その頃の騎士達
気の抜けた声がしたと思ったら、声に似合わぬ早業でリザードソルジャー達が吹っ飛ばされ、沈められていた。
完全に傍観の体だった狼兄さんが、後ろから派手な大技を放ったらしい。…ちょっとズルくないか?
「さすがにちょっとリザードソルジャーは早かったか。もうちょい軽いヤツからスタートだな」
頭をかきつつ狼兄さんはドングリ目ちゃんを治療している。
「遅せぇんだよ、ばかリプトっ!」
「こ、こ、こ、怖かった~…!」
ポカポカ狼兄さんを殴るもの、へたり込んで泣きだすもの、チビ獣人達の反応は様々だ。
「あのなぁ、お前達の訓練に来てるんだ。俺が最初からやっちゃ意味ねぇだろうが。大体4人がかりでも倒せねぇとか、結構ヘボいぞお前達」
呆れ顔で厳しい事を言われ、チビ獣人達はさすがにショックを受けている。耳もしっぽも力無くしゅんとしているのが可愛らしい。
それにしても不意打ちで瞬殺とはリザードソルジャー達も浮かばれない。意外と鬼畜だな、狼兄さん…。ただし、実力は本物のようだ。
あとはリリスにやられないようにさえ気をつければ、チビ達を引き連れてクリアする事も可能かも知れない。結構楽しみなパーティーだな。
他の二つは特に目立ったところもない。10代後半から20代前半の冒険者達が、ごく普通にモンスター達と戦っている。華はないが実力はダンジョンレベルに見合ってるし、ごく普通にクリアできるだろう。
各ダンジョンの状況も把握して落ち着いたし、ジョーカーズ・ダンジョンの騎士達でも見てみるか。
そう思って席に戻ろうとすると、ジョーカーズ・ダンジョンのモニターからは騎士達の情けない叫び声がこだましていた。
…チビ獣人達に比べてちっとも可愛らしくない…当たり前か。
ていうか、何が起こってるんだ?
う……わ……なんだこれ。
大の大人、しかも騎士様が…情けなさ全開で右往左往しながら逃げ惑っている。ぶっちゃけさっきのチビ獣人達といい勝負くらいの混乱っぷりだ。
一体なにがあればこうなるんだ。
しばらくモニターを注視するがよく分からない。騎士達は闇雲に走ったり柱にぶつかったりしているが、本当に行動が一貫していない。このフロアは日替わり地形ダメージだった筈だが…。
「なぁゼロ、今日はなんの地形ダメージだったんだ?」
「んー…今日はトラップダンジョンにしたんだよ…」
なんと間の悪い。トラップに弱い騎士達ならかかり放題だろう、それ。しかしそれだけにしては騎士達の動きは統率がとれなさ過ぎだ。
「さっき引っ掛かったトラップがさ、『何が出るかな?ランダムガス』っていうヤツで」
………それはまた………。
なんだかんだ言って、そういうギャンブル性高いヤツ好きだよな…ゼロ。
「今ね、状態異常:混乱だって」
ギャンブル性高い割にはよく聞く状態異常でたな。
なるほど、確かに混乱している。話してる内容も噛み合ってないし動きもなんの意図も感じない。見ているうちに、なんの脈絡もなく走り出した一人の騎士が何かを踏んだ。
カチっという、不吉な音が響く。
これ、確実に新たなトラップ踏んだんじゃないか?
もちろん混乱中の騎士達にそんな普通の判断ができる筈もなく、しゃがみ込んで土に文字を書いたりスキップしだしたり、危機感のカケラもない行動しかしていない。
そんな騎士達に、上から何かが降ってきた。
スラっちから分裂したスライムメイジ達が三体。…モンスタートラップだ!!
見た目はアレだがスライムメイジ達はうちのダンジョンのモンスターの中でも精鋭達だ。混乱してる場合じゃねぇぞ、チャラたれ目騎士!
…と思って姿を探したら、楽しそうに走り幅跳びをキメているところだった。…しょうがない事だが脱力する…。
そんなチャラたれ目騎士に、スライムメイジがキツい体当たりをかました。メイジなのに肉弾戦とか…本気にするまでもないと思ってるのか…?
でももしかしたら衝撃で正気に戻るかも!確かにこのままじゃあまりに憐れだ。いいとこ無しだし。
祈りを込めてチャラたれ目騎士を見守る。着地直後のスライムメイジの体当たりで思いっきり吹っ飛び、派手に転がったあげく倒れていたチャラたれ目騎士は、勢い良く起きあがる。
どうだ!?
………ダメだ、女座りでさめざめと泣き始めた。絶対に混乱中だ。




