不発?
「…なんじゃ、なぜ発動しない?」
「まさか失敗したのか?お主らしくもない」
巫女殿や侍達も怪訝な顔をしている所を見るに、やっぱり技は不発だったようだ。
…不思議スライムもいないというのに、一体何が起こってるんだろう。
「失礼な。私の呪は完璧だった」
ムッとしたように幻術士が言い返す。さすがに失敗扱いは許せないらしい。
「じゃあ、なぜ」
「発動の瞬間妨害が入った感触があった…呪が何者かにかき消されたのだ。さっきの眩い光が原因だろうが…」
ただ、その光を放ったのが誰かまでは分からなかったんだな、言葉尻が微妙に歯切れが悪い。
「…て事はスラちゃん達が何かしたって事よね?ねぇゼロ、何かそれっぽいスキルないの?」
ルリの最もな質問に、ゼロは「う~~~……ん」と唸り声をあげた。目が忙しなくモニター上を行ったり来たりしている。
これといって分かりやすく魔法を妨害出来そうなスキルがないのか、ゼロも困った様子だ。
ひょっとして不思議スライムの置き土産だったりしないんだろうか。もしそうだとしたら、いくら原因を解明しようと思っても全く無駄だったりするんだが。
「解呪されるなど、屈辱以外の何物でもない」
不機嫌にそう吐き捨てた幻術士は、再び同じ動きで無数の花びらを散らす。
…すると。
今度は呆気なく花びら達がかき消えてしまった。先刻みたいに閃光すらない…ますます訳が分からなくなってきた。
「ふむ…では、これでどうだ」
今度は幻術士の掌から若々しい緑の葉っぱが無数に飛びたち、激しい渦を巻いてスラレンジャー達に向かっていく。
そして、またもや閃光と共に竜巻がかき消えた。
「…なるほど、厄介な事よ」
何かを理解したかのように、深く頷く幻術士。
「何か分かったのか?」
「ああ、どうやら呪の媒体になるもののみを的確に壊されているようだな」
「そんな器用な事が出来るというのか…」
「そうとしか考えられん。同じ呪の時は眩い光が放たれないところを見るに、あの光で呪の元となる媒体を特定していると見た。」
すげぇな、あの幻術士…。
術を放ちながら、そんなところを見てたのか。
「あ、なるほど!」
今度はゼロが声をあげる。
「それならこれかも」
ゼロが指差したのは、レッド…レンジスライムのスキルだった。
「サーチ…と分解…?」
確かにそれならあの幻術士が言ってとような事が出来るかもな。ただプルプルしてると思ってたら、レッドのヤツ、そんな高等な事してたのか…。
「ふむ…」
おもむろに、幻術士が新たな呪を唱える。
そして、またもや辺りが光で包まれた。
「お前だ」
光が収まった時、幻術士の指はまっすぐにレッドを差していた。なんと、ついにどのスライムが術を妨害しているのかまで特定してしまったようだ。
恐るべし、幻術士。
「行け」
目線とこの一言を受けて、修行僧が元気いっぱいに飛び出した。まっすぐにレッド向かい「たぁっ!」「そりゃ!」と矢継ぎ早に金属棒を振り回す。
レッドは華麗に避けてはいるが、さすがに余裕がありそうには見えない。今度呪文を唱えられたら、さすがのレッドも対応出来ないだろう。
「さぁ、もう邪魔は入るまい」
にっこり微笑み、幻術士がゆったりした服の袂を翻す。袂からは、無数の白い小鳥が飛びたった。
…手品か!
と軽くツッコミたい。
小鳥達は集団になって、次々とスラレンジャー達に襲いかかる。まさかの物理攻撃か…?いや、別にスラレンジャー達に外傷はないみたいだから、やっぱり幻術か?
ただただ群れてスライム達にまとわりついてはそのまま去っていく小鳥達。一体何がしたかったのか…。
訳は分からないが、侍達はすでに腕組みで傍観を決め込んでいるし、ついに修行僧も金属棒を下ろした。
そして幻術士は満足そうにスラレンジャーに微笑みかける。スラレンジャー達、ゆっくりプルプルしてるけど…なんか術にかかってるんだろうか。ぶっちゃけ見た目じゃ分かりようがないな。
仕方なくステータスを見ようと目を一瞬離した途端、幻術士の柔らかな声が響いた。
「行くぞ」
え!?
まさか目を離した一瞬で決着がついたのか!?
驚いてモニターを見る。
すると、不思議な光景が目に飛び込んできた。
ボス部屋を颯爽と出ていく巫女殿達ご一行の後から、スラレンジャーがピョンピョン跳ねつつ着いて行く…?




