チャラたれ目の正体
「いや…どっちかって言うと兵士とか騎士っぽいなと思って」
若しくは傭兵ってとこか。
「…なんで?」
「なんでって…太刀筋が綺麗だから人間相手にしてるっぽいし。なんか発言もちょっとだけ王室よりな感じするし」
レジェンドへの反応も、他の二人に比べたら薄かった気もする。
俺の答えにチャラたれ目はう~~ん…と唸ってしまった。図星だったんじゃないか?これは。
「結構バレちゃうもんなんだねぇ。上手く紛れこんだつもりだったけど」
そう言ってチャラたれ目は苦笑した。
「…ご名答。俺は騎士だよ」
やっぱりか。
騎士ってこんなにチャラっぽいのか。
「あれ?でも騎士って武闘大会には出ないんじゃなかったか?」
確か美人騎士団長のカルアさんが、断腸の思いで出場を諦めたと思うけど。
「え!?なんで知ってるの!?」
しまった!!うっかりしてた!
ビックリ顔のチャラたれ目を前に、高速で言い訳を考える。
ヤバい。ヤバいぞ、これは。
「えーと…その…騎士団って…確か国民に人気あるって聞いた事あるから…出場するなら大々的に紹介するだろ」
苦しい言い訳だが…納得してくれ!
さっきMr.ダンディに顔に出過ぎだと指摘されたばかりだから、かなり不安だが…。
「まぁ確かにね…」
疑いの眼差しで見ながらも、チャラたれ目は不承不承納得してくれたようだ。
「騎士団としては参加しない事にはなってるんだよ。ただ俺は出たかったし、今後のためにも誰か実際に体験しといた方がいいしね。休みを利用して一般枠でちゃんと予選を勝ち抜いて参加したわけ」
なんと…チャラたれ目は外見からは想像出来ないくらいしっかりした奴だった。
それにしても騎士か…もしかしてカルアさんと一緒にトレーニングに来たりした事もあったんだろうか。全く覚えてないな…。兵士や騎士は来る時にだいたい纏まって来るから、へのへのもへじにしか見えないんだよ。
心の中で誰にともなく言い訳をしていたら、チャラたれ目騎士が感慨深そうに溜息をついた。
「……どうした?溜息なんかついて」
「んー?騎士団として出なくて良かったなぁと思ってさ」
「負けるからか」
俺がそう言うと、チャラたれ目騎士は盛大に眉毛を下げた。
「ハッキリ言うなぁ。まぁそうなんだけど」
そりゃあな。カルアさんが泣きながら諦めたくらいだ。出なくてよかったに決まってる。
「なぁクロちゃん」
「なんだ」
「俺、どこまで勝ち進めると思う?」
「は?」
そんなの相手次第だろう。出場者のレベルに幅があり過ぎる。
「レジェンドを除いたとしても、優勝は無理だよねぇ」
「無理だな」
そこは即答だ。
「…だよねぇ。レジェンドは予想以上に衰えてなかったし、冒険者達はレベルの差が大きいけど上位はかなり強いよね?…クロちゃんもまだ底が知れないしさ」
また溜息だ。
て言うか、クロちゃん呼びやめて欲しい。
「俺さぁ、こう見えても騎士団でもかなり強い方なんだよ」
…そうなのか。チャラいのになぁ。
「俺、ここだと普通レベルの強さじゃない?」
「まぁそうだな」
「他の騎士達なんか出たら、もうボロっボロのボロ負けだよね?」
「だろうな」
「騎士団長がさぁ、次までに皆を鍛えあげて優勝するんだって息巻いてるんだよね」
そりゃカルアさんとしたらそう言う気持ちだろうが…
「無理だな」
「だよねぇ。俺、今からもう気が重いよ」
俺も気が重いよ。その訓練をオーダーされるのは俺達だからな。それこそもうレジェンドに鍛えてもらえばいいのに。
…やっぱダメか。
プライドが許さないだろうなぁ。
武闘大会が終わったら早速降りかかってくるだろう難問に思いを馳せて、こっちまでブルーになってしまった。
俺とチャラたれ目騎士が、今考えてもしょうがない事で頭を抱えていたら、第一闘技場の方でつんざくような歓声が上がった。
「なんだ?」
「さぁ?レジェンドでも出てるんじゃない?」
これまでとは打って変わって興味なさげに言いやがった。
騎士だとカミングアウトしてから、チャラたれ目騎士の奴レジェンドへの反応があからさまに淡白になったな。さっきまでは冒険者に紛れるために芝居してやがったのか。
呆れつつも第一闘技場を見てみれば、以外にもそれなりに若い男達が対戦中だった。
「若いぞ。レジェンドじゃないみたいだがな」
「へぇ、じゃあなんで沸いてるのかな。むしろ興味が出てきたなチャラたれ目」
同感だ。第一闘技場が見下ろせる位置まで移動してみると、そこは温度が2度程違うんじゃないかというくらい盛り上がっていた。
声援も凄いが野次も凄い。
何とか内容を聞き取ろうと思ったが、ダミ声が入り混じって最早聞き取る事は不可能だった。
「ねぇねぇお兄さん、すっごい盛り上がりだね~!今誰が対戦してんの?」
チャラたれ目騎士が手近な若い男に状況を聞き出している。こんな時には役に立つなぁ、こいつ。




