大に業火を吐いた。


今度は結界の中で業火が燃え盛るからたまらない。四角い結界の形がハッキリ分かるくらい、一瞬で炎が結界を満たす。


炎を吐いたスラっちは次の瞬間には結界の外で呑気に跳ねているが、これはなかなか酷い攻撃じゃないか?…ていうか、これってワープだよな。ワープって結界の中に入れるんだな…。



「破っ」


素朴な疑問を感じていたら幻術士の声で我に返る。


いち早く結界を解いて被害を最小限に食い止めたんだろうが、それでも二人は服もボロボロ、ススだらけだ。回復魔法の光の残滓が薄く体を覆っている。


「味な真似を…っ!?」


ドガァァァァァァン!


幻術士が言い終わる前に、その体が吹っ飛ばされた。



ドガァァァァァァン!


ドガァァァァァァン!



「きゃあぁぁぁ!!」



ああ、巫女殿まで吹っ飛んだ!

女でも容赦ねぇな、スラっち…。まぁ、俺もだが。


派手な音をたてているのは、なんかこう…土の塊だった。筍みたいな尖った土の槍が、あっちからこっちから派手な音を立てながら生えては消えていく。


次々に生える土の筍は、吹っ飛ばされては落ちる二人を何度も襲い、立ち上がる暇さえ与えない。二人を中心に局所的な地殻変動にも見える派手な魔法が繰り広げられる一方で、魔法が及ばない場所でスラっちだけが呑気に軽く跳ねている。ギャップが凄い。


これはさすがに勝負あったんじゃないだろうか。



スラっちの圧勝で勝負がついたと思ったのも束の間、まだまだ勢いの衰えない土筍の合間から大きな二つのシャボン玉が浮かびあがった。中には一心不乱に呪文を唱える巫女殿と、満身創痍で苦悶の表情を浮かべる幻術士がいる。


なるほど、空中に浮かばれると、さすがの土筍も無力化してしまう。巫女殿もなかなかやるもんだ。


「く…私とした事が…世話をかけた…」


屈辱だと言わんばかりの表情で呟いた幻術士が、素早く回復呪文を唱える。


そのままフワリと腕を高く掲げると、ゆったりした袂から今度は人型の小さな紙片が無数に舞い散った。これは…間違いなく新たな幻術なんだろう。


「……!?」


なんだ?

固唾を飲んで見守っていたら、眩い閃光と共に人型の紙片が掻き消えてしまった。一瞬唖然とした幻術士が、掲げた手を見つめながら憎々しげにため息を漏らす。


「……この感じ……!魔王とやらも幻術を掻き消せるとは小憎らしい…!」


そうか、そりゃ当然スラっちだってサーチも分解も使えるだろう。レッドと同じ要領で幻術に使われている媒介を無効化しているらしい。



その時。



突然、激しい雷撃がスラっちを襲った。




激しい雷撃に、力なく転がるスラっち。



「スラっち!」


「イエロー……!本気でスラっちを攻撃したわね!?」



イエローの容赦ない攻撃に、モニタールームではルリがイライラと拳を握りしめている。「後で覚えてなさいよ…!」とか物騒な事を呟いてて、ちょっと怖い。


まぁ、これしきで倒されるスラっちじゃないが、隙が出来てしまったのは確かだ。



「でかした!」



これを好機と、ジャガイモ侍が斬りかかる。


ズバッと振り下ろされた刀は、スラっちを真芯で捉えたかのように見えた。



「む!?」



ジャガイモ侍が驚きの声をあげる。



…真芯で捉えたかと思ったのに、僅かにそれていたのかスラっちにはあたっていなかった。スラっちと刀の間は数ミリ程しか空いていない。



「こしゃくな!」



怒りで顔を赤くしたジャガイモ侍が、今度は横ざまに刀を振り抜く。

これも真芯を振り抜いたと思ったのに、何故かスラっちは無傷だ。

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