獣人軍団vs.リリス率いるスライム軍団
「ふんっ!スライムなんかに負けないからな!」
「そーだそーだ!コテンパンにのしてやる!」
相変わらず威勢だけはいいチビ獣人達。まだチビっ子のいう事だからか、不思議と腹はたたないが……今後のためにも見かけだけで侮っちゃいけないという事をスライム達から学んだ方がいいな。
獣人なだけにチビ達も十分すばしっこく動きまわっているが、スライム達も負けてはいない。ひらりひらりとチビ獣人達の爪を逃れ、避けては魔法を放っている。
そこに、ズイッとスーパースライムの巨体が割って入った。チビ獣人達よりも僅かに大きいスーパースライムは、威圧感もなかなかのものだ。
一瞬こわばるチビ獣人達。
同じタイミングでスーパースライムの体が一際大きく膨らんだ。一気に萎むと共に、スーパースライムから強力な火焔が吹き出される。
轟々たる火焔がチビ獣人達に容赦なく迫っているというのに。
「ひゃううっ?」
「ひいぃ!!」
あまりの火勢にチビ獣人達はすくんで動けない。やっぱり獣人って火が苦手なんだろうか。とっさにできたのはドングリ目ちゃんを皆で囲んで庇う事だけだ。ついに火焔がチビ獣人達を包み込む。
「馬鹿野郎!すくんでる場合か!!」
その時、体中にスライムをまとわりつかせたまま、狼兄さんが猛然と炎に飛びこんだ。
と同時にチビ獣人達が団子状態で転がり出てくる。まるまったままゴロゴロと転がり、デカい岩に派手にぶつかってやっと止まった。
「きゅう……」
「い…た…い…」
転がり出てきたチビ獣人達は火傷だらけの傷だらけ。でも、炎から強制的に出されたおかげか、深刻なダメージには至っていないようだった。
「蹴る事ないだろ…ば…ばかリプト…」
文句にも勢いがない。
ていうか、蹴り出したのか…。容赦ないな、狼兄さん。
「うっせぇ!助けてやっただけありがたく思え!生意気ばっか言ってっと回復かけてやんねーぞ!!」
言いながらもチビ獣人達の所に向かって走り寄る狼兄さん。口が悪い割にはなんだかんだチビ達の事は放っておけないんだろう。
ちなみに炎に飛びこんだ際にスライム達はそれなりにダメージを受けたらしく、総じて逃げ狼兄さんから距離をとり、ちょっと離れた場所でヒールスライムにヒールを受けている。
スライムだからな…炎には弱いんだよな。
「回復なんかさせないわ」
リリスの鞭が、あっと言う間に狼兄さんを捕らえた。チビ獣人達に気をとられていた狼兄さんは、背後に迫ったリリスに気付けなかったんだろう。
「魅了には耐性があっても…こっちはどうかしら」
妖艶に笑い、狼兄さんに口付ける。
魅了がきかないもんだから、精気を吸い取る事にしたらしい。でもこれ、チビ達の教育に悪いな。
さすがに耐性はなかったようで、狼兄さんのHPがギュンギュン目減りしていく。
「ばかリプトを離せ!!」
「きゃあっ!?」
ツリ目ヤンチャ君が、後ろから思いっきりリリスに蹴りを入れた。リリスがよろけたのを見たチビ獣人達は、傷だらけのくせに次々とリリスに飛びかかっていく。
「きゃっ!ちょっと…っ…いやん!」
なんてこった、タックルされた場所が悪過ぎだろ。膝裏を直撃されて見事に後ろに倒れこんだリリスは、チビ獣人達から容赦なく飛びのられ、四肢を抑えつけられてしまった。
「よぉ~し、お前らよくやった!そのまま抑えてろ!」
狼兄さんが素早く呪文を唱え、チビ獣人達の体にもキラキラした光が降りそそぐ。確実に回復魔法だろう。
「形勢逆転だな。いやぁいい眺めだ。役得、役得」
ニヤニヤと、抑えつけられたリリスを見下ろす狼兄さん。
「すけべ!」
「変態!」
チビ獣人達から白い目で見られてるし。
だが、リリスがピンチで黙っているような侠気のないスライムはうちにはいない。スライム達も一斉に戦線復帰してきた。小さなスライム達はチビ獣人達に、そしてスーパースライム2体は、揃って狼兄さんに突進してくる。
狼兄さんの後ろにはリリスを抑え込んでいるチビ獣人達がいるから、普通に考えて狼兄さんは避けるわけにはいかないだろう。
うん、普通なら。
まさか、避けたりはしないよな?
若干不安なのは何でなんだろう。ヒヤヒヤしながらモニターを注視すると、狼兄さんはその身にただならぬオーラを纏っていた。
「ぜってーでけーのが来ると思った!覚悟しろ!!」
一声叫んで、狼兄さんが咆哮をあげる。腹に響く咆哮と共に、狼兄さんの体中の筋肉がもりもりと隆起し…剛毛に覆われていく。顔まで剛毛に覆われた姿は、かなりワイルドだ。
これは……獣化なのか?
とりあえず避ける気はないようだで良かった。狼兄さん、疑ってすまん。
「てめーらごとき、全力だすまでもねー!30%で充分だ!」
重さを増しひび割れたような声で、狼兄さんが吠えた。




