お久しぶりに開業です
「皆さん、本日もギルド:クラウンの訓練施設へようこそ!」
高らかなアナウンスで開場が宣言される。今日もダンジョンの営業開始だ。
キーツの声、なんだか久しぶりに聞いたような気がしてしまうが、実際はおととい聞いたばっかりだ。本当に毎日色々あり過ぎなんだよ…。
そう一人ごちている間にも、キーツのアナウンスは進んでいく。
「先日ここで行われた武闘大会、みなさんご覧になりましたか?」
キーツの声に応えるように、カフェのモニターからは歓声が巻き起こる。どうやら武闘大会を見にきていた客が大半のようだ。
「レジェンドの圧勝、さすがでしたねー!!でも、そのうちこの訓練施設で鍛えた勇者が、レジェンドを倒してくれるかもしれませんよ!」
カフェからは、今度は様々なトーンで思い思いの声が上がっている。
「さぁ、そんな未来の勇者達を本日も熱く応援しましょう!!」
一際大きな歓声が上がったと同時に、冒険者達がダンジョンに姿を現した。
続々と各ダンジョンに入ってくる挑戦者達。今日はどのダンジョンも4~5人の程よい人数を擁している。
俺の、挑戦者は…?
……野郎ばっかり5人か…。
つまらない。一人でいいから可愛いらしい女の子を加えてもらえないだろうか。下がり気味のテンションに歯止めをかけるべく、目新しい所がないかステータスに目を通す。
…そしてちょっと我が目を疑った。
騎士:男:レベル67
騎士:男:レベル51
騎士:男:レベル51
騎士:男:レベル49
騎士:男:レベル39
充分目新しい…っていうか、まさかこいつら王宮の騎士団の連中なんだろうか。
「さ、今日はほぼ実践だからな!気合い入れていけよ!」
リーダーと思しき男が仲間を鼓舞するように声をかける。何となく聞き覚えのある声にモニターをガン見してみれば案の定…そこにはチャラたれ目騎士がいた。
「お前か…」
勝手に武闘大会に出てみたり、勝手にギルドの訓練用ダンジョンに挑戦してみたり。やる気があるのは結構だが、カルアさんも扱いに困ってるんじゃないだろうか。
余計なお世話だが、少々気になるところだ。
「おっしゃ野郎共、行くぞ!!」
チャラたれ目騎士よりもゴツくて男くさい騎士が威勢のいい声を上げ、騎士達は一斉に進み始めた。
選りに選って何もジョーカーズ・ダンジョンに挑まなくてもいいだろうに。はっきり言ってこんなトリッキーなダンジョン、冒険者じゃない限り役に立たないと思うんだけどな…。
余計なお世話と思いながらもついつい心配していたら、早速モニターからは驚愕の叫び声がこだました。
「熱ちぃっ!?」
「ひいぃっっ!!」
まだ若い騎士達が我先に走り出す。
ダンジョンに入って僅か3m。門番のように佇む立派なドラゴンの像が、いきなりえげつない火を吹いたからだ。
「待て、無闇に走るな!!」
チャラたれ目騎士の制止に、ブレーキを踏むように急停止した騎士達。それは正しい判断だったと言えるだろう。…僅かに急停止が遅れた一人が、呆気なく落とし穴に落ちてしまった。
「………」
「………」
目の前で仲間が落とし穴に落ちたのがショックだったのか、恐る恐る落とし穴に近づき中を覗き込んだ騎士達は、一瞬で青ざめた。
言葉を失い、その場にへたり込む騎士達。…そんなに凄い光景なんだろうか。不審に思いつつ、落とし穴の中を見てみる。
これは……。酷い。
落ちた騎士の全身に、無数の矢が突き刺さっている。
………ように見える。
「ゼロ、視覚的にエグ過ぎないか?」
「…うん、ちょっと反省してる。」
だよな。
俺達は「死ぬような仕掛けはない」って分かってるからまだしも、普通に見るとかなり怖い光景だ。
「……っひぃっ!!!」
ふいに掠れたような、息を飲む音が聞こえてモニターを見ると、そこには腰を抜かしたまま後ろ手に後ずさる情けない騎士達がいた。
騎士達が凝視する先には、体中に矢が刺さったまま、ヨロヨロとたちあがる騎士。その姿はまさに見た目ゾンビ。
「あれだな。今度からこういう間抜けなトラップリタイア者は、辱めも兼ねてゾンビ役やらせるか」
「特殊メイクで………ダメだ、僕が怖い!」
ノリかけて、仕上がりを想像したのかゼロは激しく首を横に振った。
ちっ、生きてるって分かっててもダメなのか。ヘタレ加減もほどほどにして欲しいもんだ。




