あっけない終幕
筋肉と毫毛の鎧を纏った狼兄さんは、スーパースライム達に向かって走り出す。互いに突進した場合、ぶつかった時のダメージってさらに増すんじゃないだろうか。
心配しながら見ていたら、走りながらも狼兄さんが両腕を真横にあげた。
これは……ダブルラリアット的展開か?
このスピードでぶつかって、スーパースライム達2体を腕だけで仕留めるって…腕に負荷がかかりすぎじゃねぇのか!?
余計なお世話だが心配なものは心配だ。
スーパースライム達は示し会わせたように前傾姿勢で迎えうつ。自分達のデカさと重さでこの攻撃を凌ごうと思っているのだろう。
そんな事を思う間に、狼兄さんとスーパースライム達は激しくぶつかりあった。
ボヨ~~~~ン
バイ~~~~ン
間抜けな音が響く。
…うん、仕方ないよな。スライムなんだし…硬い音がしないのは仕方ない。
わかっちゃいるが、なんて緊張感のない…。ちょっぴりガックリしつつモニターを見つめると、そこには気持ちいいくらいぶっ飛んでいくスーパースライム達が見えた。
「っっっしゃあぁぁ!!!」
右手を高く突き上げ、勝利の雄叫びをあげる狼兄さん。まさかスーパースライム2体が力比べで負けるとは…。狼兄さん、侮り難し。
「ああん、スーパーちゃんが…!」
リリスの悲しそうな声が上から聞こえた事に、狼兄さんはぎょっとした顔で反応する。
「んもぅ、次は負けないんだから!覚えてらっしゃい!」
行くわよスラちゃん達、とリリスに声をかけられて、チビ獣人達と乱闘していたスライム達が一斉に退却する。
なんと素晴らしい退き際。リリスの統率力、尋常じゃねぇな。
「まんまと逃げられてんじゃねぇよ!」
狼兄さんの軽いデコピンで、ツリ目ヤンチャ君が弾き飛ばされ、ゴロゴロと転がった。
「あ、悪り。解除してなかったわ。」
スーパースライム2体をふっ飛ばしたムキムキの豪腕から繰り出されるデコピン…。ツリ目ヤンチャ君、大丈夫か?
「いっっってぇぇぇぇ!!」
額を抑えて悶絶するツリ目ヤンチャ君。こればっかりは仕方ない、恨み言は狼兄さんに言ってくれ。
戦闘にもひと段落ついたし、今度はスライム・ロードを見てみるか。
「うぬぅ…さすが魔物の王、なんたる卑怯さ!」
早速ジャガイモ侍が憎々しげに叫んでいた。一体なにがあったのか…と周りの様子を見てみれば、可愛い5色のスライム、スラレンジャー達と対戦中だった。
「いや、この先にもっと大きな力を感じる。ここはまだ中盤であろう」
細身のイケメン幻術士が冷静に告げる。やっぱりこの男の方が侍達よりも能力は高いようだ。
「まだ先があるのか…充分に強いが…」
もう一人の侍が呆れたように肩を落とした。しかし、それも長くは続かない。黄色いライジンガードスライムが、その硬い体をフルに使って猛攻をかけてくるからだ。
「くっ…なんと硬い…!我が愛刀が刃こぼれしてしまうではないか!」
「この青いのも、そっちの赤いのも相当な硬さですぞ!呪法の方が効果的やも知れぬ!」
侍二人の苦戦に、イケメン幻術士はふむ、と頷いて後ろに控える修道僧を振り返る。
「そうよな、呪法か…棍の方が良いかも知れぬな。…試してみるか?」
微笑を浮かべるイケメン幻術士に、修道僧が嬉しそうに破顔した。
「いいのか!?」
これまでさして動きを見せなかった修道僧が、突然イキイキとした顔になる。その場で高く飛び上がると、空中でクルクルっと2回転、着地と同時に金属の棒をビシっと構え、ポーズを決めて見せた。
なんかスラっちみたく元気なヤツだなぁ。これまで目立たなかったのが嘘みたいだ。
「じゃーオレ、赤青黄の3色相手するから、あの黒いの頼むなっ!」
言いながらも体は既にスライム達に向かって駆け出している。戦いたくて堪らなかったみたいに、跳ねるような勢いだ。
一方侍達は二人して、黒い不思議スライムに刀を向けた。
…とりあえず隅っこにいるピンクちゃんは、まだターゲットとして認識されていないらしい。もう暫くバレないでいてくれると助かるんだが。
ピンクちゃんも隅っこでプルプルさえ控えて傍観モードだが、対する挑戦者サイドもまだまだ戦力温存中だ。巫女どのはもちろん、幻術士も参戦していない。今はまだ様子見という段階なんだろう。
ガキィィーーーーン!!
「うっわ、ホントに硬てぇ!」
硬質な金属音を響かせ、元気な修道僧はスライム3体と楽しそうに打ちあっている。長い金属棒のリーチを活かして、力いっぱい打ち込むものの、スライム達の鉄壁の防御になかなか決定打は入らないようだ。




