第四試合
試合を見ていると、3つの闘技場では圧倒的にレジェンドが強くて、はっきり言って勝負になっていない。ただ、第四闘技場だけはかなりいい勝負をしている。今日からは時間制限がないから、粘れば勝てるかも知れないな。
ただ、ご老体と言えどさっきの二人の話からもレジェンドは鍛え方が尋常じゃないみたいだから、先にバテるのは対戦相手の男の方かも知れないが。
…と、ここで早くもインカムから控え室に行くようにアナウンスが入る。
そうだよな、第四試合は8組しかいない訳だから、そうなるよな。レジェンドが強過ぎるせいで試合が既に終わりそうだもんな。
「呼び出しだ。俺、試合に行ってくる」
「おう、頑張れよ!!」
三人に送り出され控え室に行くと、そこには何人かの人が居た。
そうか…一斉に試合が終わりそうだから、纏めて呼ばれたんだな。
レジェンドも、若い男も、普通に筋肉質のおっさんもいる。…誰が相手なんだろう。多分レジェンドの中の誰かなんだろうが。
周りを見回していたら、後ろから入ってきた奴に声をかけられる。
「お~、お主も残っておったか!まぁここまでじゃろうがの!!」
くっ…「子供か!」とツッコミたくなるこの感じ……やっぱり戦士爺さんか!!
「コラ!若い子を困らすんじゃないよ。全くお前はいつまでたっても…!」
戦士爺さんの耳を引っ張って奥に連れていったのは、更に年長そうな爺さんだ。…いやもう、年齢なんか分からないから、多分でしかないが。
「痛いんじゃ!離さんか!」
「ダメダメ。いい年なんだからケンカふっかけてないで、尊敬される教えのひとつでもしてやればいいだろうに」
戦士爺さんが説教されている…。レジェンドの中でも立場の強弱はあるらしい。
戦士爺さんを説教できるような、あの年長爺さんとは当たりたくないもんだ。さらに勝てる気がしない。
そこに呼び出しのアナウンスが響く。俺ではない二人の名前が呼ばれ、控え室の扉が開かれた。
「おーーー!ワシか!悪いのぅヒヨッコ、ワシの勝ちじゃあ!!」
さっき説教されたばっかりだというのに、戦士爺さんはそんな事を言いながら魔法陣に消えて行った。年長爺さんは「全くもう…」と呟きながらも笑って見送っている。
どうやら仲は悪くないようだ。
困った弟分、といったところだろうか。
続けてまたも呼び出しのアナウンスが流れる。試合が一気に終わったんだろう。
…あ、俺の名前が呼ばれた!
魔法陣の方に歩いて行くと、対戦相手もこちらへ歩いてくる。
…良かった!
年長爺さんじゃない方のレジェンドだ!
糸目の実直そうな爺さんは、俺をチラリと見て、ひとつ頷き魔法陣に消えた。口数が多い方じゃないらしい。
「おっ!出たなクロ公!」
「瞬殺されんなよー!!」
「頑張って〜」
周囲の観客達からダミ声の檄がとぶ。
言葉は悪いが、どうやら応援してくれるおっさん達もいるようだ。そして僅かながら女性からの声援も飛んでいる。地味に嬉しいな。
瞬殺されないように頑張るつもりではあるが…糸目爺さんに目を移し、軽く観察する。
武器は持っていないし、かなりの軽装で防具らしい防具もない。糸目爺さんは武闘家なんだろう。
「始め!!」
審判のコールに我に返る。
…糸目爺さんは、動かなかった。
10秒ほど様子をみたが、置物のように動かない。こっちから動くしかないのか…?
…俺、カウンターの方が得意なんだが。
仕方ない。相手はレジェンドなんだし、とりあえず全力で打ち込んでみるか。
正攻法で、真っ正面から突きを繰り出す。鳩尾を狙った筈なのに、虫を払うような動作で軽く右に流された。
だが、少なくとも止められるだろう事は想定内だ。大きく体勢を崩したわけじゃない。間髪いれずに足元に回し蹴りを放つ。
しかし、これも避けられてしまった。しかも糸目爺さんは一歩避けただけだ。当たるスレスレのラインを的確に読んで、最小限の動きで躱されてしまっている。
…マジか…。
これ、勝てる気がしないな…。
「組み立てが甘い」
あ…しゃべった…。
「お主、カエンに鍛えられたな?昨日の闘いを見とっても、カウンターは得意なようだが攻撃の組み立てがなっとらん」
……何もかもお見通しらしい。
「これじゃあ強い敵には簡単に殺されるぞ。相手が本当に強ければ、一発もらっただけで即死だ」
…その通り過ぎて反論出来ねぇ。
ぶっちゃけ俺、先制のスキルは保持してるんだが、カウンターの方が性に合ってるから、今は宝の持ち腐れ状態なんだよな。
「武器を使え。格闘じゃ話にならん」
くぅ~~~…悔しい…!!
「全力で来い。お主、まだ隠し球があるだろう」
糸目爺さん、思ったよりよくしゃべるな。
仕方ない。実際格闘じゃ糸目爺さんの方が遥かに実力が上だ。天と地ほどの差がある。
俺はムチを取り出した。
これならリーチが変えられるから、今よりはマシな闘いが出来る筈だ。
「…布じゃないのか」
…なんで残念そうなんだよ…。




