訪ねて来たのは
57日目の朝。
昨日は解散した時点でかなり深い時間になっていた事もあって、飯食って回復温泉でひとっ風呂浴びたら、激しい睡魔に襲われてそのまま撃沈してしまった。
なんだかんだ言って、武闘大会の直後に新しいダンジョンの話なんかが出て、それなりに消耗していたんだろう。
幸い今日はダンジョンも定休日だし、新しいダンジョンについての打ち合わせも午後からだ。二度寝したって許されるかもしれない。
朝食のサンドウィッチを頬張りながら、ぼんやりとそんな事を考えたのが悪かったんだろうか。
「ハクさん!!ハクさん、大変ですっ!すぐに受付に来て下さい~!!」
俺の穏やかな朝食は、受付モニターからの焦りまくった報告を受けて、一瞬で終わりを告げた。
「なんなんだよ、一体」
つい不機嫌な声が出てしまったが、シルキーちゃん達はそんな事はどうでもいいくらい慌てていたらしい。
「ハクさんにお客様です!早くっ!」
また客か…。
なんで俺には客が多いんだ。しかも誰とも約束していない。勝手に押しかけてくる奴に貴重な休みをフイにされるのは、正直言ってかなり不本意だ。
「誰だよ…」
ムッとしながらモニターを覗く。
レイか?オネェ呪符使いか?それとも王室関連の誰かだろうか。カルアさんなら大歓迎なんだが。
「うわ…なんで」
モニターの向こうに居たのは二人。
困ったように笑っているMr.ダンディと、表情が全く読めない糸目爺さんだった。
…何の用があるって言うんだ。
要件はわからないが、おっさんと爺さんが連れだって現れた時点でぶっちゃけテンションがダダ下がりなんだが。
とはいえ、来てしまったものは仕方がない。多分対応しない限りおとなしく帰ってはくれないだろう。放っとくのもシルキーちゃん達が可哀想だしな…。
「ハクったらモテモテねぇ。待たせちゃ悪いわ、さっさと行ったら?」
ルリはからかうようにそう言うと、しっしっと犬でも追い払うかのように手を振る。諦めてしぶしぶ受付に向かう俺を、ゼロは心配げに見送ってくれた。
レジェンド達とは既に顔見知りなのに、一緒には行ってくれないらしい。まぁ、俺がゼロの立場でも出来る事なら遠慮したいシチュエーションだから仕方ないか。
…あ、姿どうしよう…。
よく考えたらMr.ダンディと糸目爺さんとは、クロの姿で戦ったんだった。
さっきからシルキーちゃん達がハク、ハクって言ってるから既に偽名はバレてるだろうが、姿くらいはまだ隠しといた方がいいんだろうか。
しばらく考えた後、クロの姿に変化して受付に向かう。
昨日の今日だからクロの姿の方がMr.ダンディ達も分かりやすいだろうし、何か言われたらハクの姿に戻せばいい。
とりあえずこれで問題ないだろう。
受付に行くと、Mr.ダンディと糸目爺さんはすでにビールを片手にツマミをぱくついていた。
…俺、そんなに待たせたつもりはないんだが。むしろ連絡を受けてからほぼタイムラグなしで来たと言ってもいい。
「あ、来た来た」
Mr.ダンディが愛想良く迎えてくれる。
「なんか用ですか?」
Mr.ダンディも糸目爺さんも、武闘大会で俺と戦ったという接点しかない。
もしくは昨日レジェンド総出で怒られた、ダンジョン拡張し過ぎるなって件か。でもそれならゼロを呼び出しそうなもんだしな。
怪訝な顔全開の俺を見て、Mr.ダンディは困ったように笑った。
「悪いね、突然訪ねたりして。レグス様がどうしても行きたいって駄々をこねるもんだから」
横の糸目爺さんを見下ろして苦笑している所を見るに、どうやらMr.ダンディは糸目爺さんに付き合ってここに来たらしい。
「なんでも、君を鍛えたいらしいよ?」
「はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
今度は押しかけ師匠か!?
「なんだその不満そうな顔は」
糸目爺さんが憮然とした表情で俺を見る。いやいや、だって頼んでないし。
「カエンの教え方じゃ基礎がなっとらんからな。ワシがきちんと教えてやろうと思ったまでだ」
いや、それなら喜んで弟子入りしそうな奴がいっぱいいるだろう?…あ、この流れで上級者の格闘講師とか引き受けて貰えないだろうか。
そんな事を考えていたら、Mr.ダンディがフハッと堪えきれないように吹き出した。




