騎士達の末路
もうその後は散々だった。
スライムメイジが酷いんじゃない。酷いのはむしろ、地獄の業火で焼かれても、華麗な回し蹴り(?)をキメられても、しぶとく混乱中のままな騎士達だと思う。
哀れ、騎士達はいいところ一つ無く、爆笑したりスピンしたりハイタッチしたりしながら敗れていった。
きっと思い出したくもないが、忘れられない思い出になったに違いない。
「あ~あ、呆気なかったな。今日は俺の対戦は無しか」
ぶっちゃけ30分たってないくらいの印象だが。もう少し普通に戦ってる騎士達も見たかったな。これから俺達が鍛える事になるならちょっと実力も把握しておきたい所だし。
ま、仕方ない。
見守るモニターも対戦相手も失って少々手持ち無沙汰だが、他のモニターを覗き見てみるか。
気になるモニターといえばアレだ。スライム・ロードのモニターだろう。そろそろちょっと手強いスライム達が待つジャングルの第二ステージに入った頃じゃないか?
おお、荒れてる荒れてる。
「くぬぅ、さすが悪魔の巣窟ですな!この足場の悪さ、太刀を振れぬ木立ち、卑怯極まりない」
いちいちカンに触る言い方するなぁジャガイモ侍…。まぁ確かに冒険者を鍛えるためのダンジョンだから冒険者に不利な環境をわざと作ってるし、言ってる事は否定出来ない。
「そう言うな。なかなかの強者ぞろい、腕がなるというものだろう」
もう一人の侍はカッコいいのに…。
ジャングルの個性派スライム達と最前線で戦っているのはもちろん二人の侍だ。
木立ちの中をバネのように跳ね回るウィップスライムは、いつのまにか数が増えて群をなして冒険者達に猛攻をかけている。対する侍達は太刀が振るえないからか、小太刀で応戦中だ。確かになかなか分が悪い。
リィー………ン……
リィーー………ン…ン……
その時微かに、鈴のような音色が聞こえてきた。
「むっ、始まったか」
ジャガイモ侍がひとりごちる。
リィー………ン……
リィーー………ン…ン……
その間にも鈴の音は次第に大きくなり、遂には重なって聞こえるようにも思えてくる。儚げなのに妙に耳に残る不思議な音だ。
ボタっ
ボヨ~ンっ、ボヨっ…
あちこちで鈴の音を邪魔するように間抜けな音がし始めたと思ったら、なんとウィップスライム達が地面に落ちて跳ね返る音だった。
木々の間を跳ね回っていたウィップスライム達が、次々と力無く落下していく。…いったい何が起こったんだ?
慌てて見たステータスには「状態異常:眠り」の文字。
あっ…さっきの鈴の音…さては魔法か何かだったのか!
「いや、助かった。ちと手こずっておったからな」
満足そうに頷いたジャガイモ侍は、眠りに落ちたウィップスライム達をバッサバッサと斬り捨てていく。
ああ~…無抵抗なのに…仕方ないが。
このままじゃウィップスライム達が…全滅…!と思った瞬間、厳かで神々しい光が辺りを包む。
光の中心には、大きな6枚羽根をゆっくりとはためかせ空中に浮かぶ神々しいスライムがいた。
あ…。能天使の光翼スライム。
相変わらず無駄に神々しいな。
悪魔め!くらいの勢いで戦っていたら、いきなりかなり神々しいスライムが出てきて…ジャガイモ侍達は呆気にとられた顔でただただ能天使の光翼スライムを見守っている。
能天使の光翼スライムの6枚の羽根がゆっくりと体を覆い、スライム本体を覆い隠していく。
そして、二拍の間。
閉じていた羽根をバッと開いた瞬間、当然の如く無数の光が弾丸のように降り注いだ。
「ぬおっ!!」
「きゃあぁっ!?」
すっかり見惚れてしまっていた巫女殿と侍達は避ける事すらできずに、見事に被弾している。
「ぐぬぬ…卑怯な!」
体中に光の弾丸で受けた傷を負いつつも、ジャガイモ侍の戦意は衰えない。ただ、力いっぱい憤ってはいるものの、侍達の刀では空中に浮かぶ能天使の光翼スライムにはかすりもしなかった。
「おのれ!ヤス、呪文を唱えい!」
苛立った様子のジャガイモ侍が、後衛の術師達に向かって喚き始める。だが、悪いが能天使の光翼スライムの真骨頂はここからなんだよな。
神々しい体が一際高く飛び上がったら、一斉掃射の合図だ。
急上昇したかと思ったら、鷹のように急降下してくる。そのまま侍達の真上を高速で通り抜けざま、光の弾丸を一斉に放つ。
後衛の術師達が呪文を唱える隙すら与えず、大量の光の弾丸が降り注ぐ様は、やっぱり戦闘機のようでかっこいい。
僅かな時間で、侍達は甚大な被害を受けてしまった。
「…のう、妾も戦っても良いか?」
「巫女どの!」




