第三試合、決着
ゴツ天使は俺の予想より強いダメージを負ったのか、なかなか起き上がって来ない。
こういう時はアレだ。
この前戦士爺さんがスラっちに言ってたアレの出番だ。一回言ってみたかったんだ。
「…これくらいで気絶した訳でもねぇだろう?勿体ぶらずにさっさと起き上がってくれよ。」
ちょっとソフトに言ってみた!
「…………。」
………あれ?
起き上がるどころかピクリとも動かない…?まさか…。
「気絶!気絶です!!」
キーツのアナウンスが響き渡る。
マジで気絶してやがったのか!
「勝者、クロさん!呆気なさ過ぎる決着に、私も少し驚きです!!」
俺も驚いたよ!
…ていうか、あのセリフは相手がヨロヨロと立ち上がってこそ活きるんだな。
相手が気絶してた場合はただのデカい独り言になってしまうリスクを孕んでいるって事を、身をもって学んだ。…恥ずかしい。
内心赤面しつつ、足早に闘技場から去ろうとすると、道すがらおっさん達から口々に野太い声援が飛んだ。
「おおーーーっ!圧勝!!」
「スカっ!としたぜぇ!」
「やったなクロ公!!」
く…クロ公…?
なんか嫌だな、その呼び方…。
「英雄が認めた奴だからなぁ、俺は信じてたぜ!!」
「最高だ!抱きしめてやりてぇくらいだ!チューがいいか!?」
ぎゃっはっはっ!と笑いながら背中をバチンバチン叩かれる。…酔っ払いめ…ホント闘技場かぶりつきで見てる客は濃いおっさんが多いな。
不完全燃焼気味でトボトボとマスタールームに戻る。飛ぶ敵なら、他にも色々試してみようと思ってたのにな…。
「なんじゃい、不景気な顔じゃのう。…勝ったんじゃろ?」
「勝ったけどさ、武器があんま色々試せなかった。」
「青いのぅ。こんな人の多い所で見せびらかしてどうするんじゃ。ギリギリまで秘すれば花じゃぞ?」
ドワーフ爺さんに笑い飛ばされたら、それもそうかと思えてくる。…明日もあるしな。
「それより修理は済んだのか?」
「あったり前じゃ。ワシを誰だと思っとるんじゃ。」
ドワーフ爺さんが差し出した鎧は、あのえげつない傷が嘘のように美しく成形され直していた。
さすがドワーフ爺さん。いつ見ても手際がいい。
ちゃちゃっと元の素材を転写して、修理完了だ。チビ太くんは先に大剣を取りにきたらしいから、もう試合してるかもしれない。
…そしてふと思い出した。
そういえばチャラたれ目騎士を放置しっぱなしだ。悪い事したかな。
「あっ!何処行ってたんだよ~!ちょっとトイレ…とか言って、ナンパでもしてたんじゃないの?」
案の定チャラたれ目騎士はご立腹だった。…申し訳ない。
「小腹が空いたから、軽く食ってたりしたら試合になったんだよ。悪い。」
「ちょっ…なお悪いわ!普通そういう時は一緒に食おうとか思わないわけ?気の利かない男はもてないぞ!」
それは…素で考えなかったな。
俺それなりにイケメンの筈なのにもててる感じがしないのは、まさかそのせいなのか!?
「あ、ゴメン。なんか気にしてた?」
…謝らないでくれ。
なんか切なくなるだろう…!
仕方ない、とりあえず話題を変えるか。
「……それはそうと、お前は勝ったのか?」
「それすら!?」
…なんかもう、申し訳ない…。
気まずい思いをしながら、不貞腐れたチャラたれ目騎士から「もちろん勝ったよ!」という答えを貰う。
ちなみにバトルマスターと犬耳紳士は闘技場に現れず、不戦敗になったらしい。今頃トレーニングルーム前で、幸せな顔で転がっている事だろう。
近づかないように気をつけよう。
それから幾つか試合を見たら、あっという間に今日の対戦が終わってしまった。
第四試合からは、明日行われる事になる。
100人以上いた猛者達の中で、明日な試合に残ったのは、僅かに16人だ。レジェンド7人、他9人。
本当に、バカみたいに強い爺さん達ではあるが、70過ぎた爺さん達に現役がこんなに歯が立たないのは、実際マズイんじゃないだろうか。
余計なお世話だが、少し心配になる。
「じゃっ、明日もお互い頑張ろうな!」
陽気に帰っていくチャラたれ目騎士を見送って、マスタールームに戻る。
ただただ疲れた。
あんなに人がいっぱいいる所に長時間いるなんて事があんまりないから、気疲れもハンパない。フラフラとベッドに近づき、倒れこんだ。
今はとにかく、少しだけゆっくり寝たい。




