拾ってきたのは①
危険かも知れないので、王子様達には応接室で待機して貰い、俺達は慌てて受付フロアに出る。
あ、カエン。とブラウ。
…それに、何故か他にも子供が4人。
一瞬の微妙な間の後、ゼロは子供達ににっこり笑って「いらっしゃい」と声をかけた。次いで、二人に優しく問いかける。
「お帰り、ブラウ、カエン。その子達は…友達?」
ブラウはゼロをみつめると、いきなり土下座した。
「お願いします!こいつら、ここに置いてやって下さい!」
「えっ!?あの、どういう事?」
…やっぱりな。
ゼロは目を白黒させているが、俺は4人の見知らぬガキを見た瞬間、イヤな予感がしたんだよ。
ブラウと同い年くらいの男の子と、それより2~3才下くらいの男の子2人、女の子1人の計4人。
着ているものはボロボロで、うす汚れている。明らかにストリートチルドレンだ。年かさの男の子は他の3人を守るように立っている。きっとこいつがリーダーなんだろう。
「俺は反対だ。帰って貰え」
先手必勝でまずは俺の意見を言う。ゼロは性格上、他人を信用し過ぎる。ガキには警戒すらしないだろう。
だが、一緒に暮らせば、ここが「一生遊んで暮らせるくらいの秘宝がある」いわゆる「ダンジョン」だって事はガキでも分かる。マスターであるゼロを殺せば、秘宝が手に入ると、もし彼らが思ったら?考えただけでもゾッとする。
「カエンが言った通りだ。やっぱり反対するのはあんたなんだな」
リーダーらしい少年がクスクスと笑う。
目は笑っていない。こいつは要注意だ。
「おい、カエン。あんた何吹き込んだんだよ」
カエンは「人聞き悪ぃな」と相変わらずのニヤニヤ顔。ホント腹立つ!
「ゼロは優しいから心配ない。ルリはオレの顔見ればむしろ大歓迎。ハクは慎重派だから許さないってごねる筈」
カエンが「バラすなよ」と小突く。
ホントにあんた、何言ってくれてんだ!
「銀髪のイケメンがハク。あんた、ハクでしょ?」
ルリが吹き出す。ゼロの命は俺達みんなの命だし!ごねて何が悪いんだ!ちくしょう!
「ゴメン、僕、話についていけてないんだけど…。どういう事?」
ゼロが申し訳なさそうに、会話に入ってきた。
「ああ…この4人は、多分ストリートチルドレンだ。察するにブラウ達は、財布スられるかなんかでこいつらと知りあって、境遇に同情して連れてきたとか、どうせそんなトコだろ?」
めかし込んで街に出たブラウを、いいとこのボンボンと勘違いして絡んで来たんだろう。こういう面倒が起きないように、街に行った時は表通りしか歩かなかったのに。
「その通り!変に頭が回るってのもホントだね」
カエン…。
ホントに何言ってくれてるんだよ…。
「黒髪がゼロ。あんたがゼロだよな?こいつらだけでも置いてやってくれないか?オレと違って、まだこの暮らしも短いし、まだやり直せると思うんだ」
リーダー格の少年は、子供達の頭を撫でながら、困ったように笑っている。俺達には終始生意気な態度だが、子供達は可愛いんだな。
しかしイヤな展開だ。
このお涙頂戴感たっぷりの流れだと、ゼロは確実に面倒を見ると言い出すだろう。
「けなげだわぁ、子供達を思って自分は身を引くなんて。ねぇゼロ、私からもお願い!置いてあげて?」
ちっ。カエンの読み通り、ルリは完璧にもう向こうの味方だ。
確かにリーダー格の少年だけは抜群に顔がいい。まだガキのくせに、大人になったら女を泣かせそうな、クールかつ色気のある顔立ちだ。
もはやルリは一切期待出来ない。
ゼロがチラチラとこちらを伺い始める。
だめだ。許さん。仔犬を飼うような気軽さで、人間はダンジョンに入れられないんだ。例え子供でもな。
「あれは普通に頼んでもムリじゃない?」
「うん、何か納得できる方法考えないと…」
「なんであいつ、あんな偉そうなんだ?あんたがマスターなんだろ?」
言っとくが、こそこそ話してるの、全部聞こえてるからな!
「とにかく俺は反対だ。どうしても置いてやりたいなら、俺を説得できる案でも考えてくるんだな。俺は応接室に戻る」
王子様もあんまり放ったらかしに出来ねーし。
俺はシルキーちゃん達に、ガキどもになんか食わせてやるように頼み、その場を後にした。ゼロが本気で決断すれば、所詮ダンジョンモンスターの俺は逆らえない。何か対策を考えないと…。
頭が痛いよ、全く。




