カエンの頼みは
うさ耳ちゃんに飛びかかられて支え切れなかったゼロは、うさ耳ちゃん共々床に転がる羽目になった。つまりうさ耳ちゃんに押し倒されている状況だ。
しかもうさ耳ちゃんはそのままゼロの胸で再び泣き始めてしまった。
「ちょ…何!?なんで!?君、あのっ、悪いけどどいて…!」
ゼロは相当テンパっているようだが、危険は感じないからとりあえず放っておくか。ゼロはちょっとくらい女の子に慣れた方がいいし。くれぐれも「重い」とか要らない事だけは言わないようにな。
「おいカエン、全然状況が理解出来ないんだが…こいつら、なんなんだ?」
「ああ、あのウサギがダンジョンマスターで、このライオンがダンジョンモンスターだ。ゼロとお前みたいなモンだな」
はぁ!?
「どういう事だ!?」
他のダンジョンのマスターとかモンスター、連れてくるか普通!?
「ゼロに頼みたい事があってなぁ、連れて来た」
その肝心のゼロは押し倒されてるけどな。
「やるよ!!出来る事なら頑張るから、この子なんとかして~!!」
ゼロの必死の叫びに、カエンが苦笑しながらうさ耳ちゃんを引き剥がした。
役得だと思えばいいのに、ヘタレなヤツめ…。まぁ、ライオン君がイラついてるから、そろそろ潮時か。
「で…何?頼みたい事って」
憮然とした表情のまま、ゼロが切り出す。
こういう機嫌の悪いゼロは割とレアだ。よほど恥ずかしかったんだろう。
「いやぁ、こいつダンジョンマスターになりたてでなぁ。一緒にダンジョン造ってやってくれねぇか?」
やっと全員がソファーに座り、落ちついたところでカエンが話し出したのは思いもかけない事だった。
「まだダンジョンは手付かずだ。彼女と話した結果、国の直営でダンジョンのある森を開拓して、ちょっとした施設を作ろうと思ってるんだがなぁ」
「へぇ、面白そう!」
話を聞いて、ゼロの目がキラキラと輝き出した。
「ゼロならノウハウもあるし…あと、この二人じゃビク付き合って全然はかどらねぇからなぁ」
確かに…。でも、俺がライオン君の立場だったら結構複雑だ。ここは大きな決断になるだけに、俺はライオン君にストレートに聞いてみる事にした。
「ライオン君はそれでいいのか?」
するとライオン君は少し目を伏せてから「頼む」と言い切った。
「俺じゃ怯えさせるだけで、力になれねぇから…」
苦渋の決断って事だろう。
俺的には凄くライオン君が可哀想だ。
一方うさ耳ちゃんは加わるのがゼロだと聞いて、明らかに安心したようだ。やっと可愛らしい笑顔が出てきた。
「で、やってくれるか?ゼロ」
答えなんか決まってる。
「うん!僕でよければ頑張るよ!今のダンジョンは運営しながら、彼女のサポートをすればいいんだよね?」
「ああ、もちろん俺やアラインもどういう施設から造っていくかの会議には入るから、ゼロも一緒に考えてくれ」
ゼロの快諾に、カエンは少しホッとしたように笑った。
今日レジェンド達にこのダンジョンを無闇に強化するなって言われたばっかりだし、他に考える物が出来るなら、むしろゼロにとっては良かったのかもしれない。
最初は召喚やダンジョン造りを怖がってたゼロも、このところ楽しさが分かってきて、あれこれとやってみたい事もあるみたいだもんな。
新しいダンジョンが国や街の人のためになる施設になるなら、腕のふるい甲斐があるって事なんだろう。
「ハク、頑張ろうね!!」
まだ何を作ろうとしてるんだか皆目検討もつかないが、ゼロも楽しそうだし、新しいダンジョンには興味もある。
「ああ、楽しみだな!」
そう答えて、まだ見ぬダンジョンに思いを馳せた。
明日から、新しいダンジョン造りのスタートか。腕が鳴るってもんだ。




