レジェンド達③
ぶっ飛ばされながらも咄嗟にゼロを抱え込む。そのまま壁に激突して、したたか頭を打った。
痛てぇなこんにゃろう!!
ゼロみたいなひ弱な奴がこの勢いで壁にぶつかったら、下手したら死ぬぞ!!!
今だって俺が庇ったから良かったものの、びっくりして目ぇ白黒させてんじゃねぇか!
「おお、すまなんだ!!まだこんなに威力があるとはな。嬉しい誤算だった!」
デカ爺さんが豪快に笑う。
「笑い事じゃないですよ!うっかり死なせでもしたらダンジョン崩壊しますよ!?武闘大会で民間人も山ほど居るんですからね!?」
Mr.ダンディは青くなってデカ爺さんを説教しているが、もちろんデカ爺さんは笑って聞き流している。
「ついでに王や王子も居るからな…?」
恨みがましく言ってやったが、「そう言やぁそうだったな!」と流される。
ずかずかと近づいて来たデカ爺さんは、俺を右手でゼロを左手で持ち上げると、乱暴に体をはたいた。砂場で転んだ子供の汚れをはたくようなその仕草は、無骨だが少しだけ優しかった。
「まぁ、俺達もまだまだお前らみてぇなガキ共には負けねぇってこった!分かったか!」
コクコクと、一生懸命首を縦に振るゼロ。分かったよ、分かりすぎるくらいにな。
「よーし!分かったらあんまり考えなしにダンジョンを強化するな!敵対したと見なせばいつでも俺達が相手になる!!以上だ!!」
「はい!!」
ゼロが直立不動で元気良く返事をした。これ、絶対勢いに押されて返事したな。
「ちょ、ちょっと…!勝手に話を纏めないで…」
宰相爺さんが慌てているのを見て、Mr.ダンディが吹き出した。
「もういいじゃないですか。さっき闘った感じでは、今のところ本当に悪意はないようですよ?」
…なるほど、俺は試されていたのか。
「あの…僕、カエンやアライン王子からも、少しダンジョンの進化を緩めるようにって言われました…。これからはちゃんと気をつけます」
場が少し柔らいできて安心したのか、ゼロは少しどもりがちにそう言った。最初は結構毅然としてたけど、相当頑張って気を張っていたんだろう。
Mr.ダンディはゼロに優しく微笑んでから、今度は戦士爺さんに向き直る。
「あ、あとグロス様もあんまりあのスライム君を無責任に挑発しないで下さいね。無闇に強くなられて困るのはこっちなんですから」
あ、戦士爺さん怒られてる。
なんだかんだ言って、Mr.ダンディが一番仕切ってるよな。
「ルフィード様も。これ以上はさすがにカエンに叱られます。皆さんまだ試合があるんですからこれくらいにしましょう」
Mr.ダンディにたたみかけるように言われ、宰相爺さんもぐぐ…と唸っている。
「だが…!」
「彼らのおかげで財政的にはとても改善してきてるんでしょう?裏では感謝してる部分もある癖に、あんまり困らせないでやって下さい」
「お前…!交渉事の時にそういうのは言わんでいい事だろうが!」
…Mr.ダンディ…爺さん達の扱いがうますぎる。宰相爺さんまでうまい事あしらわれているのは、長年の付き合いの成せる技なんだろうか。
「さ、君達はもう行きなさい。ここは私が何とかするから」
Mr.ダンディが言う後ろから、今度はデカ爺さんが声を張り上げる。
「おいボウズ!ついでに姉ちゃん達に酒とツマミ頼んどいてくれ!!」
「ちょ…ゴーズ様まだ試合あるでしょう!あなたは酒はまだほどほどになさってください!」
「ちっと飲んだくれぇが調子がいいんだよ!いいから持って来い!!」
ゼロが苦笑しながら出て行った。多分注文を伝えに行ったんだろう。
それにしてもMr.ダンディ…苦労してるんだな。あの濃いメンツを一人で相手するのか…。心の中でご愁傷様…と手を合わせ、俺はその場をそっと後にした。
会場に戻ると例のごとくチャラたれ目達3人に囲まれる。レジェンドと英雄に「話がある」と連れさられれば、当然の反応かも知れないが。
「何だったんだ!?」
「結構長かったよな!」
頼むからキラキラした目で見ないでくれ。いい年した大人なんだから。
しかし困った。適当な言い訳を考えて来なかった…ありのままを言う訳にもいかないし。俺が答えに詰まっていると、3人は次第に心配げな顔になってきた。
「 もしかして…アラレア様から怒られたのか?」
「まぁ怒られるだけの事はしたからなぁ」
「いや、怒ってるのはオーグ様の方じゃないか?さっきも睨んでたぞ?」
俺そっちのけで、3人で盛り上がり始めてしまった。その隙に一生懸命適当な言い訳を考える。…ああ、ゼロと軽く打ち合わせしてから帰ってくるんだった。
「で?アラレア様とオーグ様、どっちに怒られたんだ?」
なんで怒られた事前提なんだよ。まぁ別件でレジェンド総出で怒られたから、当たらずとも遠からずではあるが…。
て言うかMr.ダンディとそのお師さん、どっちがアラレア様でどっちがオーグ様なんだろう。
最初っから躓いてしまった。




