それなりに個性的な挑戦者達
実際、結構面白いと思うんだけどなぁ。
倒れた仲間が操られたり、それこそアンデッドになって襲ってくるというのはありがちだ。最も戦い辛く、精神的にもキツいと聞くし。ゼロが怖がるとしても、いつかは必要になる要素なんじゃないだろうか。
そんな事を考えていたら、突如見た目ゾンビ騎士が雄叫んだ。
「ちくしょう!!超!!ムカつく!!」
口汚く悪態をつきながら、体中に刺さった…というかくっ付いた矢を片っ端からもぎ取っているが、如何せん矢の先端は吸盤なもんだから、スッポン、スッポンと間抜けな効果音付きだ。
立派な鎧着てるしな。吸盤の吸い付きも良かったんだろう、広いダンジョンに間抜けな音だけが高く響いている。
尻餅をついたままあんぐりと口を開けて見ていた騎士達は、徐々に顔に血の気が戻り、ついには爆笑し始めた。
まぁな、例にもれず、顔にも腕にもまぁるい吸盤のあとがつき放題だしな。
「あ~笑った。」
ひとしきり笑って気がすんだのか、落ちつきを取り戻したらしいチャラたれ目騎士が大きく伸びをする。
「さ、お前達も立って。」
他の騎士達を促した。この様子からするに、他の騎士達はチャラたれ目の部下か後輩なんだろう。
「訓練用のダンジョンだったから良かったものの、本物だったらパックは確実に死んでたんだからな。以後軽はずみな動きはやめてほしい。」
「はっ!」
「申し訳ありません!!」
騎士達の顔は神妙そのものだが、隊長がチャラたれ目騎士だと思うと何故か真剣な気がしないのは仕方ないだろう。
それにしても、一番最初にダンジョンの視察に来た時にも思ったが、城の騎士達はトラップ系に弱過ぎだな。あんまりトラップとかを気にする機会が少ないのかも知れないが、引っ掛かり過ぎだ。
もしもボス部屋まで来れたら忠告してやるか。
他のダンジョンは…?と思って見回してみると、スライム・ロードの冒険者達が目に入る。
こちらは男女混成パーティーだ。
「ゼロ、ちょっとステータス見せてくれないか?」
侍:男:レベル68
侍:男:レベル65
巫女:女:レベル50
修道僧:男:レベル49
幻術士:男:レベル48
これはまた、普通の冒険者とも思えない面子だ。陣形も巫女の女を中心に完全に彼女を守る為の陣になっている。
巫女は戦闘要員ではないのか、美しく結い上げた髪も完璧に施されたメイクも隙がない。
服装も引きずるくらいに長く動き辛そうな…ああそうだ、見たことあると思ったら、前にゼロが九尾狐のイラストに着せていた十二単とかいう服に似ている。あんな服じゃ戦えないと思うんだが。
歩き方もしずしずと、滑るように進んでいく。
そして男達は彼女を囲んで四方に油断なく注意を払っていた。
まだ序盤の攻撃力も可愛らしいスライム達しか出て来ないエリアだというのに、何とも物々しい。
「むっ!巫女どの下がっておられい。」
「うむ、魔物の気配がするのぅ。守ってたもれ。」
やんわりと微笑んで、巫女が何か唱える。…と、巫女の周りを薄い水の膜が覆った。ガード系の魔法だろうか。
ぶっちゃけこのエリアのスライム達は彼女に傷ひとつつけられない筈なのに、ホント大袈裟だな。どえらい地位の巫女ならこんなとこでダンジョンチャレンジする筈もないだろうし、一体どんな集団なんだろう。普通に興味がある。
「ふんっ!」
「はっ!!」
もちろん侍達の一閃でスライム達は一刀両断されてしまった。
「ふむ、あっけないのぅ。」
「巫女どの、油断は大敵。さしたる力もない魔物で気を緩める作戦やも知れぬ。」
不満げな巫女どのに、侍の一人が眉を上げる。…まぁ、そんな大層な作戦はないけどな。
「左様。なにせこの地は数々の強者を屠った悪しき魔物の王が棲む魔境と聞く。」
え…?悪しき魔物の王って…まさかそれ、スラっち?
何その設定。
「うむ…それなんじゃがのぅ、民の様子を見ても魔物の配下にあると思えぬが。確かな情報なのかのぅ…。ユキマサはちと思い込みが激しいところがあるゆえ。」
言い辛そうに巫女どのが言った途端、ジャガイモみたいにゴツゴツした顔の侍が、大袈裟に飛びすさった。
「なんと!巫女どのは我を信用出来ぬのか!情けない!情けないですぞ!!」
「いや、信用していない訳では」
「これだけ共に旅をして信じていただけぬとは、我が身の不覚!かくなる上は腹を切って…!」
「だから!信じておる!信じておるからここに来たのじゃ!」
うわぁ巫女どの、ずいぶん面倒くさい従者を連れてるな。




