キング・ロードは可愛い挑戦者達
さすがに同情するよ。だって巫女どの、あいつに聞こえないくらいちっちゃな声で「…もう、すぐにそうやって脅すのはズルいと思うのじゃ…」とか呟いてたし。
思わず出た独り言だったんだろうが、高性能マイクはばっちり声を拾っている。マジでご愁傷様だ。
「まあ、私もちと解せぬところはありますが民が騙されている場合も、若しくはあやしい術で支配されている場合もあります故、ここはユキマサの話に乗っても損はないかと」
スラリとしたもう一人の侍が苦笑気味に取り成す。多分ジャガイモ顔のユキマサはトラブルメーカーなんだろう。勘違いのあげく本気でスラっちを倒そうとしているようだ。
「むっ!毛色の違ったスライムが出ましたぞ」
「巫女どの、下がっておられよ」
「うむ…」
ため息をつきつつ、巫女どのがガード系の魔法を唱える。スライムが現れる度にこれじゃ変なところで魔力が尽きないか心配だが…。
それでもこの平和な第一ステージ、スライム平原では余程の事がない限りリタイアにはならないだろう。
巫女どの、とりあえず頑張れ。
心の中でエールを送りつつそっと他のモニターを見てみれば、キング・ロードになんとも可愛いらしいチャレンジャーを見つけてしまった。
全員が身長100cmそこそこ。
ふさふさ毛皮にふさふさしっぽ。
ピンと立った犬耳。
きっと手のひらにまぁるい肉球があるに違いない。
4人の獣人達があっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ、落ち着きなく動き回っている。まだ子供なんだろうか、この忙しない動き。とにかく可愛い!
「こらぁ!ウロチョロしねぇでさっさと来いやぁ!」
突然、荒い声が響いた。
ビクン!と4人のチビ獣人達が飛びあがり、転がるように切り立った崖を駆け上がって行く。その先には……ガラの悪い狼の獣人が仁王立ちしていた。
「ったく!チョロチョロしやがったら置いてくって俺ぁ何度も何度も言っただろうが!この大っきぃ耳は節穴かぁ!?」
耳を摘み上げられたチビっ子獣人は、足をジタバタさせながら「ごめんなさい!ごめんなさい~!」と涙目で謝っている。
「ったく!なんで俺がチビ共の引率なんか…!向かねーんだよ!」
チビっ子獣人を乱暴に降ろして、パンパンと手を叩きながら愚痴る狼兄さん。…そうだな、びっくりするくらい向いてねぇな。誰だ、こいつに引率頼んだの。
「いってーな!!」
「おうぼーだ!!」
「ひどーい!」
チビ獣人達がブーブーと抗議の声を上げ始める。チビ獣人達も負けちゃいないらしい。
「やっつけちゃえー!」
「正義キーック!!!」
耳を摘み上げられたチビっ子獣人が強烈なキックを繰り出した。
「ぐはぁっ!」
予想以上の威力だったんだろう。狼兄さんは腹を抑えつつ体を折った。
「てめぇら…!」
ふるふると体を震わせた狼兄さんから、低い声が漏れ出る。
「わぁっ!逃げろー!!」
チビ獣人達が一斉に駆け出した。走りながら器用にもあっかんべーだの、ベロベロバーだの、からかう事も忘れない。子供って凄いな。
「あっ!てめぇら…!勝手に走るな!あぶねぇだろうがぁー!!!」
血相を変えて追いかける狼兄さん。やんちゃガキ共の引率とは大変だな。
…っていうか、引率ってなんだ?このダンジョンに旅行?いやまさかなぁ。
「うわあぁぁぁぁ!!!」
「きゃーーーーーっ!!」
そうこうしているうちに、チビ獣人達の叫び声が、こだました。
「ちっ!言わんこっちゃない!!」
狼兄さんの走る速度が爆発的に上がった。あっと言う間にチビ獣人達の元に走り寄り、チビ達の前で両手を広げて仁王立ち。かばう姿は颯爽として格好良かった。
格好良すぎた。
カフェの観客から、僅かに黄色い声があがる。…なんとなく面白くないな。
対するモンスターはリザードソルジャー。しかもなんだかチンピラ臭漂う面構えだ。分が悪過ぎる。カフェの観客は完全に狼兄さんの応援に回ってしまった。
ダンジョンモンスターのよしみで、俺だけはリザードソルジャーの応援をしようと決意して、モニターを眺める。
「り、リプト兄ぃ!」
「おっ…遅せぇんだよっ、ばかリプト!」
悪態をついてはいても、涙目で狼兄さんのズボンがずれるくらいしがみついてちゃ可愛いだけだ。ただし、狼兄さんは俺より気が短いらしい。ピクリと耳が動いたと思うと、スッと目が細くなった。
「あー、あー、悪かったな!丁度いいや。お前達だけで倒せ」
なんて無茶な!
いや、一応レベル的にはチビ獣人達だってダンジョンに適合してる筈だから大丈夫なのか。




