第二試合、決着
後ろに倒れ込んだところに馬乗りでナイフを振り下ろしてくるウィズさん。
その腕を掴んで引き寄せると同時に、足の付け根あたりを思いっきり蹴り上げて、頭越しに投げる。その反動を利用して立ち上がると、ウィズさんは早くも体勢を立て直して、俺に向かってくるところだった。
くっそ…本当にスピードだけは一流だな!
だが俺も毎日カエンから鍛えられてる身だ。返し技だけは腐る程練習したからな!しかも今ならそれなりに武器もある。
俺の2m程手前で跳躍したウィズさんから放たれたナイフを布を盾にして弾く。そのまま横ざまに布を振り回せば、オリハルコンの素材を転写した布は大盤の刃物として彼女の体を深く傷つけた。
跳躍していただけに躱す事もままならなかったらしいウィズさんは、一瞬のうちに左の脇腹から右肩にかけて、大きな裂傷を負っている。
敏捷性を大事にした結果かウィズさんはかなりの軽装備だった。胸部以外の素材は脆かったようで、脇腹や肩はあっという間に血で染まって行く。
「くっ…!」
傷の一番深い部分…脇腹を抑えてウィズさんが唸った。額には玉のような汗が浮かぶ。周囲の観客からは、心配げな声が飛び始めた。
「まだやるか?」
仁王立ちでウィズさんの前に立ちはだかれば、彼女は力なく項垂れた。
スピードは本当に速かったが、やっぱり総合的にMr.ダンディの方が何倍も強かったからな。悪いがこれ以上やっても俺が勝つだろう。
「いえ…私の負けだわ」
青くなってきた顔で気丈に笑って、ウィズさんが負けを認める。
俺は二回戦をスピード決着で勝ち上がり、三回戦へと駒を進める事となった。
試合を終えて2階の観客席に戻ろうと歩いていたら、後ろからいきなり飛びつかれた。
ユキやブラウに飛びつかれ慣れてるから咄嗟に踏ん張って持ち堪えたが、この重さ…絶対子供じゃない!!
誰だいったい…!
「試合見たよ~!クロちゃん強いよな!」
……チャラたれ目だった。
「飛びつくな。ガキかお前は」
「またまたぁ!これくらいの衝撃じゃビクともしないでしょ?」
そういう問題じゃない。
だがこういう手合いにマトモに抗議しても時間の無駄だからな…。俺は早々に諦めて他の話題に切り替える。
「お前も勝ったのか?」
「当たり前でしょ。負ける要素がないし」
まぁそうだろうな。確実にチャラたれ目の方が剣技が優れていたし、スピードものっていた。波乱もなく、危なげなく勝利してホッと息をついたら、横の闘技場でヒラヒラしてる俺の鮮やかな布が目に入ったらしい。
「いやぁ、すぐ側で見てたらやっぱりあの女の子ちゃんとはレベル違いな感じはしたよなぁ」
「…そうか?結構ウィズさんの方が攻め気できてただろ?」
「あー、あの子ウィズちゃんっていうのか。確かに攻めてたのはウィズちゃんだろうけど、何発入れても全部防がれてカウンターって、結構レベル差ないと難しいからね」
なるほど…そういう見方も出来るのか。
ただ俺の場合は良くも悪くもカウンターが癖になってるところがあるんだよな。なにせ格闘を指南してくれたカエンの方針がそうだったって言うか…。とにかくカエン打ち込んでくるのをなんとか防ぐ事から修行がスタートして、徐々にカウンターで打ち合えるようになったのも最近の話だしな…。
本当はカウンターは結構危険を伴うから、直していきたい癖ではある。次からは俺ももう少し攻め気で行こう。
チャラたれ目と話しながら2階の観客席に戻って一息ついたところで、キーツの声で場内アナウンスが入った。
「本日お集まりの皆さんに、重要なお知らせがあります」
妙に畏まった案内だが…何かあったのか?
観客達も違和感を感じたらしく、それまでザワザワしたり歓声が飛んだりしていた武闘大会会場は急に静かになった。
「本日は二回戦までの予定でしたが、棄権者が数名でた事もあり、このまま引き続き三回戦までを本日行う事と致します!ご覧いただいている方は、ぜひ時間いっぱいまで試合をお楽しみ下さい!」
周囲から、おおーっ!というどよめきが聞こえてくる。三回戦ともなると、試合のレベルもかなり高くなってくるからな。見応えは上がってくるだろう。
「勝ち残っている方は、くれぐれも帰っちゃったりしないで下さいね!」
…畏まった感じは続かなかったか…。
既にいつもの感じに戻ってるし。
まぁ、明日の試合数が少なくなれば、決勝まで残った場合にも体力がかなり温存できる。
悪くない話だ。
「ま、いいんじゃないの?俺もまだ体力残ってるし」
チャラたれ目も呑気に呟いた。
さっきからやたらこいつは体力の心配してるけど、スタミナ少なめなんだろうか。技術はあっても体力がついていかないと、冒険者は結構キツいよな?
「なぁ、お前って冒険者なのか?」
「へ?なんで?」
思わず聞いてみたら、真顔で聞き返された。




