王室考案練兵場
「うちは、そういうのはちょっと…」
ゼロは完全にヒいている。
「あははっ!冗談だよ?そんな顔しないでよ」
いやいや、これまでの行動から見ても、ぶっちゃけ、あんま冗談にも思えねぇし!ダンジョンのメンバーは、残念ながら全員が疑いの眼差しで見ている。
「ちょっと!なに?その目は。結構傷つくんだけど」
王子様はブツブツ文句を言いながら「これ、完成イメージ図ね」と、設計図的なものをヒラヒラさせる。
ゼロの目が光り始めたし、本題に入るか。
俺達は、王子様達を応接室に案内する。シルキーちゃん達に、お茶とお菓子を頼むのも忘れない。
王子様との打ち合わせは、その後数時間に及んだ。
…と言っても、間で色々あったからだ。
王子様の言葉通り、提案された練兵場は普通のものだった。
訓練場はそこそこの大きさで、両端にズラっと並ぶのは細めの丸太に藁を巻いたもの。
あとは水飲み場とシャワールーム。
それだけ。
…なんだコレ。普通過ぎてつまらない。兵士の皆さんには悪いが、地獄練兵場の方がまだ造り甲斐がある。
ゼロも無言だ。…楽しみにしてたのに。
「どう思う!?それ!」
「はぁ…どうもこうも…普通ですね」
ハッキリ言えば
「これ、ダンジョン機能使わなくても、普通に出来ますよね?」
って、ゼロ!ハッキリ言ったぁ!
「つまんないわぁ。お姉さん、がっかりよ?」
ルリが久しぶりに気怠い流し目を見せた。むしろその方が色っぽいのはなんでだろうな。
「でしょー!?僕も超反対したんだけど、騎士団長の頭が固くて!」
あ、なるほど。
お偉いさんの意向な訳ね。
ユリウスは苦笑気味に「そう言わないでやって下さい。地道な鍛練が一番だと考えてるんですよ」と、王子様を宥めている。
それにしても、普通過ぎるけどな。
「王様やアライン様は、本当はどうしたかったんですか?」
騎士団長さえ説得出来ればなんとかなるなら、色々考えてからでも遅くはない。
この王子様や王様まで黙らせるとは、どんな恐ろしい人かは知らないが、新しい計画には反対しがちな人も、出来上がってしまったり、やってみると途端に納得したりする事もある。
落としどころはあるかも知れないもんな。
「僕?僕はね、真ん中が闘技場にもなるような感じで、部屋の壁際が階段になってたり、2階に観覧席があるイメージ」
「王は、身体機能を総合的に高めたいと、ロッククライミングやプールなども交えた、アスレチックのようなものを想定されていたようです。座学も行うと言ってましたね」
ユリウスが、王様の考えを代弁してくれた。
「ちなみに私は、集団戦に対応出来るように、沢山の武器が、ランダムに四方から襲ってくる小部屋が欲しいと提案しました」
ユリウスは言葉を足してにっこりと笑うが、笑顔が怖いし。
それにしても、今の内容なら反対される理由が分からない。
「どこが反対されたポイントですか?」
「兵の訓練は見せ物ではありません!とか、怒られたんだよ」
「王と私の案は、ほとんどが一般的な練兵場で賄えると」
「プールはムリでしょう」
「彼女は泳ぎが苦手なので…」
騎士団長、女か!
「まぁね、僕達もさ、騎士団長が水着になったりしたら、兵が訓練に集中できないかもと思ったし」
つまり兵に人気の、美人騎士団長なんだな。それは見てみたい。
「今の、造っちゃいませんか?特に王様の案って、スポーツジムとアスレチックが両方入ったイメージだと思うから、僕、あった方が良いと思う」
「ほんと!?」
ゼロの提案に、王子様が超嬉しそうに反応する。
「俺も、皆さんの案を取り入れた方が、良い練兵場になると思います」
俺も賛成の意を示した。
隣でルリが、うふふ、と妖艶に笑う。
「ねぇ、騎士団長さんの弱みって、無いのかしら」
「もしくは、超好きなもの」
ルリ…、ゼロ…、それ脅すか買収するか、って話ですよね…。
俺は悲しい。
嘆いていたら、何故か急に受付フロアが騒がしくなった。「いらっしゃいませ!」と言う声が聞こえてくる。
ついエリカ姫を思い出して、王子様を疑いの眼差しで見てしまったが、不本意そうに否定された。
じゃあ、一体誰なんだ?




