いきさつ
ただ、気になる事もある。
「依頼の内容はざっくりわかった。で?もう少し経緯とか詳しく話してくれないか?」
ズバリ聞いてみた。
「そうだよね。一晩帰って来なかったから、結構心配したんだよ?」
ゼロが不満げに言うと、カエンは「ガキじゃねぇんだから」と笑いつつ、それでもソファーに深く腰掛け直した。しっかりと説明してくれる気らしい。
「確かに色々あったからなぁ。ちっと長くなるが、いいかぁ?」
俺もゼロも頷く。
それを確認したカエンは、今度は俺達がサポートする事になる、新米ダンジョンマスターのうさ耳ちゃんと、そのダンジョンモンスターのライオン君に目を向ける。
「全部話すぜぇ?いいな?」
うさ耳ちゃんの耳が、しゅんと垂れた。
「はい…。恥ずかしいですが…」
ライオン君も頷いたのを確認してカエンが話し出したのは、色んな意味で驚きの…長い話だった。
「そうだなぁ…まずはどこから話そうか…」
少し逡巡して、そして話し出す。
いつものざっくばらんな感じはなりを潜め、厳しい顔なんかするもんだから、こっちまで緊張してしまう。
…なんかこう、難しい話なんだろうか。
「ゼロとコンタクトを取ってから、国の中枢では、ダンジョンとダンジョンマスターについて、そりゃあもう、喧々諤々の議論があった」
い…いきなり重いな!そこからか!
「ダンジョンマスターが皆ゼロみたいに召喚されて記憶も無いような状態なら、いち早く見つけて保護すべきじゃないかとか」
ホッとしたように、ゼロが小さく息をつく。カエンはその様子を真顔で見て、言葉を継いだ。
「だが、もちろん問答無用で殺すべきだと言う意見も根強い。ダンジョンマスターが性格的に温和だとしても、力が巨大になれば、その力をふるってみたくなるもんだ」
ゼロの肩がビクッと揺れる。
思い当たる所があるんだろう。確かに最初はおっかなびっくりだったけど、このところはトラップの精度も増して来てるしな。
「ダンジョンを造る能力は、非常に魅力的だが成長するほどに危険度が飛躍的に増していく。善良なマスターが、生涯善良な保障はどこにもないからなぁ」
このところ再三ダンジョンを拡大しないように言われていたのは、そういう点を懸念されての事だったんだな。
「意見は拮抗してたし、どっちの意見も間違っちゃいねぇ。最終的には俺様と王室の意見が優先された」
俺達が楽しくダンジョン造ったり修行してる裏で、そんな重い話があっていたとは。
「俺様と王は完全に意見が一致しててなぁ。ダンジョンを有効に活用したいってのが本音だ。平和に暮らしたいダンジョンマスターには安全が提供できるし…」
再び頷く俺とゼロ。
その恩恵は今現在体感中だ。
「俺様達…国の立場から見ても、国防も福祉も娯楽も低コストでできるし、やりようによっちゃ失業対策にも使える。お互いに充分なメリットがあるわけだ」
…それも体感中だな。
随分俺達は貢献してると思うしな。
「で、とりあえずは発見したダンジョンのマスターには、今後説得交渉を持ちかけてみるって事にした」
ゼロの顔が嬉しそうに紅潮した。
でも、その次のカエンの一言に、また心配げな表情になってしまった。
「……ところがだ。事は意外とスムーズには運ばなかったんだよなぁ」
「前に、ダンジョンが潰しても潰しても出来やがる、って話はしたよなぁ?」
「ああ」
ゼロも頷いている。
「国土がそれなりに広いせいか、月に4~5個は新しいダンジョンが出来てたんだよ」
多いな!!
それを出来ちゃあ潰し、出来ちゃあ潰ししていたわけだ。いったいどれだけのダンジョンマスターとモンスターが屠られたのか…想像したくもない。
「それが、お前達のダンジョンが出来てから、いきなり出来る頻度が落ちた。こいつのダンジョンでやっと3つめだ」
カエンがうさ耳ちゃんを顎でさしながら言う。
「しかも出来るのは隣国との境目とか、辺境ばっかりでなぁ。ゼロに聞いたら、どうやら他のダンジョンが既にある場合は、あまり近くには設置できない仕組みらしい」
……そんな仕掛けがあったとは。
俺達は割とすんなりとダンジョンが設置できたから、あんまりそんな事考えた事なかったな…。
そうか、出来たらすぐにカエン達がダンジョンを潰してたから、この近辺にはあの時ダンジョンがなかったわけだな…。
「それは凄い発見だって王もアラインも喜んでなぁ、新しく出来たダンジョンを国営化していけば、モンスター被害が一切なくなるんじゃないかって考えてるわけだ」
なるほど、国土の大部分を味方のダンジョンの領域で埋めてしまえば、普通のダンジョンが造られる心配がなくなる。
ダンジョンが出来ては潰すいたちごっこが、根底からなくなるって事か…。
「で、ダンジョンが出来たらすぐに交渉出来るように、ゼロに協力して貰ってたんだがなぁ」
「…協力?」




