カエン乱入
考え考え、武闘大会で既に二人に見せた当たり障りのない部分だけをピックアップして話してみる。
「転写のスキルで素材や重さを変えて使ってるんです。特に布は使い方次第で盾にも鎧にも出来るし、上手くやれば鈍器にも刺突武器にも変えられるから、結構便利なんですよ」
「なんと」
「幅広いですね」
二人は顔を見合わせて、複雑な表情をしている。
「しかし話だけじゃ今ひとつイメージが掴めんな」
「そうですね。クロ君、悪いけどちょっと実演してくれないか?」
まぁそう来るとは思ってた。
二人から布を返してもらって、説明しながら素材を変化していく。幾つか玉結びをしてゴム素材に変えて見せると、鈍器のようにもムチのようにも使える、変わった武器が即席で出来てしまった。
まったく布の可能性は計り知れない。
「ぐぬぅ…」
糸目爺さんが小さく唸り声をあげる。
「いやぁ、これじゃ私の剣もペラペラになる筈だ。全く面白いスキルだね」
Mr.ダンディが感心したように呟いているが、実は見せているのはまだまだスキルのほんの一部で、しかも熟練度が上がれば出来る事は格段に増えていくなんて知ったら、どういう反応をするんだろうか。
ちょっと見てみたい。
でも今は我慢だな。なんせ糸目爺さん含むレジェンド達からはダンジョン強化を控えるように言われたばかりだ。
今はあんまり刺激したくない。
そんな事を考えていた時だ。
突然、練兵場の重い扉が勢いよく開いた。
「なんでこんな所にいるんだよ!!」
大声で喚きながら飛びこんで来たのはカエン。
そしてカエンが睨みつけているのは何故か、糸目爺さんとMr.ダンディだった。
「おいおい…レグスもアラレアも…王宮から使いの者が行っただろう。なんで呼び出しに応じねぇでこんな所にいるんだぁ?」
ガックリと肩を落とし、疲れたように呟くカエン。割と珍しい光景だ。
しかしMr.ダンディと糸目爺さんは顔を見合わせて怪訝な顔をしている。一拍おいて、Mr.ダンディが申し訳なさそうにカエンに声をかけた。
「すみません、朝からレグス様に奇襲を受けてそのまま一緒にここに来たもので…。使者の方とは行き違いになったのでしょうね」
何か御用でしたか?と丁重に対応され、カエンはすっかり毒気を抜かれたらしい。用がねぇなら探さねぇっつーの…と力なく呟きながら、ガックリと床に座りこんだ。
「カエン様直々に探して下さったという事はかなり重要な案件なんですよね?申し訳ありませんでした」
本当に申し訳なさそうに眉を下げたMr.ダンディからは、誠実そうなオーラがプンプンしている。傍若無人な曲者揃いのレジェンド達を見た後は特に、この普通な他者への心配りがありがたく思える。
ぜひここは、カエンを頑張って労ってやってくれ、Mr.ダンディ。
ひとつ大きくため息をつくと、カエンはジロリと二人を見上げる。
「ああ、凄く重要だ。新しく出来たダンジョンについての話し合いを行う事になってる」
息を飲むMr.ダンディと糸目爺さん。
「…久しぶりですね。どうされるおつもりですか?」
「それを話し合うんだよ。もう他のレジェンド達は皆集まってるぜぇ?ほら、転移するからさっさと来い」
Mr.ダンディの問いにも、カエンは明確には答えない。多分昨日ルリに出された宿題を、これから片付けてくれるんだろう。二人の襟首を乱暴に掴んで、あっと言う間にカエンは消えてしまった。今頃は既に王宮だろう。
転移って便利だな。
ああ、だからカエン自ら探してたのか。カエンなら転移であちこち素早く探せるもんな。
それにしても、結局俺は何も教えてもらってない…。なんか損した気分なんだが。
練兵場に一人取り残されて、しばし呆然とする。突然勝手にやって来て、いきなり勝手に去っていったな…マジで。
Mr.ダンディ達が来るまでは二度寝しちゃおうかとまで思っていたが、さすがに軽い演武までこなしてしまった今ではそれは無理だ。目が冴えてしまった。
街に出ようにも、午後からは新しいダンジョンについての話し合いが持たれる予定だから、そんなにゆっくりも出来ない。
結局だらだらと回復温泉に浸かりながら、新しいダンジョンというか新しい街というか…話し合いに持っていくためのアイディアをぼんやり考える羽目になってしまった。
つくづくMr.ダンディ達が恨めしい。
ああ…俺の休日…。




