武闘大会、二日目
「ハク、起きて~!武闘大会始まっちゃうよ~?」
えっ!?
あまりの驚きに目が覚めた。
目を開けると、ユキの心配げな顔の後ろに、飛び乗ってやろうと助走前のジャンプをしているブラウが目に入った。
飛び乗られちゃ敵わない。速攻で起き上がる。
「あっ、起きた起きた」
「当たり前よ。昨日の夕方からずっと寝てるのよ?いい加減起きないと溶けるわよ」
ホッとした顔のゼロと、呆れ顔のルリ。
今の会話からするに、俺はもしや…。
俺の疑問にルリが簡潔に答えてくれる。
「言っとくけど、もう朝よ?」
「よっぽど疲れてたんだね。昨日はブラウが飛び乗ってもピクリともしなかったんだよ」
「バカよねぇ。回復温泉に入ってから寝れば良かったのに…」
マジか…!練習もしたかったのに…。
それにルリの言う事にも一理ある。昨日の夕方から半日以上寝てる計算になるってのに、今一つ疲れが取れていない。
さっさと飯を食って、回復温泉でひとっ風呂浴びて行こう。今日は確実に昨日より強い奴ばっかりだろうからな。万全の体調で挑まなければ。
「あれ?そういえばカエンは?」
いつになく静かだと思ったらカエンがいない。カエンがギルドに出勤するくらい、俺は寝過ごしたんだろうか。
「それが帰って来てないみたいなのよ」
「こんな事初めてだね」
ゼロが心配げに目を伏せる。
火龍なんだからそれくらい奔放で当たり前なんだが、確かに今まで我が家レベルで入り浸ってたからな。何の連絡もなくだとちょっと心配かも知れない。
「でも心配するまでもないわよ!子供じゃないんだし、バカみたいに強いし、その上王家の守護龍よ?危険な目に合いようがないわ」
そうかも知れない。俺も別にカエンの身を心配してるわけじゃないしな。どっちかって言うと…なんか面倒な事がおこったりしてないだろうか…って類の心配だ。
カエンが帰って来れないレベルの厄介事。
…超嫌だな、それ。
「キレイなお姉さんの所にお泊りって可能性も高いわけだし。今夜も帰ってこないようだったら本気で心配しましょ?」
「うん…」
ルリの尤もな言い分に、ゼロもしぶしぶ頷いた。…まだ心配げな顔はしてるけどな。
まぁ今は考えても仕方がないから、とりあえずメシでも食うか。
「今日の朝メシはなんだ?」
「今日はねぇ、ご飯山盛りだよ!シルキーのお姉ちゃん達が、頑張ってねっていっぱい作ってくれたんだ~!」
銀だらみりん、長芋の梅肉和え、ほうれん草の卵とじ、納豆に具だくさん味噌汁、山盛りご飯…。
多過ぎだ。
なんとなく力がつきそうなイメージの料理ばかりで、シルキーちゃん達が気を遣ってくれたのは分かる。嬉しいから、ありがたく残さず食べた。
回復温泉でひとっ風呂浴びて、今日も武闘大会会場に出陣だ!
昨日終日陣どっていた2階のテーブルに行ったら、チャラたれ目騎士が嬉しそうに手を振ってくれた。
…あれ?犬耳紳士とバトルマスターが戻って来てる。
「よう。…お前ら、昨日不戦敗したんじゃなかったのか?」
素直に疑問を口にしたら、鼻白んだ顔をされた。
「…来ちゃ悪いのかよ」
「次回のために上位の奴らの闘い方は抑えておきたいし…ま、応援も兼ねてな」
「ああ、なるほど。…で?レジェンド達の…特訓はどうだった?」
シゴキ、と言いかけて言葉を改める。
バトルマスター達はレジェンド大好きだからなぁ…ヘソを曲げられても困るし。
「いやぁ、素晴らしい特訓だったぞ!!お前達も来るべきだった!」
バトルマスターが満面の笑顔で言えば、犬耳紳士も深く頷きながら言葉を足す。
「久しぶりに限界まで体力を使い切ったよ。やはりレジェンドともなると、鍛え方も違うよな」
…二人の話からは結局何やったのかがサッパリ伝わってけないんだが。
「……?どんな訓練だったんだ?」
仕方なく素直に聞くと、二人は満面の笑顔で言い切った。
「特別な事をやってるわけじゃないんだ!俺達が積んでいる訓練と同じなんだが、とにかく量やスピードが段違いだった!」
「真理だよな!」
な…なんじゃそりゃ!!
二人はめちゃくちゃ満足してるみたいだからいいのかも知れないが…武闘大会をフイにしてまで得たのがそれか…。
「あっ!クロ、てめぇ今呆れた顔しただろう!!」
「言っておくが、これは素晴らしい気付きなんだぞ?なにか特別な事をしなくても、今やっている事の質や量を高めて深さを増せば、レジェンドみたいな高みに登る事が出来ると思えた事自体に値千金の価値がある!」
犬耳紳士にめちゃめちゃ力説された…。
「そうかもねぇ」
チャラたれ目騎士まで納得した顔してるし。…そんなモンなのか…?
そんな事を話していたら、4つの闘技場で一斉に試合が始まった。
今日残っているのは、僅かに16名。約半数はレジェンドだから、ほぼどの試合もレジェンドが出てくる。
観客も昨日より多いみたいでごった返してるし、声援が多くて既に会場はヒートアップしている。
俺は今日、どこまで残れるだろうか。




