弱種のサガで
すいません、すいませんと恐縮しているラビちゃんは、相変わらずフルフルと震えている。
「お前ずっと震えてるけど、大丈夫か?」
「ひぃっ!!」
声をかけたら、飛び上がるくらいビックリされてしまった。…ていうか、ひぃっ!!ってなんだよ、心配してるってのに失礼な…。
しかも今は蒼白な顔で、またもやすいません、すいませんと謝っている。
「あのなぁ、何をそんなに怯えてるんだよ。ここにいるヤツらはお前を害するつもりなんて毛頭ねぇぞ?」
そう言うと、今度はポロポロと泣き出してしまった。…なんでだよ!
「こらハク、せっかく泣きやんだのにまた泣かすんじゃねぇよ」
カエンに叱られたけど、俺は悪くないだろ!少なくとも泣くような事言ってねぇし!
「違…違うんです…!」
慌てたラビちゃんが、一生懸命涙を拭きながら訴えてくる。耳は完全に寝ちゃってるけどな。
「皆さんその…凄く強い…ですよね?頭では皆さんいい人だって分かってはいるんですけど、その…体が勝手に震えてきちゃって…」
あ、そう言う事か。
弱種の悲しい性だな。相手の強さを感じとる能力が高いだけに、カエンはもちろん俺にも過剰反応してるわけだ。
「カエンさんも、ライオウさんも…ハクさんも、怖いオーラがギラギラしてます。今ここで怖くないのは、ゼロさんだけなんです…」
涙ながらにそう言うラビちゃんを、ゼロは複雑な表情で見ている。
「…それ、僕だけ弱いって意味?」
小さな声で呟いた。まぁ、直訳するとそうなるかな。
「私、怖くない人に初めて会えました…!感激です!!」
ラビちゃんは涙の残る目で、ゼロにニッコリと笑いかける。死を覚悟するくらい恐怖した状況で、次々に怖いオーラ全開の野郎共が出てきてからのゼロ。
多分彼女は今、ゼロが初めて俺に会った時より数倍嬉しいに違いない。こればっかりは仕方ないだろう。
「まぁとりあえず、流れは分かった」
「そうだね。それで結局どんなダンジョンを作ればいいいの?」
ゼロが問う。
そう、それが大事だ。
「それなんだが、王やアラインとも話しだんだが、こいつのダンジョンがある場所に、新しい街を作って欲しい」
「新しい…街?」
思ったよりも大きなオーダーだ。
「で?急に呼んだりして何なの?朝帰りの守護龍様」
ルリが両手を腰に当てて、軽くカエンを睨んでいる。どうやら新魔法の訓練中だったようで、急に呼び出されたルリはちょっとだけご機嫌ナナメだ。
「人聞きの悪い。だがまぁ要件は簡単だ。新しいダンジョンが出来てなぁ。そこのダンジョンマスター達と協力して、新しいダンジョンを作ってくれ」
「えっ!?何それ、面白そう!!」
カエンの相当はしょった説明に、ルリはそれでもキラキラと目を輝かせる。
まぁ、そんな反応だと思ったよ。
「でしょー?ルリならそう言ってくれると思ったよ~。これからダンジョンどう作るかって話になりそうだから、ルリにもアイディア出して欲しいなって思って呼んだんだ」
ゼロの説明に、ルリは嬉しそうに「任せといて!」と請け負っている。確かにルリはこれで意外とアイディアマンだからなぁ。居てくれると力強い。
「ふわぁ~…キレイな人ですねぇ…。エルフさんですか?」
「ハイエルフのルリよ。貴女は?かわいいウサギのお嬢さん。」
ニッコリと微笑むルリ。うん、そうだよな。波打つ金色の髪、しなやかでメリハリのある肢体、真っ白な肌。見た目だけならルリは本当に絶世の美女だ。
「わ、私…新しいダンジョンの…マスターです…」
ぽう…っと見惚れているラビちゃんは、つっかえつっかえ返事をする。
「そう。よろしく」とまたもやニッコリ笑ったルリに、ハッとした様子でラビちゃんはライオウを紹介した。
「あのっ、私のダンジョンモンスターになってくれたライオウさんです!ライオンの獣人さんです!」
「…よろしく」
ぶっきらぼうに僅かに会釈をしたライオウを見て、ルリの瞳がこれまでの3倍は輝いた。
「きゃあ!超イケメンじゃない!ちょっとカエンよりのゴージャスイケメンだわ!!素敵!!!」
たいそうお気に召したようで何よりだ。
ただ、儚げな容姿からは一切想像できないルリのテンションに、ラビちゃんとライオウは呆気にとられた表情でポカンと口を開けている。
本当に期待を裏切って申し訳ない。
ルリは癒しの美女って冒険者からも絶大な人気がある、うちのある意味看板娘なんだ…ただ、性格が残念なだけで。
心の中で誰にともなく言い訳をしてしまう。本当に少しは自重して欲しいもんだよ、ルリ…。無理だろうが。
さっきよりさらに若干疲れた顔をしているライオウが哀れだ。不幸系スキルが付いたりしない事を切に祈る。
ルリが落ち着くのを待って、早速新しいダンジョンどうする会議をスタートする事になった。
「まずラビのダンジョンの立地だが、隣国との境目に程近い場所でな。いずれは要塞を作るべきだと思っていた場所だ」
「要塞かぁ。いきなり物々しいね」
ゼロがちょっと眉を下げる。確かに物々しい…そして楽しくなさそうだ。
「逆にそう言う要所だからこそ、いきなり要塞なんかは設置しづらい。隣国に警戒されるからな」
「そうよねぇ、それが元で戦争になったりしたら目もあてられないものねぇ」




