レジェンド達⑤
必死で止めてくれたMr.ダンディには悪いが、ダンジョンで何か事が起こっているなら見過ごすわけにはいかない。トレーニングルームに向かって足を踏み出した瞬間、またもトレーニングルームから太い腕が現れ、今度は扉の近くでおっさんを介抱していたバトルマスターをむんずと掴んだ。
「うわあぁぁぁ!?」
バトルマスターが情けない声をあげる。
バトルマスターはさすがに重かったのかそのまま引きずり込む事が出来なかったらしい…腕の持ち主が上半身を見せた。
あ…デカ爺さん?
デカ爺さんはバトルマスターを俵担ぎするとあっと言う間にトレーニングルームに消える。
て事は、中にいるのはレジェンド達か。
じゃあ事件ってわけじゃないのか…?
「あ、ゼロ?俺」
とりあえずゼロならモニターで状況が把握出来るだろう。インカムでゼロに話しかける。
「今トレーニングルームってどうなってる?周辺におっさん達がゴロゴロ転がってるんだが」
「あっ!近づいちゃダメだよ?巻き込まれるよ!?」
ゼロが焦った声を出す。
だからその理由が知りたいんだって。
…なんかもう予想できるけどな。
「爺さん達がなんかしてるんだろ?何やってるんだ」
「なんか通りがかりの人捕まえてはトレーニングルームでめちゃめちゃに鍛えてる」
「…なんでまた」
「どいつもこいつも手応えがないって最初は愚痴ってたんだよ。で、最近の若いモンは鍛え方が足らん!ってなって…酔っ払ってくだまきながらウロウロし出した挙句に、トレーニングルーム見つけちゃって…」
うわぁ…。
「動けなくなるまで鍛えてるっていうか、しごいてるっていうか…なんか怖いんだよ~!!」
「止めなくていいのか」
「ムリ!なんか酔っ払ってるし…。それになんでか引きずりこまれた人達も幸せそうなんだよ~」
ゼロの困り果てた声がインカムからダイレクトに届く。モニターで見ていたものの、手の打ちようがなくてやきもきしてたんだろう。
「あ~…爺さん達、老いたりと言えどレジェンドだからなぁ。直に稽古つけて貰えるなら本望なんじゃないか?」
あの屍っぽい奴らもきっと満足している事だろう。なんたって、さっき引きずりこまれたバトルマスターの気合いに満ちた掛け声がトレーニングルームから響いてるし。
あんな感じであのおっさん達も張り切りまくったに違いない。
バトルマスターの雄叫び、すげぇ嬉しそうだし。
…俺は行かないぞ?
試合前に体力使い果たしてどうするんだ。
バトルマスターを放って会場に戻ると、チャラたれ目達にびっくり顔で迎えられる。
「あれ?早かったね」
「ブレンディ君はどうした」
ブレンディ…ってあのバトルマスターか。何となく聞き覚えがあるしな。
「ああ、トレーニングルームでレジェンド達から猛特訓受けてるぞ?」
周り中が一斉にざわついた。
事のあらましを伝えると、その場は騒然となる。反応はもちろん様々だ。
「そこに行けばレジェンド直々に鍛えて貰えるのか!?」
「面白そうだ。場所を教えてくれ!」
鍛えて貰おうと意気込む者、面白そうだと野次馬根性丸出しで見物に行こうとする者…。図らずも客引きみたいになってしまった。
「ああ、鍛えて貰うのはいいが、多分足腰たたなくなるまでやめないからな?まだ試合が残ってる奴にはおすすめしない」
数人が唸り始める。
「くうぅ~~!!!レジェンドの特訓、ぜひとも受けたい!だが試合にも出たい!!」
犬耳紳士が頭を抱えて叫んだ。試合に出る奴は悩みどころだろうな。
「明日の予約とか…」
「そんなの聞いてくれるタマに見えるか?」
その場に居た全員が揃って首を横に振った。そこは全員一致の見解らしい。
武闘大会だって充分に面白い。酔っ払いのレジェンドに倒れるまでしごかれるより、俺は試合したいけどなぁ。
その場には悩んだ顔をした数名と、特訓には興味がないらしい我関せずの観客達が残る。鍛えて貰いたいという奇特な奴と野次馬達はトレーニングルームに行ってしまった。
はぁ…やっと静かになったか。
試合は順調に進み、どの闘技場も第二試合の三組目くらいまでは順番が回ってきているようだ。そろそろチャラたれ目や犬耳紳士も出番が近いんじゃないだろうか。
その時深く項垂れていた犬耳紳士が、ポツリと言葉を漏らした。
「……武闘大会は今後も定期的に行われるって話だったよな…。レジェンドの特訓は今だけだよな…?」
お前、まだ悩んでたのか…!
「俺、行こうかなぁ…」
マジか…アホかお前!
どんだけレジェンドに心酔してるんだ!
マジで理解できねぇ…!
虚ろな目で去って行く背中を呆れ顔で見送りながら、チャラたれ目に聞いてみた。
「お前は行かなくて良かったのか?」
チャラたれ目は肩をすくめている。
「ま、滅多にない機会だとは思うけどねぇ。試合の方が大事だし…ズタボロにはなりたくないかな」
激しく同意したい。




