お小言リストを軽く確認
「レジェンド達の了解がとれたなら、もうリストなんか要らないんじゃないか?」
思わず俺がそう訊くと、カエンは厳しい顔で首を横に振った。
「そんな簡単な問題じゃない。多分爺さん達がゼロに話したのは、この街中でダンジョンを構えていくには今後絶対に抑えておかなきゃならない事項だ。そこを考慮した上で進めねぇと、どの道早晩問題が勃発する」
そんなもんか。
「後で爺さん達に絞られるのはゼロだって嫌だろうが」
「絶対嫌だ」
即答か。この前レジェンド達に一人で絞られたの、よっぽど嫌だったんだな。ちょっと同情する。
「とにかくそのリストを見せてくれねぇかぁ?ついでに王宮で出た話も書き加えてやる」
「それを全部クリアしながら、二つのダンジョンを造ればいいって事だね!」
むしろ嬉しそうにリストを広げるゼロ。
「もう、いちいち面倒臭いわね」
とルリが呻く。多分ルリは楽しい事しか考えたくないんだろうな。カエンは苦笑しながらも、リストを見ては細かい事を書き足していった。
「まぁそう言うなって。ここでしっかりやっときゃ後の面倒が三分の一くらいで済むんだ。……多分」
面倒が無くなる訳じゃないのか。
しかも「多分」。
説得力なさ過ぎだろう。
カエンも少しアライン王子の言い回しを見習って欲しいもんだ。
「よし、こんなモンだろ」
地味に株を下げている事にも気付かず、意気揚々とカエンはペンを置いた。
どれどれ。
ゼロとカエンの力作、レジェンドのお小言リストを覗き込んで見る。意外にもリストの項目はさほど多くはない。ただし、いざダンジョンを造るにあたっては、クリティカルに困るような項目が並んでいた。
「これ、結構厳しくないか?」
「まぁ王城がある城下町だからなぁ、アルファーナは。厳しくならざるを得んよなぁ」
リストに目を通し思わず出た感想は、カエンに一刀両断される。
そうか、王城があるからか。
そうなってくると、カエンのギルドに直結させた事が足枷にも思える。ただ、そうしていなければダンジョンは今みたいには成功してないだろうし……っていうか多分早々に潰されてたし。結果、仕方ないのか。
「でもなぁ、これでも相当爺さん達に譲歩させたんだぜぇ?この項目見てみな」
カエンが指差したのは「戦力」についての項目。
ゼロが書いた「これ以上増強しない」が乱暴に線で消され「現登録冒険者のレベルを超えない」と書きかえられている。
「確かに……凄い譲歩だね」
ゼロがリストを覗き込んで、目を丸くした。
そうだよな。俺が戦っただけでもレベル80オーバーは居たし、相当な譲歩なのは分かる。
「さすがに中級冒険者を鍛えていくには訓練だけじゃ無理だろ?レベル上げにゃあそれに見合ったダンジョンも、モンスターも必要だからなぁ。そこを説明したら割合すんなり納得したぜぇ?」
納得せざるを得ないだろうな、それ。
抑止が効かなくなるのも嫌だし、さりとて冒険者達のレベルアップには必要だと思う妥協点が、さっきの「現登録冒険者のレベルを超えない」って言う条件になったんだろう。
「そっか、じゃあちゃんと筋道が通った理由があれば譲歩してくれる部分もあるって事なんだね」
ゼロそう呟くとリストを前に真剣に考え始め、暫く唸った後2回大きく頷いた。
「……まずはリストの条件を出来るだけ守って考えてみよう。それでどうしても無理が出た部分は、カエンにお願いして、検討して貰うようにしようか」
そうだな、いざとなったらラビちゃんに泣き落としして貰ってもいいし。
「じゃあ、いよいよダンジョンをどうするかの話に移っていいのね!?」
ルリが目をキラキラと輝かせ、勢いこんで身を乗り出して来た。頬も上気して見た目だけなら大変に魅力的だ。
「私色々考えて来たのよ!早く、早く話したくてウズウズしてるんだから!」
「待て待て。条件を皆で確認してからの方がいいんじゃねぇかぁ?まだ、2つのダンジョンの大枠をどうするかも決めてねぇだろう」
ルリの勢いに苦笑しながらも、カエンが冷静に返す。でも、ルリにとってはそれすらどうでもいい事だったらしい。
「バカねぇ、そんなの最後に決めればいいじゃない!まずはどんな街やダンジョンにしたいかの方が大事でしょ!」
「いやいや…最初から出来ない事考えても二度手間だろ」
俺もとりあえずカエンを援護してみる。
ぶっちゃけ無駄な事はしたくないしな。
でも、これには意外にもゼロから反対の声が上がった。




